押されつつ押上行きに今日も乗る押上駅には行かないけれど
森崎理加
こぼれ種の庭のトレニア花盛り華の無償をひとり占めする
青山良子
ひとはけの雲のびやかに秋の空私の心純になりたし
北岡礼子
干柿の甘さを一気に呑み込みて季節丸ごと身体に入れる
児玉南海子
いちどきにアメリカンブルーの花ひらき数へるたびに違ふ数です
高田香澄
リハビリに鶴を折れるが無器用に空に飛べない鶴に仕上がる
田中春代
天の恵み受けて太れる秋採りの茄子は節立つわが手にやさし
友成節子
形而下か形而上かは今もって理解できない 時に流され
藤田直樹
一つずつ朝の扉を開けてゆくシャワー歯磨きシューズの紐を
宮本照男
死ぬ前に食すべきものはビール、豚カツほがらに語りき老いを知らぬ日
山北悦子
二十歳から君と歩んできた道を振り返りおり カレンダーの前
渡邊富紀子
この冬もよろしくこたつに微睡めば記憶の中の猫も添い来る
伊雪佑
物件のチラシに小さく「築5分、駅から5年」クスッとしあわせ
鎌田国寿
母親の嬉しい言葉の断片の何時だったのか手繰る想い出
木下順造
ひたすらに只ひたすらに生きて越し僅ばかりの幸を求めて
松下睦子
時折の吹きくる風に秋を知る胸に時間の入り込むごとき
井手彩朕子
待つといふ事も仕事の一つぞと言ひ聞かせつつ足組み変ふる
高貝次郎
殺めるを何故そこまで手軽にできるのか 花びら地雷、ポケベル爆弾
小笠原朝子
幾へと別れただろう秋の日のつるべ落としは淋しさしみる
草刈あき子
庭先に生れたばかりの秋の風黄色の小菊ふるふる揺れる
今野恵美子
あのように抱きくれぬか競り人の腕に丈高き白菊の花
高田好
風に乗りふんわり香る金木犀記憶の隅の思い出たどる
上中幾代
辞めることできずにいたり生きること書くことありて今日の一日
高野房子
僕は古い背の低い永久蝋人鼓動のすみに情熱を持つ
一色春次郎
ベランダの花が見送る選挙カー裏金子育て叫び過ぎゆく
池田澄子
畑中のいくつもの墓この土地に未来もずっと帰る人呼ぶ
清水素子
戦争で死なねば飢えで死ぬという酷い二択よガザの民等は
高橋美香子
溜息がのぼってのぼって月までへ何の悩みか忘れてしまった
髙間照子
我が身よりカラカラカラと音の鳴る 介護で力尽きた抜け殻
建部智美
たおやかに風にそよげる秋桜のごとく仕事をこなせる友よ
田中昭子
短歌の会 覇王樹|公式X