腸内細菌 運動能力高める? 免疫左右、競技ごとに違い


#NIKKEI

(以下一部転載)
私たちの腸の中には多種多様で膨大な数の細菌がすみ、健康状態や病気の発症などと深く関わっている。優れたスポーツ選手には特殊な菌があり、一般の人でもそんな菌を増やせば、ひょっとすると運動能力を高められるかもしれない。選手と科学者たちが一緒になって腸内細菌と運動との関係を探る研究が増え始め、興味深い成果が出てきた。

トップアスリートの腸内にすむ細菌をマウスの腸に移植したら、運動能力が高まった――。米ハーバード大学などの研究グループが今年6月、科学誌に発表した成果だ。

ボストン・マラソンに参加する選手の協力を得て、走る前と後で便を採取し腸内にすむ細菌の集団「細菌叢(そう)」を詳しく調べた。すると運動後には乳酸の代謝に関わる細菌が増えていた。この種類の細菌をマウスの腸内に移植したところ、運動能力の向上を確認できたという。

ただその仕組みまでは解明できていない。人間で同じ結果が出るかどうかもまだわからない。…


データを蓄積し役立つ情報が増えてきた。例えばある長距離選手では、体調が悪く成績が落ち込むときに腸内細菌叢にも変化が見られ、酪酸菌やビフィズス菌といった菌が減っていた。産業技術総合研究所の辻典子上級主任研究員は「腸内細菌叢は、免疫系を通じて競技のパフォーマンスに影響している可能性がある」と指摘する。

腸内の細菌が作りだす様々な物質が体の免疫システムを左右している。その実態が最近の研究で解き明かされつつある。激しい運動は特に体に負荷がかかり、一時的に免疫力の低下を招く。辻上級主任研究員は免疫力の復元と腸内細菌叢に深い関係があるとみている。オーブは腸内細菌叢を手掛かりに適切な食事や生活を指導できるとみて「20年の五輪に向け、多くのアスリートを支援したい」(冨士川取締役)考えだ。

また川崎医療福祉大学の松生香里准教授はオリンピックレベルの長距離選手の協力を得て、運動と腸内細菌の関係を研究している。11人の女子選手を対象に、17年夏に強化合宿の前後で便の形や細菌叢の違いなどを調べた。

その結果、合宿の前と後でほぼ全員の細菌叢が変化し、特に感染症や炎症にかかわる細菌の減少が目立った。松生准教授も腸内細菌と免疫の関係に注目しており、これから詳しく調べる方針だ。…

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