アイルランド文学を語り継ぐ

アイルランドフューシャ奈良書店 荒木 孝子

1.どうしてアイルランド文学なの?
こんにちは。なぜ日本からは遠いアイルランドの文学作品を翻訳することになったか、そもそもの始まりから書き始めようと思います。

アイルランドの音楽やダンスは日本でも親しまれていますが、さて、文学となると‥‥小泉八雲から始まって、スイフトの「ガリバー旅行記」、オスカー・ワイルドやジョイスやイェイツはご存知と思いますが、現代作家についてはいかがでしょうか。私たちのグループは、アイルランド語を勉強することからつながりが始まりました。グループの中の一人、荒木がアイルランド語を勉強していたのです。日本中でアイルランド語を勉強している人たちが少ないなかで、よりによってこの奈良の田舎で、荒木に賛同して勉強しようなどと思ったよっぽど奇特な人たちのグループですから、細々ながら長続きしています。私たちのグループ名である奈良アイルランド語研究会は、もともとアイルランド語を勉強しているグループでした。

2.え、出版するの?出版社になるの?
そのうちに会話だけでなく、読んだアイルランド語の本を出版しようか、という企画が持ち上がりました。日本の出版社は、アイルランドは知っている人が少ないとか、いろいろな理由で、出版の望みは断ち切られました。思いついたのがアイルランドの出版社です。読んでいる絵本の出版社には、日本のゲームオタクがいました。交渉すると、出版OK の返事がきました。そういうわけで、私たちのグループが最初に出版した絵本2冊はアイルランドの出版社からです。ルーァリーシリーズ2冊です。『ルーァリーのついていない1日』は共感を持たれたのか、不思議にも売り切れました。
しかし、いつまでもアイルランドの出版社に頼るわけにもゆきません。出版費用はもとより、海外からの本の運送代金や関税もばかになりません。話し合いの結果、自分たちで出版社を持とう、ということになりました。アイルランドフューシャ奈良書店、という長い名前の出版社になりました。アイルランド関係だけの本を出版する予定でしたが、現在は少し門戸を広げています。とはいうものの、大幅な赤字経営からは脱出できていません。グループ内での意気込みだけは、誰にも負けません。赤字にもかかわらず、です。

3.アイルランドの作家たちとの交流
グループが翻訳したアイルランドの作家たちとの交流も始まりました。絵本作家のコルマーン・オラハリーさんを招聘した講演会も開きました。
 そのうちに絵本だけでなく、現代アイルランドの童話も読み始めました。アイルランドといえば、妖精の国です。妖精について多くの物語を書いているエディ・レニハンさんの『異界のものたちと出遭って

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という本に取り組み始めましたが、何しろ日本の妖怪とは違って、アイルランドの妖精たちです。どうもアイルランド人は、妖精たちとともに生きているようで、理解しにくいところも多くありました。そんな時には、ためらわず作者のレニハンさんに質問をしました。そして、ついにレニハンさんも奈良に招聘することができました。レニハンさんはアイルランドだけでなく、世界的に有名な作家ですから、奈良だけでなく、京都の会場や東京のアイルランド大使館でも講演をして頂き、好評でした。子どもたちが、言葉はわからないながらも、ジェスチャーや語り口で、レニハンさんのお話にきらきらと目を輝かせながら、聴いていたのを思い出します。
 幸いに文科省の助成金を得たので、研究書も出版できました。アイルランド文学に関係する研究者の方に執筆をお願いすることもできて、『語り継ぐ力』が生まれました。その後、絵本もトビーというおちゃめな犬シリーズも翻訳出版しました。

4.今は何をしているの?
 Sonas is So 『しあわせいっぱい』という詩の翻訳を試みています。現代の暗い時世に、少しでも明るく楽しい詩をお届けすることができたら、嬉しいです。
ただ今は、コロナウイルスのせいで、私たちの活動の拠点となっている奈良市ボランテァインフォメーションセンターが閉館になってしまっているため、一時的に活動休止となっています。1日も早く、この災いから抜け出す日の来ることを願うばかりです。

アイルランドフューシャ奈良書店の本の一覧

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