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あの店主さんが無愛想な理由。

雑誌やネットなどでお店の商品や展示棚を見たり、スタッフブログや店主のインタビュー記事を見て、「いいなぁ」と思っていたお店へやっと出かけてみたら、「あれ…?こんなに無愛想な店だったんだ」と驚くことが多い。

メディアやSNS等を通じて一方的に親しみを覚えていた店の人が、ニコリともせず無表情でレジ対応をされて、会話どころか、こちらの顔を見ようともされないし、近寄りがたいオーラが…

ずっと前、知人から外国の方を紹介されて、笑顔で握手を求めたら、無表情のまま、しぶしぶ(といった体で)手を出されたことがあった。ああそうか、アメリカ人相手ならそれでもよかったのかもしれないけれど、その人は確かドイツの方だった。昔、ドイツに住んでいた兄を訪問、滞在した時に出会った方々も、物静かで少し気難しいような、あるいはシャイで人見知りな印象だった。だから日本で普段しているように、ただ軽く会釈して微笑すればよかったのに、私はオーバーリアクション&笑顔で握手を求めたりして場違いだった、と後で気づいた。

気になっていた店で店主に笑顔で何か話しかけようとして、「あれ、なんか空気違う?」とギクリとする感覚は、それに一番近いかもしれない。冷静に考えれば怒っているわけでも、嫌われているわけでもなく、ただテーマパークの方のようには笑顔を見せないというだけのこと。

いっぽう、とても敷居の高そうなお店で、思いがけず気さくに接してくださる店主さん出会うことがある。緊張して訪問したのに、驚くほど庶民的で親しみを持てるタイプで、思わず個人的な話までして打ち解けたりして。そんな経験はずっと心に残り、「いいお店だったなぁ。あの人素敵だったなぁ…」と大事な思い出の一つになったりする。

ただ、二度目に足を運びやすいのは、店主が寡黙で愛想の悪い店の方だ。顔も覚えられていないし、ただの客として行って、欲しいものがなければ買わずに帰っても気まずくない。反対に、感じよく迎え入れてもらったお店へは、なぜか「特別感」が強くなって足が遠のいてしまう。馴れ馴れしく頻繁に通って迷惑そうな顔をされたら、せっかく楽しかった「初回の思い出」が台無しになってしまうと恐れるというか…

それでも、もし大事な人を連れて行くなら絶対に「感じの良い店」の方だし、より大きなお金を落としたいと思うのも、店主に快く迎えてもらった方のお店だ。それは当然のこと。

だからどちらがどうとは言えないけれど、もし私が店をするなら普通に考えて、「感じよく振る舞う、親しみの持てる店主」だろうとずっと思ってきた。でも…でもなぁ…

というのが今日の話。

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10ヶ月前に一坪の雑貨店を始めてみて、お客さんにはいろんな方がいることを知った。

1.自分の作品を置いて(売って)欲しいと頼んでくる方

2.おしゃべりや暇つぶしにやってくる方(アドバイス的なものや情報提供なども)

3.自分の活動や応援したい団体や個人の宣伝、コンサートや個展への誘い、創作のお願い(無償?)、様々な相談事、取材(情報収集)、セールスの方

4.普通のお客さん&感じの良いお客さん

5.モノをくださる方(飲食類の差し入れや、お店の雰囲気に合いそうな古いものを寄贈など)

様々な用事や経緯で来られる方々との交流は、ごく些細なものだけれど、初めて訪問される方はどなたも新鮮で、風変わりな方や何も買わず無言で去る方も「ギョッ」とする訪問も含め、心が動くことが多い。感動的な出会いもあったりする。もともと私は一瞬のやり取りの配達員の方や通りすがりのひとにも人間性を感じるとほっこりする方なので、初めてのお客さんのことは両手を広げて歓迎していると言ってもいい。

ところが、その後お店を何度も訪問される方に対して、戸惑いを覚えることがたまにある。もっとはっきり言えば、嫌悪感のようなものも…

二回以上お見えになる方は、大きく分けると4つのタイプに分かれる。

1.くじ引きを気に入って

私の店では、仕事で担当した量産品の雑貨サンプルをお譲りするため『くじ引き 50円』(今年いっぱい、小学生までは10円)を用意していて、親子連れのお客さんや大人の女性で何度も見える方が結構おられる。特にお子さんは商品を選ぶのに真剣に悩むので対応に時間はかかるわりに収入は10〜50円だけれど、量産品に関して一般の方の声が聞けるのとサンプルも減らすことができるのが良い。お子さんとの心の通い合い、などという甘いものではなく、即物的というか「それは選ばないんだ、ああ、趣味じゃないのね?ああそう、結構シビアだなぁ…」という発見が心地よいのだ。

2.レコードや本など、不定期で店頭に並ぶ掘り出し物を見に

うちは基本的に仕入れをしないギャラリーショップなので展示内容にはあまり変化がないものの、たまに家族からの提供や自分のお気に入りの品を放出してお買い得の本やレコードなども追加で並べたりするので、こだわりの趣味をお持ちの「目利き」の方々やお店関係の方がふらっと「何か面白いものはないか」たまに覗いてくださるのは刺激になってありがたい。

3.お友達やご家族を連れて、町案内がてら再訪

一度来て気に入ってくださり、「面白いお店」「ぜひ見て欲しい!」と身近な人に紹介していただく形なので、店主としては最も嬉しい再訪のお客様、かもしれない。

4.店主や一坪空間に親しみを覚えて?

このタイプの方の対応が難しい。

男女にかかわらず、初来店の方と話が弾むことがあり、個人的なお話を伺うこともある。もし私が客の立場なら、冒頭に書いたように「初めて行った店で話が弾めばはずむほど、初回の思い出を損ねないために足が遠のく」のだけれど、余韻も何もなく数日後や翌週からどんどん、エンドレスで訪れる方が結構おられることに驚く。

おそらく慣れた喫茶店へ通うような、止まり木感覚で寄ってくれるのだろうけれど、どなたもあまり作品を見ている気配はない(というか日をあけず三回以上の訪問に耐えられるだけの品揃えや展示の変化がないのだ)し途中から買い物を一切しないで「知り合い」としてお見えになっている様子。中には度を越した回数や時間帯の訪問も…

いくつかのお店で聞いたところ、似た経験を持つのは小さな空間で静かに店をしている雑貨店や内装がかわいいカフェの女店主ばかり。私自身、お店を開ける日をかなり減らしてしまったのだけれど、他のお店でも営業形態を変えたり、お店のカフェスペースを閉めたりしたそうだ。

昔からよく思うのは、「人は相手を見て態度や行動を変える」生き物だということ。お客さんに悪気はなく、「応援」「共感」「親しみ」からの善意の行動なのだろうけれど、店側にとっては悪気のない方を追い返すことに躊躇し葛藤するので地味に、でも結構しんどい。

男性が多く、特に夜間訪問や並外れた距離感にずっと困っている方は父に近いご年配の方なせいか、過去に父が入院していた病院で出会った方とのやり取りを思い出してしまう。人として「その場に居合わせた」以上はある程度誠実に対応したいとは思うけれど、どこまで付き合う必要があるのか…


ここで冒頭の話に戻る。人気店の人たちの多くが無愛想に見えるのは、そうしたことを踏まえての態度なのかもしれないと私は身をもって気づいたのだ。

無愛想に見えたのは、正確には「抑制された佇まい」で、お寺や教会でそれに近い宗教者の顔を見る気もするし図書館の司書のようでもある。不可侵領域というか…

店には日々、いろんな方がやって来る。いろんな要望や宣伝を持って、あるいは店主とコミュニケーションを図ろうとして。中にはややこしい案件や他のお客さんの手前、迷惑になる場合もあるかもしれない。だから最初から、「お客さんとは商品や作品を介してシンプルに関わり、店内展示と商品だけで勝負する、と決めているのではないか」と…

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今年読んだ本の中に、気になる言葉があった。

人間は、「すべて」を望むと破滅する。ただ何を抑制し、何を抑制しないかという点は、個々人にまかされているのだ。(『とりかえばや、男と女』河合隼雄/新潮文庫より)

私は、初めて訪問された方を、手放しで歓迎している。

ただ、それはかつてドイツの人に軽薄な笑顔で握手を求めたような、過剰な振る舞いなのかもしれない。その態度と、すぐに値引きをしてしまうカジュアルな(投げやりな)行為が、お客さんに親しみを持たれすぎて(軽んじられて)、結果的に自分を苦しめるのかもしれない。

いくら商売っ気が無いとしても、お店という形で人を迎える以上は、その空間の世界観をコントロールする(指揮者のように)必要があるのだと思う。たとえ、わずか一坪空間だとしても。

もっと、もっとと近づいて親しさを求められる方のことを、私は徐々に苦手になり、最初の「感じの良い印象」や楽しいひと時の思い出は消滅する。だけど、ひとを嫌うのは簡単なことではなく、なかなか無碍にはできない。

ここに書いたって該当する方はこの文章を読むことはないと思うし、読んで意味を理解する方ならそもそも空気を読めるはずだし、これは件のお客さんに向けての文章としては効果はゼロだと思う、ただ、自戒を込めて、今発見した気づきを研究成果として記しておきたい。

そんなことを思っていたら、離れて暮らす夫がこう言ってくれた。「くじ引きを10円でしに来た子供さんたちは、将来ふと、子供の頃、あんなお店に行ったなぁ、とあなたの店を思い出すかもしれないよ」と。

ああ、そうか…店は記憶の箱でもあるのか。

そう長くない先に、私は店を閉めることになるだろう。そして夫が関東にいるので、いずれは町を離れることにもなるかもしれない。

それまでに、発展途上のこの店に、一個でも「おお、面白い」と自分でも思える何かを置けるようにしたい。ただ、ゆっくり亀の歩みで変化、成長するしかないので、あまり頻繁には覗かないで欲しいです。望むのは一期一会の記憶に残るご来店か、たま〜に再訪して「あれ、ちょっと展示変わった?」と面白がっていただければ、それで。

この町に引っ越してきて、間もなく一年。

私は店主である前に町の住人であり、その前にフリーランスで、同時に「自由研究家」(勝手に趣味で名乗って活動しているだけですが)なんだなぁ、と思いを新たに頑張ります〜