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【私の研究日記】中国における日本人襲撃事件:愛国主義教育と仇日意識の背景

中国深圳での日本人小学生刺殺事件について



9月18日に中国深圳で起きた、小学生の沈航平君が刺殺されるという悲劇的な事件に衝撃を受けました。航平君は日本人と中国人のハーフであり、両国の文化を愛し、昆虫が大好きな少年だっそうです。彼のご冥福を心からお祈りいたします。


この事件を受けて、航平君のお父様・小山純平さんが領事館に宛てた手紙を李先生(李老师不是你老师)の投稿で見ました。その中で、小山さんは「中国も日本も恨まない」と述べ、二つの祖国の関係が今回の事件で壊れないよう願う気持ちを表明していて、胸を打たれました。

事件の背景と反応



この事件が発生した背景には、長年にわたる愛国主義教育や社会の急激な変化が影響していると考えられます。中国では、1990年代中期以降、愛国主義教育が強化され、特に日本に対する否定的な感情が育まれてきました。例えば、1996年に認定された全国愛国主義教育模範基地100ヶ所のうち、17ヶ所は日本(日中戦争や日清戦争)に関連する施設です。(しっかり数えましたよ)有名どころでは中国人民抗日戦争記念館、哈爾濱731部隊罪証陳列館、瀋陽九・一八歴史博物館、南京大虐殺記念館、遼源高級捕虜営所旧跡…抗日烈士のお墓などもあります。これは、イギリス(アヘン戦争など)4ヶ所、アメリカ(朝鮮戦争など)3ヶ所、ロシア(アイグン条約)1ヶ所と比較しても、非常に多い数字です。2024年時点で全国に585ヶ所に増えた「基地」の中にも、多くの日本に関連する施設が含まれていると考えられます。このような愛国主義教育における日本の比重の大きさが「仇日意識」醸成に寄与していると推測できます。

また、最近の経済的な不安定さや社会の急激な変化も、こうした事件の背景にあると考えられます。コロナ禍や自然災害、経済の低迷などが重なり、社会全体が不安定化している中で、特定の国や人々に対する敵意が高まっているのかもしれません。


複数の華人YouTuberは蘇州の事件と今回の深圳の事件を「養蠱反噬(ようこはんぜい)」という言葉で表現していました。普段は「恩を仇で返す」という意味で使われるのですが、この場合は違います。「養蠱(ようこ)」とは中国の古代から伝わる呪術で、様々な毒虫を瓶や壺で飼育し、互いに戦わせて最後に生き残った最強の毒虫を使って呪いをかけるというものです。これを愛国教育になぞらえているのです。すなわち国民に自国と党への愛及び特定の国家や階級を敵視する感情を時間と手間をかけて育てて大きくし、国や党への愛、それから対立する国や階級に対する憎しみという感情を醸成し、都合に合わせて自在に操って大衆を扇動する、呪術使いのような行為をしていると。「養蠱(ようこ)」の成功例は2005年の反日デモがわかりやすい例だと思います。しかしながら「愛」も「憎しみ」も非常に熱い感情であるがゆえに、操りきれず、爆発しやすく、その結果起きているのが、昨今起きている「仇視事件」というわけです。日本人やアメリカ人を標的にした事件に限らず、国内で度々起きている悲惨な事件も反噬(はんぜい)と思われるものが少なくありません。

今後の対策



このような状況を踏まえ、当面の対策としては、教育やメディアを通じた相互理解の促進が重要です。また、現地での安全対策も強化する必要があります。具体的には、学校や公共の場での警備を強化し、コミュニティ全体での防犯意識を高めることが求められます。


もっとも仇視教育が続く限り、悲劇は今後も起こるでしょう。「養蠱反噬」は国内の混乱に拍車をかけ、国際関係にも支障をきたす可能性もあります。ですから、中国政府が仇視教育を見直すのが、長期的な解決策として何よりも有効で重要です。根が深い問題だけに、慎重に分析し積極的に対策する必要があります。

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