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オオカミの生き方

Photo by Ralf Κλενγελ(CC BY-NC 2.0) Canadian Timberwolf

来月から葉っぱの坑夫のサイトで、ウィリアム・J・ロングの ”The Way of a Wolf” を連載しようと思っている。これは1923年にアメリカで出版された “Mother Nature: A Study of Animal Life and Death” の中の第4章のほぼ全文(話題をオオカミの生態のみに絞った)の日本語訳である。

「オオカミの生き方」(仮題)のもくじは以下のようになっている。

ハイイロオオカミを追って
リーダーは雌オオカミ
狩りとテーブルマナー
野生の礼儀は理にかなっている
オオカミが羊を襲うとき
オオカミの仲間意識

もくじの項目を見て、なるほどと思った人は、オオカミについてある程度(いやかなりかな)知っている人かもしれない。全文で約2万字弱を6〜10回くらいに分けて連載する予定。

ウィリアム・J・ロングの作品は「ビーバーとカワウソが出会ったら」「鳥たちの食卓」「かわうそキーオネクは釣り名人」「動物たちの外科手術」など、ここ1、2年の間、訳してサイトで発表してきた。今回の「オオカミの生き方」は長いので、一つのまとまり(コンテンツ)として独立したページで出版しようと思っている。

ウィリアム・J・ロングはアメリカのナチュラリスト、作家、そしてプロテスタントの牧師でもあった。わたしはロングをその探索の姿勢から「野生動物観察家」と呼んでいる。1867年生まれで、シートンとほぼ同世代。ロングは毎年3月になると、アメリカ最北東部のメイン州を旅し、野生動物の観察をつづけた。その旅に息子と娘2人をつれていくこともあったらしい。冬を超えての滞在もときにしていたようだ。

オオカミは日本ではすでに絶滅していると言われている。アメリカでも数は減っていると思われるが、アラスカを含む北米大陸北部を中心に今も生息はしているようだ。ユーラシア大陸ではどうなのか。調べたところ、ヨーロッパは保護政策が功を奏して、ほぼ全域で生息が確認されているらしい。ユーラシア大陸全域を見ると、ロシア、ウクライナ、ギリシア、ルーアニア、ブルガリア、イタリア、スイス、トルコ、イラン、サウジアラビア、カザフスタン、中国、モンゴルなどの地域にはそれなりの数がいそうだ。

日本語でオオカミといえば、まず頭に浮かぶのは『赤ずきん』だろうか。それくらい現実の世界からは遠い生きものかもしれない。『AKAZUKIN』という絵本を以前に出版したことがある。ミヤギユカリさんの絵、服部一成さんデザインによるアートブックだった。テキストはなし。スイスのインディペンデント出版社Nievesと共同出版した。

この絵本では、ストーリーとしては最終的に赤ずきんもおばあさんもオオカミに食べられてしまうのだけれど、オオカミ=悪者という構図にはなっていない。絵本の最初の見開きページは、森の中をひとり歩くオオカミの姿、つぎの見開きは「AKAZUKIN」のタイトル文字と、赤ずきんとオオカミが遊んでいるように見えるシーン。森に住むオオカミと森に住む人間(おばあさん)が、どちらが主というわけでもなく、フラットな関係であることを暗示したプロローグになっている。

特別に新しい解釈を、と意図したわけではなかった。ただ作っているうちにそのようになった。森に住むオオカミは悪者ではなく、そこの居住者のひとり。オオカミがやたら人間を襲ったり、食べたりするかどうかにも疑問の余地はあった。だからそういうアプローチにならないようにしたし、単純によく知られたストーリーを追うだけにはしたくなかった。少なくとも編集者のわたしはそう感じていたし、ミヤギユカリさんの絵で描かれるオオカミもそうだった。服部一成さんのデザインもそういう意図を汲んでいたと思う。

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