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上出遼平さんの「僕たちテレビは自ら死んでいくのか」に思いを同じくするメディアの人は多いのではないか

メディアに関わる者として「群像」4月号の上出遼平さんの文章は心を揺さぶられて仕方ありませんでした。

簡単に要約すれば、テレビ東京のディレクターである上出遼平さんが発案した新規メディア(テレビ局だがあえて「映像を捨てた」音声メディア)のコンテンツがテレビ東京の社長判断でお蔵入りとなったという件を、社に断らずに顛末を文章にして発表した・・・というもの。

上出遼平さんはテレビ東京の社員として、特に世界の「ヤバい人」の食事風景を通してその人物や現代社会のリアルな姿を伝える「ハイパーハードボイルドグルメリポート」で話題となった人です。

これは書籍としても刊行されていて、「番組は見てるから本は読まなくても大丈夫」と思っていた人はそんなヤワなものじゃないので今すぐ読んだ方がいいレベルのものです。番組の再録どころではない、カメラでは捉えられなかった取材の濃密な課程が、ご本人によって書き記されています。

またバンド「オナニーマシーン」のボーカル・イノマーさんのがんの闘病から臨終に至るまでをずっと付き添って撮影していたものが「家、ついて行ってイイですか?」で放送されこれも大変な話題に。

最近独立を発表された「ゴッドタン」「あちこちオードリー」で知られる佐久間宣行さんとか、「モヤモヤさまぁ~ず2」で知られる伊藤隆行さんらと並んで、かつてはテレビ界で格下と見られていたテレビ東京が近年では就職希望ランキングでテレビ業界1位を獲るなどその急激なイメージアップに貢献している一人である、と言えると思います。

その切実な問い

この内容はぜひ「群像」で読んでいただきたいのですが、「予算はなくても自由な社風」に一見見えるテレ東で、(そうは言っても厳しい現実をやりくりしながら社員たちが仕事に当たっているだろうことは想像できるのですが)こういうことが起こるのはちょっと想像以上でしたし、新規プロジェクトの必要性を説きながら、現場では旧来の道理を押し通そうという考え方が残っていることにはかなり意外性を感じました(事件が起きてもどこ吹く風で一局だけアニメを流す、あのテレ東でです)。上出さんはこの文章の終わりの方でこのようなことを語っています。

テレビはとっくにジリ貧である。取れない視聴率に下がる広告費。地上波放送枠を減らしもせず、人員を増やしもせずに新たな放送外収入獲得を命ぜられれば従業員は疲弊する。その上「働き方改革」のおかげで寝ずに働いても十分な残業代はもらえない。下請け製作会社への皺寄せはもはや目も当てられないほどになっている。そこへきてYouTuberの真似事のような番組を作っては鳴かず飛ばずで閉口するばかり。今我々は何かを守っている場合ではない。いや、全然守れていないのだ。近視眼的な損得勘定は、明確に我々を一歩また一歩と暗い水底へと歩ませている。

私は小学生の時は家に帰ってから寝るまでずっとテレビを見ているようなテレビっ子だったのですが、そんな私もここ数年、めっきりテレビを見なくなりました。必ずチェックするのはまさに「あちこちオードリー」と「ゴッドタン」「町中華で飲ろうぜ」くらいで、あとは話題になっていれば全録レコーダーでそこだけ見るという程度です。こんな時代が来るとは予想もしませんでした。

そしてネットの進化によってテレビだけでなく、新聞や雑誌などあらゆる媒体、そしてCD販売が軸でなくなった音楽業界や、ファストファッションの流行で枠組みが崩壊寸前と言う人もいるアパレル業界など、似たような波を感じている業界は多いのではないかと思います。

確かにレガシーな業界はそのままでは崩壊の危機にあります。だからこそ本当に死んでしまう前にあらゆるチャレンジをしたい、それはネットコンテンツの上澄みをお手軽に狙うというのではなく、もっとエネルギーをかけて本質的なチャレンジを。そうでなければそれは微妙な延命策にしかならない・・・と思っている作り手は多いのではないかと思うのです。

しかし一番大事な会社という枠組みが結局それを潰してしまう・・・もちろんこれは上出さんの側から見た証言なので、上層部からすればもっと違う言い分があるのかもしれません。ただ会社の後押しなしに、社員がチャレンジをしていってたまたま上手くいったらその時だけはホメる・・・みたいな都合のいいやり方では、誰も挑戦する人はいなくなってしまうでしょう。ウェブなどの業界に移ってしまうはずです。

そうした中、メディアに留まって声をあげる存在というのは極めて大事なもので、もしこの文章の発表で会社でなんらかの処分とかそういうことになるのであれば、ここはなんとか寛容に踏みとどまって欲しい・・・外野ながら切に思います。

また一方で、今回の「群像」を読んで共感するメディア人は多いとは思うのですが、実際に同じように行動に移せる人ははたしてどれくらいいるものなのでしょうか。本記事のタイトルとして「上出遼平さんの『僕たちテレビは自ら死んでいくのか』に思いを同じくするメディアの人は多いのではないか」と掲げはしましたが、実際に行動が伴う人は極めて限られてくるとも思います。

残された時間はそう多くないように思います。行動を起こせるか、そこは私も含めて問われるところでしょう。

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