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成長企業が「身の丈SR活動」で機関投資家と対話してみた

MasaHara@freee

はじめに

freeeファイナンス統括の原です。freeeは、本年9月に上場後2回目となる定時株主総会を開催しました。バーチャルオンリー株主総会の開催方式や、議案に込めた思いについては、廣瀬(コーポレートガバナンスチーム)のnoteをご覧ください。

廣瀬のnoteにもあるとおり、今回、事前のシミュレーションでは低い賛成率が懸念されていた議案がありました。具体的には、社外取締役(監査等委員)の独立性と、監査等委員である取締役への株式報酬付与、の2議案です。

それにもかかわらず、全議案の賛成率が90%を超過する結果となりました。これは、招集通知での記載の工夫に加え、大株主との対話を仕掛けにいったことが背景にあると考えています。

今回は、大株主との対話につき、「身の丈SR活動」と題して、リソースに限りのある上場後スタートアップが株主とどう対話して賛成比率を高めたのか、参考までにご紹介します。

(これがSRのベストプラクティスだとは思っていませんが、主に成長企業に携わる方を対象に、一つの参考になればと思って共有させていただく趣旨ですので、ご理解賜れますと幸いです。)

SR活動とは? 通常どんなことをするのか?

IR(Investor Relations)とSR(Shareholder Relations)は、似ている言葉ですが、大雑把に言うと下記のような違いがあります。

IR(Investor Relations)は、株主でない投資家(今後の潜在株主)も対象に含み、議論の中心は、経営戦略・方針、業界環境、業績など、ビジネスに関する内容が中心です。IR活動は、上場企業である以上、程度の差はあれど、ほぼどの企業でも、決算関連資料の開示や、機関投資家・個人投資家との面談という形で実施しているかと思います。

一方、SR(Shareholder Relations)は、既存株主を対象に、(対機関投資家では)株主総会の重要議案等につき運用担当者・議決権行使担当者と対話を行うこと、です。株主総会招集通知の開示・発送は会社法上の義務であるためどの会社も行っているかと思いますが、それ以上の積極的な活動は、企業によって実施状況はまちまちなのが現状だと思います。

大企業であれば、株主総会の前などに、IR/SR担当者が大株主と能動的に面談を設定することはこれまでも行われてきました。しかし、リソースに限りのある成長企業においては、IRについて聞くことは多くても、SRについてはあまり耳にすることがありません。freeeにおいても、昨年は、議決権行使担当者からの質問や面談リクエストに対応するのみで、こちらから議案の説明を仕掛けにいくことはありませんでした

しかし、今年は、低賛成率が予想されていた議案に関して、「freeeとしては議案の正当性に自信があるのだから、株主と積極的に対話しにいくことで賛成率を上げることができるのでは?」という思いから、こちらから能動的にSR活動を行ってみました。

なぜ、招集通知の記載拡充だけでは限界があるのか?

招集通知での記載拡充を超えて、より能動的なアクションを取るに至った背景は主に2点あります。

一つ目は、議決権行使助言機関や運用機関において、企業の個別事情が十分に斟酌されていない可能性があると感じたことです。

廣瀬のnoteにも書かれている通り、各議案に対するfreeeの見解は、招集通知で丁寧に記載しました。しかし、必ずしも全ての議決権行使助言機関や運用機関において丁寧に招集通知を見て議案の背景まで確認いただけない可能性もあると考えました。(議決権行使助言機関においても、ガイドライン上は「個別事情を斟酌し....」という記載がありますが、実際には日本株担当者の数が限られていることもあり、個別の議案精査に割けるリソースには限界があるという事情もあると思います。)

しかし、freeeとしては、議案の正当性には自信がありました。したがって、賛成比率を上げるためには、大株主と直接対話をすることで、賛成率を上げようという発想にいたりました。

二つ目は、議決権行使に必ずしも関心が高くなく、行使せずに終わる機関投資家も存在する、ということです。

freeeには、いわゆる大手のロングオンリー投資家だけでなく、ソフトウェアセクターに中長期目線で投資するヘッジファンド・ファミリーオフィスも大株主として比較的多く存在します。こうした投資家の一部は、議決権行使担当者を抱えておらず、昨年の議決権行使結果を見ると、議決権が行使されていないこともありました。こうした投資家に対して、議案の背景を説明し、確実な議決権行使を促すことで、得票率を上げられるのではと考えました。

リソースに限界のある中で、いかに効果的に「身の丈SR」を行うか?

このように大株主と対話しようと思っても、リソースの限界(例:スピーカーの時間不足)から、通常のIRを行いながらSR面談に割く時間が限られてしまうという課題を感じていました。また、定常的にSR面談を行っている大企業と異なり、大株主に対して能動的なアプローチを図るのは初めての試みであったため、議決権行使までの期間内に、効率良く、効果的なface to faceの面談を設定して実施する自信がなかった、というのも正直なところです。

そこで、自分たちの現状のリソースの範囲内で、最も効率的かつ効果的に株主と対話をするためにはどうすべきか考えてみました。

その結果、主に以下3点の方針を取ることにしました。
①能動的なアプローチは大株主に絞る
②まずはメールで背景を丁寧に説明する。必要に応じて、メールまたは面談でフォローする
③通常のIR面談の機会も活用して議決権行使のリマインド(&質問・反論がないかの確認)をする

それぞれのポイントについて説明していきます。

身の丈SRポイント①:能動的アプローチは大株主のみにフォーカスする

賛成率を上げようと思えば、保有状況・連絡先の判明している限り全ての株主に連絡をすることも可能でしょう。しかし、大株主のみに絞って、能動的なアクションを取ることにしました。

一つ目の理由は、当然ではありますが、保有株式数が多い株主のほうが議決権を多く持っているため、保有株式数を問わず全株主にアプローチすることは効果的とは言えないためです。これは、大企業が行っているSR活動でも同じであり、大株主に絞って10社前後~数十社と個別面談を行っている事例が多いと思います(少なくとも自分が知る限りにおいて)。

二つ目の理由は、より多くの株主にバルクでアプローチした場合、こちらの主張を一方的に届けることはできても、必ずしも実のある対話にはつながらない(株主からの質問や面談リクエストへの責任もった対応が十分にできない)と判断したためです。

では、対象となる大株主をどのように絞ったかというと、①株主名簿(信託銀行による実質株主判明調査結果を含む)、②IPO時・海外公募増資時の割当先リスト、③日頃の会話から類推できる保有状況、を参考にしました。(業界の方には既知の内容ではありますが、ヘッジファンドやファミリーオフィスの保有状況は株主名簿+実質株主判明調査では分からないことが多いため、いくつかの情報を寄せ集めて判断する必要があります。)

これらをもとに、「どの程度の議決権比率までカバーしたいか」と「どの程度であれば責任感をもった対話ができるか」のバランスを考えて、約20件の株主にアプローチすることにしました。また、単純に議決権比率で区切っただけでなく、日頃から経営戦略やガバナンスについて深い対話が出来ていて、実のある対話ができそうと考えた株主にも追加的にアプローチしています。

なお、上記のとおり、大株主に絞ることにしましたが、これはあくまで「能動的なアプローチ」についての話です。もちろん、能動的なアプローチの対象ではない株主から、総会議案について質問や議論が寄せられることも一部ありましたが、当然これには真摯に対応しました。

身の丈SRポイント②:まずはメールで丁寧に説明。個別に説明する、という要素を大切に

大株主に能動的にアプローチする際、とりあえず面談を申し入れるのではなく、「まずはメールで出来るだけ背景・主張を説明して、必要な場合に面談する」という方針を取りました。これは、とりあえず面談するというのは必ずしも効率が良くないですし、メールで丁寧に説明すればこちらの主張を理解いただける可能性もあるだろうと判断したためです。(もちろん、責任ある対話をするために、仮に全ての大株主が面談をリクエストしてきた場合に対応できるよう面談用スロットは抑えたうえでメールを送っています。)

そのうえで、かなり細かい話ですが、メールを送る際にも細部まで気を配りました。

・バルクメールで送るのではなく、普段から付き合いの担当者を個別に宛てて送信(議決権行使担当者が別にいる場合には転送してねと一言)
・IRチームがメール送信するものの、”on behalf of CFO”と明確に記載し、CFOもccに入れることで、マネジメントからオーソライズされた意見であることを示唆
・論点となる議案について、議決権行使助言機関等が主張する反対意見とそれに対するfreeeの考えをクリアにメール本文中に整理(招集通知を見てね、だと、議決権行使に関心の高くない株主からは読み飛ばされる可能性もあると考えた)

これらは、内容をちゃんと確認いただき、返信してもらえるよう意図をもって行ったことですが、実際に、ほぼ全ての送付先から返信をいただけました。また、一部、返信がなかった株主に対しても、1週間後くらいに「どうですか?」とリマインドしてみたところ、結果として全ての送付先から返信をいただけました。

状況によって異なるかと思いますが、株主との対話につなげるには、このように、バルクメール感を出さない工夫、そして、内容をわかりやすく伝える工夫、も大事だと改めて感じました。

身の丈SRポイント③:通常のIR面談でも重ねてリマインドする

更に細かい点ではありますが、能動的にアプローチした大株主のうち、通常のIR面談がその時期にスケジュールされていた株主については、IR面談において、「議案に関する考え方を説明する(した)ので、ご確認お願いします。もし疑問があったり、議論が必要であれば話しましょう。」と必ず伝えるようにしました。

小さなことではありますが、IR面談でのリマインドも、議案の説明についてのメールを確認いただける確度を(ほぼノーコストで)高める一つの手段になったかと思っています。

これらの結果、何が起こったか

こうして大株主にメールでアプローチした結果、概ね、「議案の趣旨をよく理解した。社内検討したけど、全議案賛成で行使する」という返信を頂けました。また、一部の株主からは、質問や反論が寄せられたため、メール又はフォローアップコールで追加的に対話を行いました。

この取り組みもあり、全議案の賛成率は90%超となり、事前の議決権行使シミュレーションでの想定を大きく上回る賛成票をいただき可決することができました。

もちろん、個別アプローチした全株主から賛成が得られたわけではなく、中には、反対票を投じた株主がいたことも事実です。ただ、反対票を投じた株主とも、友好的かつ建設的な対話ができました。株主側の議決権行使担当者から、こちらの主張を理解したうえでの丁寧な背景の説明が提示され、「また引き続きガバナンスについて議論しよう」と前向きなメッセージが寄せられました。

重要なのは「対話」のきっかけであり、賛成率を高めることだけが目的ではない

上記のような能動的アクションを取るにあたり、留意したことがあります。それは、やみくもに声掛けして「賛成をお願いします」と働きかけるのではなく、あくまでも自分たちの考えの背景を説明し、対話の機会を作り出すこと、です。また、会社提案に賛成するにせよしないにせよ、確実な議決権行使をお願いするということです。

前項で記載したように、賛成票を得たことだけでなく、反対票を投じる株主とも対話ができたという点も、今回のアプローチの大きな収穫だったと思っています。

日頃のIRに基づくリレーションも大事

今回、こうした結果につながったのは、まず、招集通知における手当を通常以上に丁寧に行ったことが大前提にあります。

そして、個別の対話ができたのは、日頃のIR活動を通じて、機関投資家の担当者とバイネームでの関係構築が出来ていたことも大きく作用していると考えています。お互い、顔が思い浮かぶ間柄だからこそ、率直な意見交換をしやすく、こちらからアプローチした際の反応(賛成か反対かは別として)も良いのだろうな、という点は肌で感じました。

さいごに

今回の取り組みを通じて我々も気づいたことは、議決権行使助言機関や一部大手運用機関のポリシーが絶対的なものではないということです。自社の議案に自信があるのであれば、日頃からリレーションのある機関投資家に丁寧に説明することで、個別事情をより斟酌いただける機会は十分あると思いました。

また、IR/SRに割ける人的リソースが限られる新興企業においても、工夫次第では、効果的かつ効率的な対話を行うことも可能と感じました。(一方で、今回の件よりも賛否が分かれそうな議案については、メールでまずアプローチする手法を超えて、より時間を割いて対話をしたほうがよいことがあるかもしれません。また、企業フェーズの進展に応じて、より継続的に議決権行使について大株主と対話していくこともより重要になってくると思います。)

今後も、企業の進化に合わせて、色々な論点は出てくるかと思いますが、その際には、臆せず株主と対話をしていこう、と決意する良いきっかけになりました。

さらに・・・ファイナンスIRチームのメンバー募集中です

そして最後に、、、freeeのIR活動を更に進化させるべく、ファイナンスIRチームでは新たなメンバーを募集しております(2021年11月26日現在)。

募集要項はこちらをご参照ください。

IR及びファイナンス業務の経験は不問です。少しでもご関心あられる方は、私がカジュアル面談でお話をさせていただきたいと思います。

以上、長文ですが、お読みいただきありがとうございました。

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MasaHara@freee
freeeファイナンス統括として、IR、資本政策、FP&A等を担当。新日本監査法人でキャリアをスタートした後、野村證券とモルガン・スタンレーにて投資銀行業務に携わり、2019年5月にfreeeに参画。https://twitter.com/haramasa1980