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#14 ナイスな同僚たち:外国人の対応

 入院した外国人患者さんに、流暢な言葉で話すことができなくても、できることを考えて対応していた同僚たちを見て、優しいな、ほっこりするな程度に思っていました。
 でも、施設によっては、外国人対応が苦手だからといって、互いに押し付け合うところもあると聞きました。
 同僚たちの対応の素晴らしさを改めた感じたので、どんな対応をしていたのかまとめてみました。

*日常的には、外来で対応することも多いですが、今回は病棟での対応についての内容になっています。

1.外国人患者の対応力は施設によって違う

 日本語がわからない外国人が受診・入院することがあります。

そのような時、どのような対応をするかというのは、その施設や部署の風土やスタッフの人柄が現れるのではないかなと思います。

 外国人の来院が多いエリア、施設はあると思いますので、頻繁に接する場合は、語学が達者なスタッフがいたり、マニュアルがあったりして対応に慣れますが、そうでない場合、どうコミュニケーションをとったらいいかわからず、戸惑うのが普通だと思います。

2.看護師は対応から逃れられない

 入院生活には患者さんと看護師のコミュニケーションは外せません。
 たとえ、どんなに語学力がある医師が担当であったとしても、その患者さんがナースコールを押したとき、最初に対応するのは看護師になります。

 時には、一時的に来日していた時に入院になるという方もいます。そういう方は、知らない国、知らない風習、病気、言葉がわからない、経済的な心配…など、不安を抱えていることも少なくありません。
 その不安を軽減し、異常を早期発見するためにも、私たちが後々さまざまな意味で後味が悪いと感じなくて済むように、できることから行っていけるといいと思います。

3.英語対応では不十分なわけ

 英語でやりとりすればいいのでは?と思うかもしれません。英語圏出身者だけでなく、ビジネス関係で訪日、滞在している方は英語で問題ないと思います。
 英語の場合は、医療看護英語の本も巷にたくさんありますので、参考にしやすいですし、職員で得意な方が何人かいることも多いですよね。

 しかし、現実には英語がわからない方も結構な割合でいます。

 どんな人たちかというと、家族(主に子供)が日本人と結婚した、もしくは仕事で成功したため、日本に呼ばれ、一緒に暮らすようになった方です。
 そういう方々の多くは、高齢で、その国のコミュニティ内が生活圏です。そこから出るときは家族と一緒で通訳をしてくれるという生活をしているので、日本語を覚えなくても、日本で生活ができているのです。

 そういった理由から、その患者さんの母国語でのやりとりが必要になります。  

4.対応方法

 近年、アプリや翻訳機ですぐに翻訳できるようになりました。
 しかし、同じ言語圏でも地域によって用いる言葉が異なったり、翻訳がうまくいかないこともあります。
 文明の利器を使いつつ、アナログな方法も併用しましょう。

 主に以下のことをしていました。(アナログな方法です)

 ・言語の会話集を独自に作る
 ・検査説明は言語で書く(単語で可)
 ・必要な単語だけでも覚える
 ・ボディランゲージを最大限使う
 ・関わる勇気を持つ

 それぞれについて具体例とともにお伝えしていきます。

 ⅰ.オリジナル言語の会話集を作る

 家族・または通訳として同伴している人に、入院中必要になるだろう会話のやりとりをその言語で記載してもらいます。その言語の文章の上でも下でも日本語訳をつけることで、患者さんも看護師も同時に意味が理解できます。
 それをベッドサイドに置き、訪室した際に用いて、患者さんに指差しで答えてもらう方法です。

日常の挨拶
 簡単な挨拶は、コミュニケーションの基本なのは変わりません。
 なんと言っても、異国の地で自分の国の言葉がきけるのは嬉しいし、不安が多少なりとも緩和し、信頼にもつながるように思います。

疾患症状についての質問とその答え
 普段、日本人の患者さんに聞いているような内容です。よく使うフレーズを書いてもらいましょう。
 また、答えについても書いてもらっておきましょう。症状の種類や表現方法、診療科によっては、色での表現・「多い」「少ない」なども使用する頻度が多いかもしれません。

検査に関すること
 普段、口頭でしている検査説明を書いてもらいます。今後行われるだろう検査を見越して、延食や引水制限などのコメントを残しておけば、家族など不在でも、検査の説明ができます。

その病棟や診療科で必要となる特殊なこと     
 もし、特殊なことがあれば、それを記載してもらい、日常業務で使用しましょう。


 言葉が通じない患者さんとのコミュニケーションには時間を要します。
聞いたり、伝えたりすることがスムーズにはならないので、この会話集を活用し、短縮できる部分は短縮し、必要な観察などに時間を使いましょう。

 ⅱ.検査説明は言語で書く(単語で可)

 翌日の検査を記載した札をベッドサイドにかけておく、という病棟ルールがあり、外国の方にも同様に対応していました。

 レントゲン・採血・エコー検査などは単語を記載すれば、なんの検査でどんなことをするか理解してもらえます。また、当日検査に行く時も、札を指させば検査に行くんだなとわかってもらえます。

 延食や水分制限などがある検査が予測される場合は、上記の「ⅰ.」にあるように、あらかじめ家族に記載してもらっていたものに指定の時間だけ加えると、検査について伝わるので、言葉が通じなくて説明ができず、検査が延期になってしまうことが防げます。

 もし、事前に家族などに翻訳してもらえなかったとしても、検査名は翻訳サイトでも検索は可能です。 


 検査内容をきちんと理解してもらい、滞りなく終了できるよう事前に説明をしていきましょう。

 ⅲ.応用が効く単語だけでも覚える

 それ以外に、日常のケアの時に知ってた方がスムーズなことは覚えると便利です。

 例えば、「痛い」という単語をあなたが知っていたら、訪室して、その単語を患者さんが言っていたら、痛がっているということにすぐに気づけますし、場所を指させばどこが痛いか明確です。
 また、「はい/可」「いいえ/不可」の単語を知っておくだけでもコミュニケーションの質や、かかる時間に差が出ます。
 私は、「3・2・1」を覚えて、ベッド上で体を引き上げるときに使い、足で蹴ってもらうよう協力してもらっていました。

 余談ですが、手術で出棟する患者さんに「加油(ジャイオ:頑張って)」と見送る看護師たちが声をかけていたら、本人は笑顔で「加油」と一緒になって言い、それを見ていたご家族が涙を浮かべるということがありました。


 ひとつの単語でも、相互理解だけでなく、勇気付けたり、安心につながるなど、伝わることって大きいと思います。

 ⅳ.ボディランゲージを最大限使う

 いろんな背景により、文字が読めない方もいます。

 そういう方には、全力でボディランゲージで伝えましょう。ⅲ.の単語を言いながらだとより効果的です。
 伝えることが大切なので恥ずかしがらず、パントマイムでもなんでもしましょう。人生経験は豊富なので、「ああ、あのことね」とわかってくれることも多いです。
 こちらの動きを、眉間にシワを寄せて真剣に見ていた患者さんが、わかった瞬間、パッっと明るい笑顔に変わります。それにつられてこちらも笑顔になります。


 言葉がダメでもボディランゲージを多用し、必要なことを伝えましょう。

 ⅴ.関わる勇気をもつ

 言葉が話せる・話せない以前に、外国人と関わることに慣れていなくて、散らないが故の恐怖心や、気恥ずかしさがあるかもしれません。
 けれど、相手も普通の人で、わからないアウェイ空間にひとりで心細く感じています。勇気を持って声をかけてみましょう。目があったらにこりとするだけでも、あなたの相手への印象も、相手からのあなたへの態度も変わります。いろんな工夫をして、どうにかこうにか通じ合えた時の感動は言葉になりません。
 はじめの一歩だけ踏み出してみましょう。

5.フォロー体勢の確保

 ⅰ.コミュニケーションで困ったときの対応先の確保

 日本語の通訳ができ、かつ患者さんの信頼を得ている人、一般的には家族や友人などのキーパーソンに、病状の変化の有無に関わらず、言葉が通じないことで何かあった場合、夜中でも連絡し、対応してもらう可能性があることを伝え、承諾してもらいましょう。 

 いろいろ策を講じても、理解できないときは理解できません。特に、患者さんが興奮状態になってしまうと「とりつく島もない」状態になってしまいます。
 そんなときは、キーパーソンに連絡し、電話越しででも通訳をしてもらうことで、患者さんの欲求に対応でき、患者さん自身も落ち着きを取り戻せることが多いです。

 ⅱ.医療費などの対応

 患者さんによって、保険に未加入だったり、その他特殊な事情を抱えていることも少なくありません。

 日本は海外に比べ処方する薬が圧倒的に多いです。正直、本当にこの薬が必要なのか…という処方もあることは否めません。
 保険が効かない場合、退院処方は患者の金銭的負担になりますので、その事情も確認し、医師に必要最低限の処方を依頼する必要もあるでしょう。
 医師も事情を伝えれば快諾してくれるはずです。

 そして、残念ながら、入院費などを未払いで済ませてしまう方もいますので、各施設の担当者の方に入院時から介入してもらった方がいいでしょう。

まとめ

 日本語や英語が理解できない外国人の対応は、多種多様。翻訳機能の利用に加え、必要なことを網羅したオリジナルの会話集を利用したり、簡単な単語を覚えたり、ボディランゲージを使用することで、コミュニケーションが円滑になり、時間の短縮にもつながります。勇気をもって関わりましょう。
 そして、患者さんの状況に合わせて、家族や他部署の協力も得ていきましょう。


 

 



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