見出し画像

【観劇】松尾スズキさん脚本・演出 舞台「フリムンシスターズ」

 松尾スズキさん脚本、演出、そして長澤まさみさん、秋山菜津子さん、さらに阿部サダヲさん出演の舞台「フリムンシスターズ」を観てきました。

 「フリムン」というのは沖縄方言で「気がふれる」「狂った」という意味でこの言葉を入れたお芝居のタイトルって観たことがない!と沖縄出身の私は今回の舞台をとても楽しみにしていました。

 

★キャストの魅力とダンスに魅かれて

 物語は長澤まさみさん演じる沖縄出身でユタ(シャーマン、霊媒師)の血筋を引き特別な力がありながら生きる気力を失って東京にでてきた「ちひろ」と秋山菜津子さん演じる落ちぶれてしまった女優「みつ子」、そして阿部サダヲさん演じるその女優の付き人で過去を抱えたゲイの「ヒデヨシ」の3人がにちひろのバイトするコンビニで出会って、もう一度人生をやり直そうとするまでを描いたものなのですが、お三方の他にも個性豊かなキャストで歌にダンスにと魅力溢れる濃密な舞台でした☆☆

 実は松尾スズキさんの演出舞台を観るのは初めて。演者も秋山菜津子さんは世田パブで数回拝見したのですが、長澤まさみさん、阿部サダヲさんのお芝居もはじめてでした。まず、まさみさん。いや〜もうウチナー(沖縄)なまり、イントネーションが完璧でした!どこをどう聴いても、どの場面も私の沖縄の友人と話しているみたい笑。キラキラとチャーミングに、そしてユタのチカラを持ってしまった人としての葛藤を泥臭く限られた時間でとても上手く演じ分け、さらに歌にダンスにと素晴らしかったですね。もちろんその持っているセンスを引き出したのが松尾さんだと思いますがまさみさんにとって今回のステージはまたさらに大きな経験になったのではないでしょうか。

 秋山菜津子さんのステージについては私はこれまでシリアスなキャラクターを演じられている作品を観ることが続いたのですが今回の「みつ子」はとても可愛らしくて!戸惑いから怒り、悦びと女優である自分とひとりの女性としての自分を行き来する表情、そしてもちろん歌にダンスにととても綺麗で感動しました☆秋山さんのように年齢を重ねたいと思いました…。

 阿部サダヲさんはコロナ感染という大変な事態から復活!想像以上のパワーで、私は前方席で拝見したのですが過去を抱えたひとりの人間の生き様を笑いに包んで見事に演じられていました。特に目の動きが素晴らしいですね。舞台が終わったら眼圧とか大丈夫かなと、勝手に心配してました笑。

 鮮やかなセットの中でキラキラする表現者たち。舞台が始まってからそのスピードに追いつくまでが大変でしたが、それぞれの悩み、苦しみから抜け出しやがて自分の居場所を、そして自分自身を見つけてゆく物語の主役たちのフィナーレへと続くすべての希望の歌とダンスは私の心の奥に沁みました。



 というのが全体的な感想なんですが沖縄出身として実は他にも感じたことはありました。ネガっぽくなるかな?また少しネタバレになるかもなのでこれから舞台をご覧になる方はスルーしてくださいね。


★劇中のセリフ

 まさみさんが演じられたユタの血筋を引くちひろが「ユタは奴隷だ」と言う表現がありましたが私はそのセリフに違和感がありました。祖母や母親がユタで自分も勉強するかも、という友人がいたんですが彼女は引き継ぐことを拒否してませんでしたし、ほかにもやはり母親がユタでユタの働きを引き継ぐことをためらっていた男性も知っていますが、生まれを否定することはありませんでした。そのため脚本の上だとはいえ、あのユタそのものを否定とも取れるような「ユタは奴隷だよ」というセリフは悲しかったですね…。ちひろが生きる気力をなくした環境にいるからこその一言だとは理解していますが。さらに物語の中での在沖米兵との性的やりとりを思わせるシーンがあるのですが、登場人物像のアイデンティティが作られてゆく過程で必要な場面だということもわかるのですが、復帰前後の沖縄にこう言う歴史がある、と客席に教える意味があったのか、それともたくましく生きていた沖縄の女性を描きたかったのか…結局私はそのシーンの答えを見つけられずにいます。答えはないかもしれませんが(すみません!)。「フリムンな世界」にしたくないのに「フリムンな世界」はまだまだ今の沖縄に隠れている…そんな沖縄を見せられた気もしています。

 また、放送禁止用語が何度も出てきましたが取り入れることがかっこいいのか受けているのかそれはわかりませんがこのコロナ禍で何度も出てくると耳心地、、、悪かったです(すみません!)。


★メッセージをこれからも 

 しかしながら松尾さんの脚本、演出がこれほどまでにパワフルで人々を圧倒しその心を掴むのは、おそらくですが松尾さんの中に「日本は平和である」という絶対的な確信があるからではないかと感じました。穏やかな日々はすぐそこにあるからこそ舞台で真逆の世界を描く。私たちに可笑しく、突き刺すようにメッセージを送ってくる。今回の舞台で松尾さんのもっと深いところにある言葉を聴きたくなりました。とても貴重な時間でした☆



#舞台感想




この記事が参加している募集

スキしてみて

舞台感想

サポートいただけましたら詩(エッセイ)作品集の出版費用の一部として使用させていただきます★ どうぞよろしくお願いします。