霧の街 乳白色の幻想
朝、窓から外を見て驚いた。
真っ白だ。
かろうじて、近くのマンションはぼんやりと見えているが、遠くにいつも見える山や高層マンションや高速道路の橋脚は全く見えない。
空に太陽が白く見えるが、まるで月のように幻想的だ。
全てミルク色の霧の中に漂っている。
いつもならこの時間多くの車の騒音やライトの動きが活気を感じさせるが、今日はすべて白い海に飲み込まれたように静かで、人の気配がしない。
本当に霧なのか。こんな濃い霧は初めて見た。
ベランダに出ると、頬に何となく湿り気を感じる。
ベランダの塀越しに、ふわりふわりと薄い霧が流れ込んでくる。
ゆっくりと深呼吸してみる。
下を見ると、マンションの前の道をだれか歩いているように見えた。
それも薄いベールを通して見ているようだ。
白い霧から朦朧と浮かび上がるいくつかの建物の窓は皆薄暗く、見渡すとまるで廃墟の町だ。
小鳥の鳴き声も聞こえない
夢なのかもしれない。ふと、そう思った。
霧に浮かぶあのマンションも行ってみれば廃墟でだれも住んでいない。
道路にも走る車はなく、乗り捨てられた何台かが見えるだけだ。
無人の町を白い霧をかき分けながらオロオロと歩き回る。
みんなどこかへ消えてしまった。私は取り残された。
そんな気がした。
よく見る夢と一緒だ。
ゆっくりと霧が流れているのがわかる。
音のしない世界で白い霧に囲まれ、一人ベランダにたたずむ。
やっと、眠っていたような太陽から日差しが伸びてきた。
周囲が少し明るくなってくるとともに、ホッとした。
幻想的な朝のお陰で、鳥肌が立っている。心臓もドキドキしていたようだ。
部屋に戻り、熱いコーヒーで日常に戻ろう。
絵 マシュー・カサイ「霧の町」水彩・ペン
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