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春、世界の夜明けにて

春になると、私は思い出す
いつかの煙草臭い、高速バス乗り場を思い出す
生暖かい風の吹く夜明けに混ざった、友の笑い声を思い出す
二日酔いの頭を抱えて流し込んだ、カップ麺の味を思い出す

春になると、私は思い出す
憧れたかの人の揺れた髪から、離れない視線を思い出す
雨上がりのぬかるんだグラウンドから、立ち上る土の香りを思い出す
世界が寝ている間に光るデスクライトの下で、書き付けた数式を思い出す

春になると、私は思い出す
幾度となく見たはずの花の名前を思い出す
幾度となく迎えたはずの季節の名前を思い出す
幾度となく湧き上がるざわめきを思い出す

春になると、私は思い出す
あれから、散って咲いて
繰り返した毎日が
延々と背後に続くことを
あれから、何度も裏切られた
世界も自分も
同じ夜明けに向かうことを

そして、春になると世界は
私を思い出す
春になると世界は
ようやく私を見つけ出し
私の長い夜は明けていく

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