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日本外務省のアフガニスタン対応について考えた

 8月15日、現地に在留邦人等を取り残し邦人保護業務という重大な任務を放棄し雲散霧消した12人の在アフガニスタン日本大使館員と当該行為を黙認(或いは指示?)した日本外務省について考えてみました。

1    日本国外務省(在外公館)のユニークな人事・給与システム

  外務省には、霞ヶ関の官庁としては極めて稀有な「職員ファースト」のユニークな人事方式が存在します。これは在外公館という特殊な勤務地(環境)を有していることから職員間における公平性を担保する意味でも大切なシステムなのかもしれません。

  🔹 ポスト志願・応募方式

    誰でも世界中の在外公館におけるポストに対してピンポイントで自由に志願・応募できます。

    例えば霞ヶ関の本省で勤務している高卒の理事官クラス或いは三等書記官クラスの職員が「ワシントンで勤務したい。それも官房職員(会計、総務など)で」と希望したとしましょう。そういうポストが空いていれば本人のスキルなどは度外視して自由に応募できるのです。

    実際に当該在外公館で勤務できるか否かは別として、そう言うシステムが存在すること自体、他官庁に比して極めて稀有な官庁ということができるでしょう。

 🔹 過酷な勤務地への発令前には必ず本人に事前打診がある

   逆に本人があまり望まない危険でリスクの高い国のポスト、すなわち今回のようなアフガニスタンを含め、シリア、イラク、イランなど外務省の業界用語で「不健康地」「奨励度が高い」在外公館に勤務を命ずる前には、発令前必ず本人にイエス・ノーの打診を行うシステムが採られています。「命令なんだから否が応でも言ってもらう」とする他の霞ヶ関官庁の人事異動とは根本的に異なる、職員がにとっては有り難い「職員ファースト」のシステムと言えます。

 🔹 「健康地」と「不健康地」での勤務は基本セットで

   外務省は世界各地に点在する約200以上ある在外公館全てを「健康地」「不健康地」の二つに大きくカテゴライズして職員管理を行なっています。

   「健康地」とは、G7各国をはじめとする所謂先進国のことを指し、「不健康地」とはそれ以外を言います。さらに「不健康地」を一から五までの五段階に分類しています。今回問題になっているアフガニスタンは「五」に該当する任国の一つ(他にはシリア、イラクなど)であり、これらを「奨励度が高い」公館と呼んでいます。

   そしてキャリアを除き在外公館勤務は基本的に「健康地」で2年、「不健康地」で2年の4年がワンセットになっています。(どちらが前置しても)

 🔹 給与は二階建て

   在外公館勤務を命ぜられた職員は、当該任国に赴任を開始すると通常受け取っている基本俸給にプラスして「在外勤務手当」という特別手当が支給されます。このコロナ禍で倒産の憂き目に遭っている方々にはそれこそ垂涎の「二階建て」給与システムとなっています。

   制定趣旨は、「日本の外交官として恥ずかしくない程度の生活レベルを保持するため」「海外で日本食を購入する際における物価差異対応」「任国における外交活動、各種情報活動(今回のアフガニスタンの場合で言えば、NATO各国或いはタリバンからの危険情報収集など)を活発に行い、もって日本の国益に資するため」です。

   そしてこの「在外勤務手当」は、「奨励度の高い」在外公館ほど手厚く配分されるシステムになっています。在米日本国大使館員の生活レベルをゼロ基準として、各国の危険度、衛生度、利便性を考慮に入れて各国の手当額を決定します。

   今回の在アフガニスタン日本大使館の例で言えば

   🔹 奨励度が「5」の不健康地、戦乱の危険性が高い極めて不健康な任国

と言う外務本省の判断でしょうから、相当額の在外勤務手当(業界用語で「在勤手当」)が支給されていたものとみられます。金額については、大体予測はつきますがここでは割愛させていただきます。

   中東、アジア地域の在外公館では高額の在外勤務手当が自宅の清掃、子守をする家政婦や自動車の運転手(ショーファー)を個人で雇用する際の給与に充当されます。

2   厚遇を受けながらも、邦人保護と言う最優先任務を放棄して国外退避

  上記のとおり、アフガニスタンの日本大使館員は常識以上の厚遇で現地で外交活動を約20年間展開してきました。2001年から数年間は国際テロ組織などによる自爆テロなども多発していたことから、大使館の位置を一切明らかにせず忍者のような活動を行うなど精神的体力的にも極限に近い状態で勤務されていたやに聞いております。

  ここ数年は、いかなる生活を送られていたのか情報もないことから明らかではありませんが外交官が本来なすべき任務については勤務環境が過酷であるか否かに拘らず粛々と遂行されるべきでした。

  🔹 任国政府とのパイプ作り(かつての国軍、政府関係者)

  🔹 米軍、英軍をはじめとするNATO軍関係者

  🔹 隣国パキスタン政府関係者

  🔹 タリバン関係者

 ざっと思いつくまま列挙しただけでも上記の情報チャンネルが想起できますが、一体今回アフガニスタンから退避した外務省員(大使館員)はこれらの情報線を確保していたのでしょうか?

 確保してたとすれば、何故今回のタリバンの破竹の勢いによるカブール占拠とその後の一連の流れについて情報収集できなかったのでしょうか?

 なぜ大使館員以外の邦人、日本大使館や政府機関に貢献してくれたアフガニスタン人らを取り残して自分らだけさっさと国外に待避できたのでしょうか?

 この問題は、自衛隊を現地派遣して現地人や在留邦人を救出するといった美談の影に隠れる形で黙殺してはならないと思います。世界中に邦人が居住或いは旅行、出張している現状に鑑みても、今回この事案はなぜ起きたのか?誰の指示でこうなったのか?我々の税金で職務を執行している外務省の説明責任が問われていると思います。

 ここまでお読みくださり、ありがとうございました。   



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