カレーですよ4296（錦糸町　東京穆斯林飯店/東京ムスリム飯店）中華でムスリムでハラールで釜飯。

錦糸町。わたしの住む町の隣町。一部方面では小さなバングラデシュコミュニティがあることで知られる町だ。下町の猥雑で活気ある繁華街で子供時代はあまり行ってはいけない場所、として認識していた。

カレーですよ。

そんな錦糸町。

昔から風俗営業の店が軒を連ね、それと同時にそんな場所で働く外国人の女性が暮らし、その国のコミュニティができる。韓国スナック、タイパブ、ロシアクラブ、風俗の流行りでコミュニティが増えたり入れ替わったり、その風俗が流行らなくなってもコミュニティだけが残る例などもあって。
そういう町は錦糸町以外にも大久保など、ぽつぽつと見ることができる。

ことバングラデシュに限っては、バングラデシュ女性が働く風俗店、飲食店は全くない。が、風俗店でのポーターなどにバングラデシュ男性がいるのはしばらく前から知っていた。そんな人たちが入れるバングラデシュレストラン、食堂がもう３〜４軒営業している錦糸町界隈。そしてバングラデシュ の人は90%近くの人がムスリムだ。

「東京穆斯林飯店」

は、「東京ムスリム飯店」と読む。

飯店の名でもわかるように、ここは中華料理店。そして、かつハラール対応の料理のみ出てくるのだ。なんというか、大変におもしろい。

店内は中国料理の香りがするが、壁のあれはウルドゥー文字であろうか、チャイニーズテイストとは違うフラッグなど貼ってあったりするのが興味深い。

壁のモザイクもやはりイスラミックな雰囲気が感じられ、手洗いを借りようと席を立つとホールの端に礼拝スペースが用意される。なるほど、ムスリムレストランの名前は伊達ではない。

さて、注文。ランチタイムのメニューにおもしろいものを発見。

「羊肉入釜めし」

である。おやおやこれは。

やはりこの名前から想像してしまうのはインド亜大陸周辺国に多く見られる炊き込みご飯のビリヤニ。写真なしのメニューから想像力を働かせて選ぶこの楽しさはほかに代えがたいものがある。

しかし驚くべき組み合わせだ。飯店という名前のハラールフードを専門に出す中華料理店。そこにそっと紛れ込む釜めしという刺客。それを見つけ出して頼むこのスリル。最高なのである。

さて、まずはおかずブッフェ。
ランチを注文した客には漏れなくおかずとデザートのブッフェがついてくる。鳥唐揚げ、麻婆豆腐、サラダ、ザーサイ、スープ、ごはん、かゆ。それに杏仁豆腐とマンゴープリン。

このおかずブッフェの麻婆豆腐、異常にうまい。このうまさに困り果てる。四川風の最近流行の痺れが過剰なやり過ぎ麻婆ではない、しかし中華料理ではなく中国郷土料理の味という調味。これはいい。釜飯が到着するまでにお腹が張ってしまうかもしれない。そんなことを思ったり、店内をきょろきょろと眺めたり。そこそこの時間を経て、ついに注文したものがやってきた。「羊肉入釜めし」だ。

うむ、これは。

このあと暫し黙り込む。いや、それと言うのも正しく釜めしがやってきたからである。
繰り返す。とても正しいビジュアルを纏い有無を言わさぬ「オレ、釜めし。釜めしだから」という揺るぎない威厳。そういうものを感じさせるビジュアルの釜めしがやってきたわけである。

あと3分ほどまってね、と店のねえさんに言われ、待機。蒸らしの時間だ。

3分。羊の香りとともにたくさん上がっていた湯気が収まってきた。さて、とふたをとれば、うむ、こりゃあシックなみてくれ。やはりこれは釜めしに間違いない。間違いなくビリヤニではない、釜めしがそこにあった。ただしラム肉である。塩味は控えめで上品だがラムの油がたっぷりこってりで堪らぬ風味。これはうまい。表記が羊になっているのでラムと書いているが、香りの強さはこれはマトンなのかな、とも思う。どちらだろう。

そんな中、早速やってくる釜の側面、底面にあるおこげ。マトンの釜めしのおこげだ。こんな素晴らしいものが地上に存在するのか、と悲鳴を上げる。
香ばしく、美しく、おいしい。とてもおいしい。

そのあとはたと気がついて、気がついたことに対していかんと思いつつも、実行。
このうまいものと同じくうまい麻婆豆腐をえいやとのせてしまう。これがもうえもいわれぬおいしさ。本当にたまらない。上品な薄味の中からやってくるおいしさに別のベクトルのパワーが宿り、おいしさが倍増する。

うむ、いろいろとまいった。
この店の成り立ちや店員さんたちの話をとても聞いてみたくなった。たまたま錦糸町という町にある、ここ東京穆斯林飯店であるが、ここがたとえばハバロフスクにあっても、ダッカあたりにあっても、テヘランの裏通りにあっても驚かない。

それくらいどこの国のレストランか断定しがたい面白さがあった。

足繁く通いたいと思う。

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