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君は遠雷


失った、と悲しむのはいつも
それを失くす少し前のことで
本当に失くしたことに気づく
その涙はたったふた筋で熱い

飽きるほど呼んだ誰かの名前
当たり前になったままの時間
戻らないと言い聞かせ続けて
願いが叶うように大人になる

終わってなんかいなかった事
始めなかったのは自分自身で
慰めにもならない自問自答を
想い出だなんて勘違いをして

夕立に混じったあの日の君の
優しい声がつま先に滲みてる
もう大丈夫とは言えないけど
雨宿りの仕方は覚えているよ

ここから見えない潮風の薫り
運ばれた夏色に空が染まって
乾いてく。濡れた道も面影も
走るから、胸が痛くなるまで

鼓膜の奥、君は遠雷のように

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