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「イケフェス大阪」の季節

140b 販売隊長 青木 雅幸

毎年お盆が明けると小社140Bというか、私個人は「イケフェス大阪」モードに突入する。「イケフェス大阪」とは、大阪で毎年10月の最終土日の2日間だけおこなわれる「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」の略称で、今年2023年、10回目の開催を迎える日本最大級の建築公開イベントのことである。その「イケフェス大阪」の毎年出版される「公式ガイドブック」を140Bが販売担当している。

「イケフェス大阪」の2014年の第1回、2015年の第2回は当時主催だった大阪市がスケジュールブックとしてプログラムガイドを無料配布していたが、2016年より実行委員会が「公式ガイドブック」を作成し140Bが販売のお手伝いをすることになり、2017年より取次扱いの書籍として毎年(2020年は新型コロナ感染症の影響で「イケフェス大阪」が中止)発売している。今年2023年も『OPEN HOUSE OSAKA 2023 生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2023 公式ガイドブック』の10月上旬発売に向けて8月中旬から書店営業やイケフェス大阪の実行委員会の制作チームとのやりとりが始まっている。

OPEN HOUSE OSAKA 2023 生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2023 公式ガイドブック

 そもそも建築公開イベント「イケフェス大阪」とは何かを簡単に説明すると、大阪市内を中心に主に近現代に建てられた、歴史的、社会文化的に貴重な建物で、現在でもオフィスや公共的なスペース、商業建物として使われているものを期間限定で一般に無料で開放し、専門家からマニアまで、広く一般に見てもらうという趣旨のイベントである。回を重ねるごとに公開される建物も増え、ビルや入居する企業のオーナーが独自に趣向を凝らし当日限定の展示やプログラムなども増えてきている。大阪に残るこれらの貴重な建物(それは決して著名な建築家によるものだけではない)の再評価や建物保全、再利用への可能性にも大きく貢献する公共性の高いイベントである。

 「イケフェス大阪」の実行委員で事務局長の髙岡伸一先生(現、近畿大学建築学部 准教授)、同じく実行委員である倉方俊輔先生(現、大阪公立大学大学院 教授)、嘉名光市先生(現、大阪公立大学大学院 教授)、いずれも若き(?)フロントマンたちの情熱が、大阪から発信する日本の建築公開イベントを牽引、近年では2022年から開催の「京都モダン建築祭」、2023年秋開催予定の「神戸モダン建築祭」などにも大きな影響を与えている。また、これらの実績が認められ、2019年には国際組織「OPEN HOUSE WORLDWIDE」に日本で初めて(アジアで2つ目)の都市として正式に加盟した。

「イケフェス大阪公式ガイドブック」の話に戻ろう。
 きっかけは2015年、当時140Bの編集部のエースであった大迫力(おおさこ・ちから/本名である)によって『生きた建築 大阪』が刊行されたことに始まる。本書は「イケフェス大阪」の公開建築のベースにもなっている「生きた建築ミュージアム・大阪セレクション」に認定された50の建物を紹介したもので、今でも「イケフェス大阪」の副読本として定番となっている。その『生きた建築 大阪』の編著者でもある髙岡伸一事務局長から「イケフェス大阪の公式ガイドブックを一般の書店さんで販売出来ないか」という相談を受け、2016年は140Bが実行委員会に各書店を紹介する形の直取商品扱いに、2017年からは「生きた建築ミュージアム大阪実行委員会 発行/140B 発売」の形で一般書籍として取次ルートでの販売をすることになり現在に至る。一般発売された2016年の初年から「限定された2日のツアーガイド」としては異例の実売数を誇り、大阪の書店さんにとっては「恒例のお祭り」となっている商品である。ちなみに『生きた建築 大阪』の方も、2023年9月に8年ぶりの重版出来となった。

生きた建築 大阪

 販売初年度の2016年は実行委員会さんとの直取引ということで大阪の主要書店さんに「イケフェス大阪」とガイドブックの必要性を説明するところから始まった。書店訪問の営業には、なんと実行委員の倉方俊輔先生(今やテレビ出演などで大人気!)が何度となく同行してくださった。その倉方さんがすごかった、いやぁほんまに。倉方さんはまず、売場担当の書店員さんへの挨拶もそこそこに、いきなり「イケフェス大阪」について説明し出すのだが、倉方さんは大学の先生であり、実行委員会のメンバーであり、イケメンでもある。大方の書店員さんは、はじめ「イケフェス大阪」ってなんぞやとかなり怪訝な、しかし緊張した表情で説明を聞いているのだけど、次第に倉方さんの熱量溢れる隙のない、そして何よりも楽しそうなセールストークに心を掴まれ、「イケフェス大阪」が大阪の街中をミュージアムに見立てて公開された建築物を見て歩く企画だとわかると、途中からほとんど全員が笑顔になっていく。特に建築に興味がなくても、大阪の人でなくても、ほぼ例外なくみなさん「楽しそうですね」と声に出してもらったり、笑って話を聞いてくれる。そして倉方さんの説明がひと通り終わったころにはもうほぼ全員が「イケフェス大阪」のファンのようになっている。後は具体的な仕入れの条件や手続きの話をするだけであった。
 長らく書店営業していても、こんなにきれいに同じような好印象の手応えのあるケースは珍しい。これは後に一人で商品説明の営業に行った首都圏の書店さん、各取次仕入の窓口担当さん相手でもほぼ同じだった。それは “嗚呼、この仕事は「イケフェス大阪」の企画のダイナミックな素晴らしさとイベントの公共性に少なからず貢献しているんだな” という大きな気づきと「公式ガイドブック」に値札をつける自信にもなった。

 そして、この営業初年度のインパクトが今でもずっと「イケフェス大阪」への共鳴するモチベーションになっている。もちろん「公式ガイドブック」発行/発売の一連の段取りは仕事である、しかしそれ以上に私個人も楽しんでいるのだ、私もいつしか笑顔になって「めちゃ楽しそうなイベントや思わへん?」と書店員さんに話かけている。実際に「イケフェス大阪」に参加してくれている書店員さんがいることもすごく勇気になっている。
 ただ不思議なことがある、何故か「イケフェス大阪公式ガイドブック」の仕事は毎年冷や汗をかく事故が(特に流通面で)起こる。繰り返すが「イケフェス大阪」はたった二日間という期間限定のイベントである、当然「公式ガイドブック」の販売の日程管理は営業を担当している私の大きな仕事であり、通常の商品以上に責任も重大で慎重にあたるように心がけている。それでも発生する不条理なアクシデントに「これはもしかすると、腹を切って実行委員会さんに詫びるしかないかも」と思うようなケースもあった、その時は印刷製本を担当してもらっているライブアートブックスの小玉さんが助け舟を出してくれた。これはもう、毎年のことと言いながら発行と発売が別であるというこの商品特有の緊張感かも知れないし、毎年9月末取次搬入という出版流通の混む時期だけに神さんからの「仕事を忘れるな」という啓示かも知れないとも思い、念には念を入れろと肝に銘じている。

 販促面では新型コロナ感染症が世界を覆い出すまで毎年、「イケフェス大阪」の開催直前の超多忙な時期にも関わらず、髙岡・倉方の両先生に「イケフェス大阪のプロモーションです」と無理を言って首都圏の書店さんでの「公式ガイドブック」発売記念トークイベントを企画開催していた。これも私なりの「イケフェス大阪」への関わり方の表現だったと思う。大阪だけでなく、もっともっと広く多くの人に「イケフェス大阪」の魅力を知って欲しいし、おふたりの魅力的なトークはそれを可能にする力があると感じていた。そしてこの「公式ガイドブック」を日本中の書店さんにお届けする、それが販売を担当する140Bの出来ることで、やはり「公式ガイドブック」の販売増こそが「イケフェス大阪」への貢献に他ならないのだと考えていたからだ。本当は大阪を離れたくない時期に私の無茶振りおつき合い下さっていた髙岡・倉方の両先生には、ただただ感謝しかない。(過去の書店イベントの話も山ほどあるが、次の機会に譲ることにする)

 そして今年は4年ぶりに書店イベントも復活させる。この日記のアップ日にはもう終了しているが、9月30日(土)にMARUZEN&ジュンク堂書店梅田店さんで【「イケフェス大阪2023 公式ガイドブック」刊行記念 激突! イケフェス大阪vs京都モダン建築祭】と題して、髙岡伸一さん(生きた建築ミュージアム大阪実行委員会事務局長)と笠原一人さん(京都モダン建築祭実行委員長)によるトークイベントを開催。大阪と京都の実行委員会連動の試みのひとつである。大阪の書店さんでは2016年のジュンク堂書店大阪本店さんでのトークイベント以来(2017年からは先に述べた通り意図的に首都圏でプロモーションしていた)ということになり、日記執筆の9月中旬現在、会場リアル参加の申込みは受付早々にSOLD OUT、オンライン視聴も順調に受付中とお店から聞いている。

 今年の「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2023(イケフェス大阪2023)」は10月28日(土)、29日(日)に開催される。当日、表紙にデザインメッセージのたっぷりの「公式ガイドブック」を手にした建築ファンが大阪の街中に溢れかえること祈っている。
「イケフェス大阪」の季節はこれから、まだまだ熱い。

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