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既出の歌と連作をまとめています。
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#短歌

静かなスール

わざわざ雨のなか動物園に行って、傘をさして、虎を見る日

野良猫にこっそり名前をつけるとき罪悪感がありますか はい

内側を白で満たしてみたくなり湯豆腐ばかり食べた七月

ミネラるを動詞と捉え水を飲むミネラれなかった水で手を冷やす

自販機で売ってる海老を二度見して一日一善なさずに帰る

天才って身近に居るねそう言った君の天才的な二度漬け

いとおしい生活のなかのいとおしくない部分漬け(食べれるん

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浴槽と食傷

車窓から見えるすべてがあなたには等しく価値だ瓦礫も海も

生きられない水辺もあると知ってほしくて淡水魚を海岸に放り出す

抵抗として光れよ、鱗 削がれればそれで終わりと零れ落ちずに

絶叫する詩人を通り過ぎる雑踏その正しさが暮らすってこと

吊り革に小さな刃物を貼りつける傷付く者の居ない退屈

チェーホフを知らない人が捨てていった銃を拾って二人ほど撃つ

三日月が頸動脈に突き刺さって居ても居なくて

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檸檬、紫陽花、桜餅

クレープの微妙に躊躇する値段世界情勢無視した時間

オムレツをぐちゃぐちゃにしてやりすごす抵抗をする絶対に明日は

棄てられたイルミネーションが光ってる残骸には残骸の輝き

爆発音 視界の外の花火にはその解釈しか与えられない

爆弾の在り処を示す音が鳴る街のすべての踏切が赤い

紫陽花の花束の中の爆弾の取り返しのつく規模の被害の

コマーシャルソングの適度な軽薄で和らぐ嘔吐 揺れるな、現実

生活

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みなもあふれんばかり

生きる希望ラブコメくらいしかなくない?普通に普通になれずに泳ぐ

またひとり去っていくけど悪いのは多分こっちだ呼吸を止める

祝福も懲罰もない一日の卵は甘い甘すぎて吐く

ピッとする閉じないでくれと祈っても閉じ込められたホーム 鉄風

二年ほどなんとなくよく遊んでた花束とかあげそうになった子

休みやし雨の中でも歩こかな、で外出たら止むんよな、雨

下の名前はじめて聞いた異世界に片足みたいで超良い

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象徴として

「骨と歌。燃えても残るものふたつも持ってるなんて幸せだよね」

存在の暴力性を可視化する右手を挙げてただ立つことで

「はなびら」と声に出すたびまとわりつく 美しさそのもの、という呪い

火葬場にたなびく系の旗を持ち超走ってる子供らの声

柴犬と珈琲 名前だけで降りる駅を決めては無駄にした日々

思い出のいくらでもある七年にアムールトラが寝そべっている

人前で覚悟を見せる仕事ですあなたがやってる

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生きていこうね

十階から落ちたケーキがまだちゃんとケーキのあいだに生きていこうね

あそぶなと貼り紙のあるシーソーにお前は満足できたかと問う

冷蔵庫に空っぽの写真立てを入れる役立たずのまま冷えてほしくて

傘のなか赤茶けた水この色は不本意の色さわりたくない

カーテンに言葉そのものの影があり、風にゆられてつかまえられない

だれひとり裏切り者の顔をせずにアップルパイを分け合っている

この街の夕暮れ時のゆかりな

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水の中と水の外で

すくわれるときに感じるのだろうか金魚らは錯覚の自由を

幾千の目が目が目がこっちを見てるしらすのパックに許しを乞うた

マグカップにメダカを入れて上から見る ゆっくりホットコーヒーを注ぐ

どうしても水の外でしか生きられない、そう泣きじゃくる君を笑った

骨だけで泳ぐ魚の水槽にネオンテトラを入れる(やさしい)

讃美歌もたまに溺れる湖で朝のくらげもちょっと溺れる

手術痕を緋鯉のように泳がせて君は

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八月の断章

その髪の狂った色が好きだった 感情に名を結うような色

銀色をコインで削るその指のこんなときまで白魚なのか

揚げたてのポテトが食べたいこの金でお前の愛が買えるとしても

可食部の計算をした少しでもお前のことを手に入れたくて

皮膚剥げばアイスクリームでいっぱいのお前にふれて後悔がしたい

耳元に硝子のしずくゆらしてるお前が夏の終わりを急かす

体温の国境犯し合う日々を弔うように花火で遊ぶ

抽象

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Femme fatale

「集めてた銀のエンゼル全部捨てた、だって自由になりたいじゃんね」

「大切に育てた野菜たべないで、野菜はたべると決めつけないで」

「紙袋いっぱいに漫画貸すから全部読んでね。五巻ないけど」

「ひどいこと言う人きらい。舌足らずなのは今朝舌噛み切ったから」

「冷たくて透明だから好きなのに雪解け水で謝らないで」

「魚にも心があるかもしれないの?だったら名前はムニエルにする」

「パーカーの袖くっつ

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その庭に蝋梅がある白い小さな記憶の中で

   Ⅰ

好きだよ ホワイトホールの話からシチューを食べたがるところとか

黒蜜ときな粉のパフェを食べながら静かに泣ける君が好きだよ

雑踏でいちばん薄い存在を常に担える君が好きだよ

「正体は電子レンジの化身だよ?」
「ひとのかたちであれば好きだよ」

三日月のひかりで夜をふる雨が白くかがやく 君が好きだよ

焼け跡の冷えた空気を白くする風より透けた君が好きだよ

「この声は全て祈りね、うるさ

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elpis

耳ならばいつでも噛み千切れるほどの安全圏で君が寝ている

安全圏から手を出して冷たい。雨はやっぱり降っていました。

価値とそれ以外をくべて暖を取る。(冬のぬかるむ安全圏で)

可視化された安全圏の内側で誓いのくちづけえずくほど甘く

イヤホンを贈る。君がどこにいたって安全圏を得られるように。

安全圏同士の摩擦 (交われば苦しむ人の笑顔と笑顔)

簡単に愛してるって言いたくて安全圏から電話をかけ

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停電の花

造花って裏切りだと思いませんか少なくとも病院の中では

都市に咲く向日葵ごめん人間も生まれる場所は選べないから

鉄線に蔦を絡める朝顔が叫んだ痛みの色は青だと

車窓から見える紫陽花の緋色がひとかたまりの憎悪のようだ

一面のシロツメクサに火を放て焼け跡に墓を置け限りなく

サルビアにべたつく夜をあてがってこのコントラストでは不満かと脅す

暴力で手に入れた桜の枝を石から生まれた墓に供える

何度

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amarikaze

枯れちゃった花束なりとも帰るべきところあらばや 抱えて歩く

水菓子のびっくりするほど甘ければひとまずこれをはっぴーとせん

らいふいずびゅうてぃふるって云えりいぇいうつくしき嘘なれば赦せよ

夕暮れにきつねの雨が降ってきて後ろの正面どーでもいいよ

咎人のごとく座りし野良猫をすまーとふぉんに閉じこめてみる

えるぴすがかかる言葉は何なりや箱に残りし枕詞よ

自壊せしそふとくりーむの真っ白を吾妹の

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あきらめゆび

ゆかりなき位牌に柑橘系爆弾の気配あり 齧ってみる

夜を火で埋め尽くしたい月光の息の根すらも愛と呼びたい

花束を抱えて乗りしこの人が墓石の化身であれば、うれしい

自販機で炭酸水を買うときの指先だけの砂漠 さびしい

水槽に漂っている観賞用植物状態詩集 静かだ

幾何学的美しさなき蜘蛛の巣に紋白蝶をくっつける ほら

鯉のぼり空いっせいに覆い尽くしそれぞれがゆっくりと落ちゆく

拠り所なき人の胸

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