シーマンとパカパカ(ウラジオ日記13)

タオルを腰に巻いて、今度は受付の方の椅子に座ってぼんやりテレビを見つめる。レストランを舞台にしたコメディーのようだ。何を言っているのかはわからないがつまらなそうである。

しばらくすると誰かが近くに座る。何か話しかけられる。英語だ。振り向くと、さっきの親切に教えてくれた男である。どこから来たと聞かれたので、日本というと、日本に行ったことがあると言う。「小樽」
ぼくは驚いて、「なんでまた、小樽?」と聞くと「俺はシーマンだからだ。」と言う。船乗り。ウラジオストク港から北海道は確かに近いから、不思議ではないなと思った。ロシアはサーモンが有名だ。彼が言うには、日本のサーモンの方が美味しいらしい。

またバーニャ小屋に戻ると、恰幅のいい親父が俺に話しかけてくる。ロシア語で何を言っているのかわからない。適当に相槌を打っていると、向こうの青年が立ち上がりバルブを捻る。すると恰幅のいい親父が何か文句を言っている。「暑い、暑い」と言っているのか。結構怒っている。青年は無視して葉っぱを叩く。もう一人の親父も無視。やれやれというような顔で見ている。名物親父的な人なのかもしれない。恰幅のいい親父の声だけが小屋に響いている。

またテレビを見ていると、腰にタオルを巻いたまま、外に出ていく人をよく見かける。俺も外に出てみると、バーニャの前の公園でベンチに座って涼んでいる。外気浴だ。これは気持ちよさそうだと、ぼくも座る。もう荷物のことなど気にしていない。着いてからずっと思っていたが、ウラジオストクはとても治安がいい。もしこれを読んで、安心して置き引きにあっても、ぼくは知らない。

戻るとシーマンがぼくにお茶を注いでくれる。紅茶とハチミツで栄養と水分を摂るのはバーニャの鉄則だという。俺はそろそろ行くからと、彼は立ち上がり、しばらくすると服を着て戻ってくる。出て行くようでもなく、受付のあたりでスマホをいじっていて、何をしてるんだろうなと見るでもなく見ていたら、

「サヨウナラ。トテモアリガトウゴザイマス。」

と日本語で言われた。それ調べてたのかと、うれしくなった。握手して別れる。

またバーニャに入って、水を浴びて、タオルを巻き、外のベンチで涼む。タバコを吸いながら本を読む。ドストエフスキー。こんな時しか読めないだろうからと持ってきたのだ。結構面白い。

戻ってお茶を飲んでいると、入ったときには愛想の悪かった、受付のおばさんが、何か笑顔で話してくる。好意的ではあるらしい。

またバーニャに入る。今度は誰もいない。あの葉っぱの束は受付に行けば買えるだろう。少し気になる。落ちてた葉っぱを手に取ると貧乏くさいがそれを体に少し打ってみる。太ももが痒い。もともと肌が強い方ではないし、かぶれそうなのでやめておいた。あれは白樺の葉らしい。水を浴びて、タオルを巻き、外のベンチで涼む。そろそろオペラの時間が近づいてきたから、体を軽く洗ってバーニャを後にする。外に出ると、さっきのおばさんがベンチで休んでいる。

「スパシーバ」と言ったら、

「パカパカ」と手を振ってくれた。

パカパカはロシア語でバイバイだ。でもこの一度しか旅行中は言われなかった。語感がかわいいから気に入って、「パカパカ」と手を振り返した。


P.S.このブログを見て行きました。

読み返してみると、貴重品預けられたみたいですね。

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