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ファクト or フェイク? フェイク on フェイク?

「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」なんて欧文タイトルなのに、今年の上半期ビジネス書ベスト1という本があり、これより1年前にも似たような内容の『武器化する嘘』という本も出版されている。どちらも売れにくいとされる翻訳書。『FACTFULNESS』の方は翻訳者がテレビに出演して紹介したらしく、アマゾンのレビューも2000超え。

「思い込みを乗り越える」「世界を正しく見る」「真実を見抜け」などの宣伝文がどちらにもついている。SNSで拡散される信用度の低い情報やフェイクニュースの横行、といったことへの警鐘なのでしょうか。

たしかに情報はネットを中心に溢れるほどあるけれど、自分はその中のどれをどれくらい信用しているのか、と考えると心もとない。100%信頼に足るものはあまりないというのが現実。

というか一つの情報を100%信じること自体が、いまの時代には無理があるのかもしれない。複数の情報源から類推するのがいい。(これはいまの時代に限ったことではないかもしれないが)

自分の話をすると、紙の新聞を3、4年前にやめ、1、2年前にはテレビもやめた。新聞(朝日)をやめた理由は、広告の面積が増えたことと、記事の内容が薄く役に立たないから。 記事に対する広告の占める割合を3年前に調べたところ、紙面全体の半分近くが広告だった。これはひどい、と思った。紙の新聞はもう成り立たないメディアなのだ。

テレビの方はきまったものを見る習慣がなく、NHK受信料の問題(NHKを受信できる機器を所有すれば受信料を支払わねばならないという規約/放送法)もあって、利益なしとみてやめた。

では日々のニュースはどこから得るか、というわけだが、そもそもニュースとは何かという問題があった。テレビや新聞で扱うニュースは、まあそこそこ(主として日本人にとって)重要と思われる出来事を報道しているのかもしれないけれど、あくまでもテレビ局や新聞社が選択したものであり、彼らが知らせたい、重要だと思うニュースであるに過ぎない。

基本的な信頼関係がメディアとの間で成り立っていればいいが、そこが危うくなってくると、記事に対する信頼も成り立ちにくくなってしまう。

新聞のニュースを信じないの?と思うかもしれないが、わたしの場合、信頼度100%とはいかない。それはこれまでの経験によっている。新聞が、それも大手新聞が嘘のニュースを流すか?! この嘘というのがくせもので、嘘とも言えないけれど、本当のことともちょっと違う、というケースはときどきある。

政治のニュースだと一般人には追跡できない部分があるので、事実関係がわかりやすいスポーツと関連したニュースを例にあげる。

ひとつは2015年11月にパリで起きたテロ。サン=ドニのサッカー場近くで、テロが起きて100人以上の人が死んだ事件だ。その日サッカー場ではドイツとフランスの親善試合が行なわれていた。ニュースのトップ記事は、どの新聞もそのサッカー場のピッチに人が降りて逃げ惑っているように見える写真で、「パリ同時多発テロ:『これは大虐殺』 やまぬ銃声、悲鳴」「険しい表情で観客席から避難する人たち」などのタイトルやキャプションがついていた。

この記事を見たわたしは、てっきり試合が中止になり、パニックになった観客がピッチに降り、サッカー場で大混乱が起きたのかと思った。しかしあとでサッカー関連のニュースを調べたら、試合は最後まで行なわれ「2−0」でフランスの勝利、試合は一瞬たりとも止まらなかったことがわかった。試合のハイライト映像も確認したところ、爆発音があった瞬間、フランス人サイドバックのエブラ選手が一瞬ビクッとした映像があったが、そのまま試合は続いた。

試合後、観客は安全確認ができるまで、場外に出ないようアナウンスがあったそうだ。ピッチに降りた人々の写真はそのときのものだろう。

その写真は嘘ややらせではないとしても、タイトルやキャプションとの組み合わせで見ると、実際より悲惨な状況を想像させるような記事として機能している。その真意はわからないが、事件後数日たっても、メディアからの訂正はなかった。

もう一つは2012年夏、サッカーの香川真司選手がイングランドのマンチェスター・ユナイテッドに移籍したときのニュース。当時マンUは世界トップのクラブチームで、日本のサッカーファンにとって香川選手の移籍は一大ニュースだった。移籍後最初の記者会見の席だったと思う。マンUの監督と香川選手、そしてもう一人若手の入団選手(18歳のニック・パウエル選手)がいた。

当時とっていた朝日新聞の記事では、写真には監督と香川選手の姿しかなかった。その場にパウエル選手がいなかったわけではない(海外のメディアでは3人の姿があった)。いたのだけれど、その部分(写真の右端にいたパウエル選手)が省かれていた。そのためトリミングがやや不自然に見えた。記事の中身にも、そのパウエル選手の名前も、一緒に入団した選手がいた事実も書かれていなかった。

これが嘘やフェイクに当たるかはなんとも言えない。ただ、、、あまり公平な取り上げ方とは言えないのでは。というかそこで起きたことを事実に沿って伝えるのがニュースのあるべき姿とすれば、どこにポイントを置くかは別にして、全体的な状況説明はした方がいいと思う。パウエル選手は当時、イングランド期待の若手選手だった。日本在住のイギリス人サッカーファンは、その選手のことが知りたかったかもしれない。でも朝日新聞では、彼の入団はなかったことにされた。

嘘とかフェイクとまでは言われなくても、グレーな部分をもつ、公平性を欠いた記事はおそらく山ほどあると想像できる。香川選手のニュースは、愛国心や自国自慢の強調かもしれないが(これは今も、海外でプレイする日本人選手たちの報道で続いている)、政治や社会のニュースであれば、利権や既得権がからんでもっと複雑になりそうだ。

上の例にあげた二つの例は、自分以外に指摘している人を見かけないので、日本の人で疑問をもった人はあまりいなかったのだと思う。これが数年から少し前のこと。わたしにとっては、こういうことがファクトチェックだ。もちろんスポーツのニュースに限らず。

ファクトチェックと関連して、新聞についてこれまで感じてきた不満の大きなものは、一つの記事が短いこと、そして電子版については過去の記事のアーカイブが少ないことがあげられる。

記事の短さは、出来事の概要を伝えるものが主で、解説的なものが少ないせいだと思う。たとえば日経の無料の電子版を見ていて、月間10本読めることになっている記事の1本を、その権利をつかって読もうとして表示すると、そのあとわずか何百字で終わり、ということはよくある。せっかく1本の権利をつかったのに、、、となるし、出来事の概要だけでは、よく内容がつかめない。表面をなでるだけで終わってしまう。すべての記事に解説がなくてもいいが、もう少し読んだあとの理解につながるものがあってもいいと思う。

なんだ、無料版か、贅沢言うな、と言うかもしれないが、納得いく記事があまりなければ、電子版を契約する気にもならない。

以前に朝日新聞から電子版購読のお願いの電話(!)があった。そのときに過去のアーカイブにもアクセスできます、というので何年前まで遡れるのか聞いてみた。答えは「5年」。5年??? たったの??? アーカイブといっても5年なのだ。これでは現在起きていることを調べるにも、つまり過去の出来事との関連性を見ようとしても、少なすぎる。5年では。

5年しか遡れないということは、必要になったとき、ファクトチェックをしようにも短期間の「歴史」しか見れないことになる。

調べごとをしていると、過去の出来事の事実関係を知る必要がでることは多い。英語圏のニュースでは、相当昔の記事まで遡って読めることが多い。インターネット普及以前の1990年代の記事はもちろん、もっと昔、わたしの経験では1960年代の記事が読めたことがあり驚いた。それがたまたまだったのか、ちょっとわからないが。ただ過去のことを調べていて、相当古い記事が検索結果に出てきて、それをそのまま表示して読めることは、英語圏のニュースについては珍しいことではない。(ニューヨーク・タイムズ、ロサンゼルス・タイムズ、アトランティック誌など)

また一つ一つの記事は、一般に長いことが多い。相当長いものもある。一般ニュースだけでなく、音楽評のようなものも、ある程度の長さがある。また多くの記事は署名入りだ。記事の書き手が気に入れば、検索をかけて他にどんなものを書いているか調べることもできる。そうやってニュースそのものだけでなく、書き手や書き手が力を入れているテーマを発見することもある。

このことはファクトフルネスとも少し関係があるかもしれない。信頼できる書き手のものを読むようにする、という意味で。そのような書き手を数人「常備」しておけば、何か事件が起きたとき、その書き手がどう言ってるか確認することで、出来事のポイントを違った視点からつかむヒントが得られる。

少し前に新型コロナウィルスに関するガーナの大統領の暴露があった、という話を複数の友人や知り合いから教えられた。ロックフェラー財団やビル・ゲイツなどが関係した陰謀があったということで、それを聞いたときはまあないこともないだろうな、とは思った。

それに関して、一般の新聞記事を探しても該当するものが出てこないので、さらに探しているとAFP(フランス通信社)のファクトチェックのサイトに行き当たった。AFPの見解では、問題のガーナ大統領のメッセージの音声を調べたところ、声も喋り方も過去のニュース映像などと比べたところ、今回のものはあきらかに違っている、本人ではないとのこと。つまり暴露メッセージの音声や動画はフェイクだという判断だ。https://factcheck.afp.com/voice-dismissed-poor-imitation-countrys-leader

大統領のメッセージの動画もあると聞いていたので調べてみたが、YouTubeにあったものはYouTube側が削除したようだった。

この記事を書いていて、改めてAFPのファクトチェックのサイトに行ってみたところ、別件でガーナ大統領の発言が問題になっていた。アクフォ=アド大統領は、ガーナの新型コロナウィルスの検査は、アフリカ内ではどこの国よりたくさんやっていると主張したそうだが、実際のデータでは南アフリカ、その他最低でも2ヶ国より少ないとのこと。https://factcheck.afp.com/ghana-leader-falsely-claims-his-country-fronts-africas-covid-19-testing

うーん、これはどういうことだ。大統領を装ったフェイクがあったのちに、大統領自身がフェイクニュースを流した?

これだけフェイクが日常になると、フェイクの荒波を泳ぎきり、ファクトにたどりつく相当なスキルが必要になりそう。台湾のIT担当大臣として話題になっているオードリー・タン氏は、ニュースの取得は自発性を大事に、と言っている。流れてくるニュースに飛びつくのではなく、自らの好奇心をもって自発的に情報を探し、得る、ということらしい。そのためにタン氏はFacebookにアクセスしたとき、最初に出てくるニュースフィールドを取り除くプラグインソフトを入れているとか。つまり自動的に表示されるニュースを見ないようにする、ということ。

これは今後の情報とのつきあい方において、ちょっとしたヒントになるかもしれない。まとめサイトのようなものは便利かもしれないし、また受信者の好みをチェックした上で、その人にとって価値があると思われる情報を上位に並べてくるのかもしれないが、そういうものを排除することで初めて、自分をいつも更新し、新しい状態で社会と向き合うことが可能になると思う。

もう一つ、AFPのファクトチェックのページを見ているとき、Perma.ccというサービスを見つけた。「ウェブサイトは変わってしまうが、Permaのリンクは変わらない」とあり、現在あるサイトのページをスキャンし保存することで、そのページが確かにあったことを証明するサービスだ。AFPはこのサービスをつかって、ある学者が自分のFacebookで、ガーナ大統領のメッセージを聞いてみるよう勧めていた事実があったことを証明している。現在、実際のその学者のFacebook上では、第三者のチェックにより「虚偽の情報」と指定され、YouTubeの画像とリンクは削除されている。

このPerma.ccのサービスは、個人の場合10件まで無料で使用できるとあったので、さっそく登録してみた。使う機会がいつか来るかもしれない。のちに消えてしまうかもしれない記事やページを登録すると、スキャンされて画像となり、そのファイルのURLが取得できる仕組と思われる。必要になったとき、そのリンクを示せば、確かにその記事やページが存在したことが証明できる。

情報過多時代においては、いかに情報を自発的に選択するか、そうやって得た情報も鵜呑みにせず、一度ふるいにかけて真偽を確かめる、といった態度が推奨されるのだろうし、場合によっては、重要と思われる情報を将来に備えて、自分で保存しておく必要も出てくるかもしれない。わたしの印象では、日本語の記事や情報ページは、少したつとNot Found になってしまう率が高い。インターネットにおけるアーカイブの重要性や、ひとたび公開した記事は原則削除しないことの意味があまり理解されていないように思う。

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