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高級時計とペンギンの空間

展覧会にはまだ間に合う。

日曜日の夕刻、雨天を切り裂くように車を走らせた。週末の安らぎへの惜別をその表情に浮かべた人々、街は少し寂し気な薄水色。はしゃいだ休日にきりっとした線を引き、明日へと向かう精悍さも入り混じる、夜のとばり。地下の駐車場は少し混み合う。英気を養う美味なるディナーを求める人らで。

会場に、人はまばら。この街でいちばん洗練されたショッピングモール。いちばんというのは、個人的な評価。かまわない、居心地のよさはいつだって個人的な感じ方で決まる。品よく整った店構えと、上階まで高く通った吹き抜け、人間が創った心地のよい空間に、地球に発生した気持ちのよい景色の一片一片が飾られている。大型のパネル、青く深い海の透き通るような存在感の向こうには、ひんやりとして鋭利な光を放つ高級な装飾品。ミスマッチかに思えたが、その組み合わせは意外に素敵な世界観を見せてくれた。作品と作品の間をただ通り過ぎる人、足を止めて少しだけ眺める人、キャプションを食い入るように見つめる人、引いた角度からファインダーを覗くと、人々も含めて、その空間をまた新たな作品として切り取れる。

大きく引き伸ばしてプリントされていると、よく知った作品でも迫力がちがう。イルカの、アザラシの、水鳥の、それぞれから息遣いが聴こえてきそう。ひときわ目を引いたのは、平たい大地に点々と散らばるペンギンたち。みずみずしい浅瀬、空の映る天然の鏡。どこまでも続きそうな水平線、ずいぶん広めのパーソナルスペースをとって、そこかしこに点在する、お腹の大きな飛べない鳥。君たちは飛べないけれど、海のなかでは飛ぶより速く泳げるんだよね、知ってるよ。突撃するような勢いで行き交う姿を見て、なんだ飛べるじゃないか、と思ったんだ。陸の上では、不器用でコミカル。本当に鳥なのかい?と言いたくなるような、おもしろい形。ペンギンは不思議。

地球と生き物とフォトグラファーの合作、音が聴こえてくる奥行きと深さのある作品群に身を浸した。海や森や動物を撮るのが楽しいと強く感じた。そこに写る人たちも、また自然の一部として撮れたなら、地球の美しさをまだ少しは遺せるのかもしれない。

水中写真の間を通り、会場を後にする。海中の音を思い出す。胎内と似るともいわれる、太古から続く海中の響き。息をするために顔を出す。雨上がりの空には、二重、三重に架かる虹がある。計画しても、撮影するのは難しい。雨が続くときの工夫、いくつあってもいいだろう。

雨上がりを狙う、虹の写真を撮るために。


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