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正論を声高にいう人

 先日千代田線に乗った時のこと、夕方の帰宅時間でそこそこ満員の車内。大手町からメガネをかけた賢そうな中学生くらいの女の子とそのお母さんらしき二人が乗り込んで来た。「車内ではマスクを着用の上、会話はお控えください。」というアナウンスが流れている。扉がしまり電車が発車すると女の子が

「混んでるじゃん!なんで半蔵門線に乗らなかったの?私いつもこの時間半蔵門線に乗ってるけどもっと空いてるよ。」

「なんで半蔵門線に乗らなかったの!」

と、ずっとお母さんらしき人に詰め寄っている。お母さんは気にして指をあて「会話は控えましょ。」というのだか女の子はまったく聞く耳を持たない。

「半蔵門線だったら下手したら座れたよ。なんで半蔵門に乗らなかったの?」

きっと千代田線と半蔵門線の重なる北千住とか南千住方面まで向かうのだろう。斜め横にいた私も驚くほど20回くらいは繰り返し言っていた、そこそこ大きな声で。みんな黙っている車内では特に大きく響いていた。女の子は空いてる電車でお母さんを座らせてあげたかったのかもしれない。私はいい行き方をしているのよ、とアピールしたかったのかもしれない。確かに君の言うことは正しいのだろう。この時間は千代田線ではなく半蔵門線を選ぶべきだったんだ。でもね、もう電車は動い出してしまっているし、おかあさんはすごく困っているよ。盛んに指を口の前にもってきてシーっというポーズをしながら周りを気にしている。それでも収まらない君は湯島を過ぎてもまだ

「なんで半蔵門線に乗らなかったの!」

と繰り返していたね。私は根津で降りたのでその先どこまで話していたかはわからないけれど。

 最近仕事で製作や制作に関わることが多い。コロナの影響もあり計画やスケジュールが変更を余儀なくされることがある。ケツは大抵動かないので、納品日は変わらずでもろもろ調整してなんとか間に合わせるという現場がほとんどだ。ケツが動かせないのだから各社協力して調整しをかけ無駄を省き、縮小するところはして、なんとか間に合わせるべくがんばるのだ。コロナの影響は大きく、資材の調達が遅れることもあれば、予算が削られるなんてことも多くある。それぞれ関わっている会社が見積もりを見直し、デザインを見直し、材料を見直し、工期を見直してなんとか形にしようと頑張る現場は我々だけでないと思う。予算も減って工期スケジュールに狂いが生じてしまうのだからクライアントも含め理想には近づける努力をするが、暗黙の了解で妥協せざるえない部分がどうしても出てきてしまう。一旦納期に間に合わせてから残りを後で作業するとか、そもそもの計画を一部見直してシンプルなものにするとか、、、

ただ、そんな中大抵どの企画にも必ず一人正論を振りかざしてくるおじさんが登場する。全部の書類を回し、そのチェックを待っていたら確実に間に合わないような場合でも、頑として譲ることはない。言っていることは正論だし、それは全員がわかっていることだ。わかっていながらどうしたら成立するかの知恵を絞っているときにそのステップにこだわり作業を止める。止めるならまだ良い方で振り出しに戻すことさえある。で、しかもそういうおじさんは得てして声がデカイ。さあ、こまったという会議で声のデカイ正論おじさんが登場すると、もう止める手立てはない。そのおじさんが喋り始めると私はあの千代田線のメガネの女の子を思い出す。横にいるおじさんの部下が指で「シーッ」ってしているように見える。そして私は、「おじさん。もう電車は動き出しているんですよ。」と心の中でつぶやいている。

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ありがとうございます、稚拙な文章ですが楽しんでいただけたら嬉しいです
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広告やアート、とかなんでも作るという仕事と分野の違う人々を繋ぐ通訳的な仕事をしております。
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