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yosga
選歌30首 令和7年2月号
仲秋の月引き入れよ瀬田川の屋形の舟のすだれ上げつつ
宮本照男
背に添ひくる掌のやはらかし試歩の廊幾曲がりなり湖の光りて
渡辺茂子
思ひ出は土に還れよ君と食べた貝の殻くだき庭に撒きやる
高田香澄
まどろみを供物のように捧げてるあなたの指さきいつもやわらか
森崎理加
写真館、五歳の主役は羽織袴兜かぶりて大きな欠伸
山北悦子
訪いくれば遊具に遊ぶ幼子の声澄み渡り秋はたけなわ
吉田和代
ああ母だ、この人もまた母だった媼の優しい「行ってらっしゃい」
渡邊富紀子
独りきりの朝を歩いてひとりだけ環状線を降りられずにいる
伊雪佑
あなたからまだまだ受け取るものありぬ九十四の母の手摩る
岩本ちずる
深々と布団に潜り温もりの中で目覚めるようやくの秋
小笠原朝子
宇宙では右も左も上下も裏も表も良し悪しもなし
鎌田国寿
真っ白きシーツ干したる幸せを大切にする今日の青空
北岡礼子
本心を消しし昔の浮かび来る旧き駅舎の伝言板の
木下順造
尋ねつつ歩きゆく道だれかれも丁寧な言葉京都はんなり
山口美加代
チョコ一つ頬張りながら歌を詠む思ひ出ばかりあふるる晩秋
谷脇恵子
呼びかける候補者の声空遠く年金暮らしを置き去りにして
永田賢之助
薬の字・草かんむりに楽とあり医師の勧める昼寝三昧
成田ヱツ子
エアコンをつけっぱなしの一日に故障しないでと祈る猛暑日
高尾富士子
病院に行きたくないと言う娘付き添う私も同じ気持ちよ
高野房子
小春日の観音参りの登り坂遠い記憶の母の声聞く
田村ふみ子
七五三袴をはかせ着付けする三十年ぶりじいじの仕事
田中章
高き空浮かべる鳥よそこらでは息はできるか空気はあるか
福留夕音
うつろなる秋の長夜に見し夢はゆきてかへらぬきみが面影
石谷流花
海の青さえ脱ぎ捨てた素寒貧のハダカイワシよ
一色春次朗
残生はいかほどもあると思わせて終着駅はすぐそこにある
西出清子
柿の実をたいらげ去りしカラスらの情けが一つ枝に残れる
山口綾子
朝の戸を繰るに枯れ葉の三つ四つまろぶ庭先秋深み行く
今野恵美子
スッポンのボスに久しくあわざりき丸い目向けて天下をにらむ
清水素子
若いって傲慢だった歳かさね思いもしない壁が見え出す
髙間照子
母の背に触れて夢へといざなう夜振り返る日の皆愛おしき
建部智美
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