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20. 数字の性別 【マジックリアリズム】

「4と7って女性だと思わない?」

「どういうことかな」

「3と6は男性」

「奇数か偶数かは関係なさそうだね」


唐突に切り出しても、マスターはとても滑らかに応答する。
今夜は少し肌寒い。
クリーミーでコク深いシチューのほっくりとしたポテトがゆっくりと身体を温めてくれる。骨なしの鶏肉もほろほろとやわらかい。


「うん、ちゃんとした理由はないような感じ」

「男の子が4歳とか7歳のときには違和感があるとかでもないんでしょう」

「ないよ。人間の属性とは別っぽい」

「ちなみに、それ以外の数字は?1とか5とか8、9…」

「1と9は中性的で、5も中性だけどやや男性的。8は、無性」

「無性もあるんだ」

「うん。男の要素も女の要素も持ってない」


手元からしゃりしゃりと音を立ててブラッドオレンジのソルベを削りながら、マスターは続けた。


「前に話してた、音が形とか、音楽が色とか、それと似てるね」

「近いかも。根拠はないもんね、でも確かに感じるから」

「困ることはある?そういうことで」

「あんまり意識したことはないけど、しっくりこない程度がひどいと、耐え難いかな。ねえ、すごく美味しそうではあるけど、マスター寒くないの?」

「寒いのには強いほう。それに、寒いっていっても亜熱帯だよ、ここ」

「慣れって怖いねえ、昨年の冬は雪の中でダウン着て写真撮ってたのに。もうすっかり身体がこっち仕様になってるみたいだ」

「適応力っていうのだね。どこに行ったってある程度は慣れるものだよ。気候とかはね。それより、しっくりこない程度がひどいと耐えられないってどんな?」


濃いオレンジ色のソルベは甘酸っぱく、ごくわずかに心地よく苦く、食後にさっぱりとした余韻を加えてくれる。


「部屋の壁の色がうるさいと、長く居るのは難しい。息苦しくなる。音と映像が合ってないときもしんどいかな。あえてはずしてる面白さならいいんだけど、そうじゃないとむずむずしてきて、酸欠みたいになる」

「トニーくんなりの整合性がかなりしっかりしていて、整え切れない世界はなかなかに生きづらい場所だね」

「そうかもしれない」

「わるいっていうことじゃないよ。アンテナの精度がきめ細かいってことでしょう、味わい深いよね、そのぶん」

「ぴたっとくるときは、恍惚っていう感じだよ。五感のプールにずっと浸かっていられるくらい気持いい。マスターもご飯作るとき、同じでしょう?」

「恍惚っていうふうにはならないけど、ピコーンってなるかな。ううん、表現が乏しいな。なんていうか、光が走るね。静かな稲妻。真っ直ぐに落ちてくるよ、TRUE!って言われてる感じかなあ、うまく言えないけど」

「味だもんね、自分が味つけしているんだもんね」

「だから今晩は、なんとなくシチューの後にさっぱりしたものって思ってね、甘ったるいのは違うし、バニラ系じゃ質感が似通ってしまうし、ちょっとした厳かな鋭さのあるのがよかったんだ。それで、ブラッドオレンジ」

「寒いのになって思ったけど、食べてみたらちょうどよかった。なんかすっきりして」

「そうでしょう」


後味のさっぱり感がソルベによるものか、会話によるものかわからなかったけれど、どちらでもいいと思った。
今夜もいつもと変わらず、味わい深い晩ご飯の時間を過ごすことができたから。


To be continue..

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