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夏よ、さようなら

あなたは誰に愛されるか選ぶことが出来るのよ
そういった母の言葉が
紛れもなく嘘偽りであることを知ったのは
十五歳の夏だった
誰に愛されるかも誰を愛するのかも選べずに
雪崩のように迫る感情にただ
うずもれていく自我を持て余した

さようなら

きっと明日も
同じ通学路、
同じ教室、
同じ言葉、
同じ時間、
共に生きているはずなのに
開け放った窓のように
もう取り返しがつかない魔法の終わりは
僕の心臓をバタバタと煩く旗めかせた

宝石のように輝いた記憶が
ジワジワと
僕とかつて僕だったものを蝕んで殺した
だからあの日から僕はもう僕でないし
世界の成り立ちが君の視線で移り変わるような
不確定的世界線でもなくなった

結局のところ
あれから君をどれだけ見つめても
かつての感情は帰っては来なくて
それは僕の感情が
僕だけのものだと思い込んでいた僕にとって
思春期の終わりだった

それから何度季節を数えても
僕に夏が来ることはなくて
あの日死んだかつて僕だった何かが
夏を永久に連れ去ってしまったことを知った
そうして僕は名前の無くなった季節に

自由

と名前をつけて
泣かないように空ばかり見ている

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