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シフトチェンジ、スローダウン –真夏の動物園–

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何層にも重なって押し寄せる蝉時雨。
南国の固有種までも暑さにうだり、その面持ちは甘くけだるい。
海岸近くの動物園、ファインダーの向こう側の世界。
目線を合わせて手を添えると、ガラス越しにペンギンがつつく。
こつこつこつと嘴が響かせる音、熱を持つ生命の音。
弧を描く水槽の前にしゃがみ込む、まだら模様のアザラシと目が合う。
繰り返し回遊するなめらかな流線型、毛皮に覆われた哺乳類の仲間。
陽射しは灼熱、乾いた空は海みたいな濃いブルー。

赤い赤い大地、その地平線を思い出す。
濃紺の夜空、眩しいくらいの星の煌めき。

腰をおろす朽ちかけたベンチ、草原に伸びるキリンの長い首。
太く長い睫毛と、黒目がちな瞳。もさもさと食むの草か葉は美味しい?
木陰で引いていく汗を感じて、この類の自由がいちばんだって実感する。
野生に面して感じる自由。
気を緩ませると危なくて、それなのに心地よい。
命を守る緊張感は、生き物の本能を呼び起こし心身の活きが蘇る。
心や頭に偏重しない、種としての生きる力。
心や頭が重いのがヒトだから、暮らしの中の疲れや緊張もヒト科の宿命かもしれない。
それでもやっぱり気持ちいい、賦活されて感度が増す深い深い本能的なアンテナ。
身体を運んで、人間社会モードからシフトチェンジ。歩くのも少しゆっくりにしてその場の大気をめいっぱいに吸い込む。
一部だけ小刻みな葉の動きに気がつく。
類人猿に威嚇されておののく。
草食動物の求愛を受けて退く。
大型の鳥類と視線が合って、どちらが先にそらすか勝負する。
ティッシュみたいに軽くやわらかく舞う蝶に惹きつけられる。
それらのベストショットは、そう簡単にはきまらない。

趣向を凝らした園内には、大陸ごとに植生の異なるジオラマが展開する。
安全な敷地、人工のビオトープ。
地球のミニチュア。
そこで撮ったに相応しく、当日のダイジェストは限りなく平和で、どこまでも穏やかだ。鋭さの片鱗も見当たらない、ゆるくやさしい印象を残す。

生々しい鋭さと、そこに同居する慈愛と憂いを映すなら、一歩踏み出してほんとうの野生に近づくことが必要かもしれない。
彼らを憧憬する。渇望をトッピングして、この場所からしか撮れない風景を遺す。

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