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すべて借り物だから。

9回目の引越しを終え、片付けや整理がおおかた終わりました。

自分の人生をすごろくに例えて振り返ったり現在地を俯瞰することがある私は、引越しについても1コマ進む、2コマ進む、一回休む、などと考えてきたのですが、今は新たなステージにコマを進めた心境です。

とはいえ、引越し後の荷ほどきをしながら、コーヒーを飲みたいのに(豆とフィルターはあるのに)ドリッパーがなかなか出てこず、数日かかってダンボール(全部で50個)を開け続けても出てこないので、荷造り中に捨てたか忘れてきたのかも、と思って近所のコーヒー店で新たにドリッパーを買ったらそれが円錐形のハリオのもので(手持ちのはカリタ用)、それに伴い専用の紙フィルターも買って、帰宅してようやく待ち焦がれた一杯を飲んで「やれやれ」と荷物整理の続きを始めたら、なじみのドリッパーがひょっこり出てきたり。

あるいは引越し前に結構探し回って買った日用雑貨(2,600円税別)が、新居の近所の百円ショップに普通に置いてあったり(安っぽい作りではあるが目的は十分果たせる)、そんなようなことがいくつもあって、新たなステージの最初のコマで、いまだに足踏みしている感じです。

これまでは、それぞれ仕事や実家の関係である程度の制約があった(自分の中で)のだけれど、今回の引越しにはそれがなく、自由になる時間も増える一方で、私自身もう若くないし、というのといつ何が起こるかわからない(天災や病気も含め)という思いが実感として強くなっているので、日々を大事にゆったり、何かがあるまでは出来るだけ「今と少しだけ未来」を最優先に、何かを後回しにしないで過ごしたいなぁとこの半年ほど、考えていました。

大まかには、

⑴家で仕事をするので、長時間座りっぱなしになることや、人と会話せずに過ごす弊害(エコノミー症候群、物忘れ)を減らしたい。今度暮らす町では地域の人とある程度交流する「住人」になりたい。そんなことから、暮らしながら住まいの一角でギャラリーショップをしようと思い立つ。

⑵とはいえ、本業を忘れず、資格や許可を取ったり大掛かりなお金がかからぬよう、散歩する時間も保てるよう、お客さんがあまり来ない&長居しないような店にしたいと思い描く。

⑶ただでさえ持ち物が多いので、何かを仕入れたり自作でも量産しないで、実家の不用品(両親の遺品含む)や、〈お気に入りだけど必ずしも自分で持ち続けなくてもいいのかもしれない〉本や雑貨も展示販売したり、仕事でいただくサンプルは景品などの形で希望の方に譲れたらいいなぁと考える。

⑷そんな思いで各地へ店舗付き物件探しに出かけたものの、なかなかよいご縁がない。やむなく店舗付き物件を探すのを断念。その後、空家バンクのような公的な機関を利用しようと思い立ち、相談員さんに希望を伝えて、ほどよい観光地(の少し外れ)の町家で、(昔の商家のように)表通りに面した3畳の部屋と土間の一部を展示販売スペースにする方向で話が進み…

そして大家さんともお話をして、契約→引越し→開店準備中、というところまで来ました。

お店部分とは関係ないけど、好きな場所は階段箪笥。

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こちらの借家にあるレトロな家財はそのまま自由に使っても良い、とのことだったので、古本を置く棚などはお借りすることにして、他には青森県でりんご箱を製造販売している木箱専門店『木のはこ屋』さんで、used(再利用品)の箱を土台用に、ディスプレイ用にはヴィンテージ木箱を注文してみました。最初は茶箱を探していたのだけれど、それよりもやや小ぶりで、箱を縦横自由に重ねて高さを出せそうな「りんご箱」がよいかなと。お店をしなくても普通に部屋の収納などに使えて便利だし、大きな家具とは違って運びやすい(模様替えしやすい)のもよいなと。

あとは、土間のサイズにぴったり合う、百貨店などでよく見かける大きなガラスショーケース。普段は自分の作品や買い集めたコレクション、実家の整理で出てきた古い雑貨などを飾って自分が見て楽しんで、たまにお客さんが来てくれたら見てもらって、万一ショーケースの中のものを買いたいと言われた時にはキャスターを動かして裏側の扉を開けてお売りする(客観的には大したものではないが、自分的には大事なコレクションなので後付けの鍵を設置)という形にしようかと。

これまでの引越しは、路線や立地、設備、家賃などを優先した関係で、住む部屋の「つくり」や広さがまちまちで、自分のものなのに飾れなかったり使えなかったりして、「でもいつか飾れる時が来るかも、次の部屋では使えるかも」などと思って箱や袋に入ったまま引越しを重ねてきたものがあり、「いつか、そういう部屋に住めたら」と思いつつも、「じゃあいつ、そんな時が来るのか」とも自分にツッコミを入れていました。

でも、今回引っ越してきて、荷ほどきをしてどこに何を置くかを考えながら片付けをしていて、思ったんです。

飾るのも使うのも今しかない

この界隈、静かな町ではありながら、ここ数年で多くの雑貨店や飲食店ができてにぎわい始めた、と引越し前にネット情報等を仕入れていたものの、現地の方に聞くと「雑誌やネットに載っているお店、結構閉店しちゃって…」との話なので、私の家(一坪のお店)に人がそうそう来るとは思えないので、いっそ、それを逆手にとろうかと。

お店には、自分が〈どうしても死ぬまで持っていたいと思うもの〉以外は自分も楽しみつつ人にも見てもらって、手放しがたいものは少しだけお高めの値段をつけておいて、もしそれでも欲しい人が現れたら喜んで手放す。それでいいじゃないかと。

そもそも、「自分の周りにあるのは、すべて借り物なんだものなぁ」と思ったりもするのです。

築百年ほどのこの家。できれば長く住みたいけれど、実際は何年住ませてもらえるか(家賃を払い続けられるか)未定だし、町家の真冬の寒さに根を上げるかもしれない。

そして自分の仕事。雑貨のデザインをしています、なんて言っているけど実際には世間で流行しているデザイン傾向に沿った依頼があり企画の通りに制作するので、借り物のテイストを大半の案件で扱っている。

そして自分の体や命。親や友人の闘病や災害その他のニュースなどを見ていると、今のこの体調や状況は現時点で偶然自分に授かっているだけで、いつまで続くかはわからない。自分が変わらなくても周囲にいつ何が起こるか分からない。だから、自分の一生とはいうけれど、自力でなんとかできる範囲とできない範囲があり、この身をいっとき借りて生かしてもらっているような…

そんな風に思うと、「これは自分のもの」「これは不要なもの」「これは売るもの」とあまりはっきり分けないで、不要に見えるものに魅力を発見したり、執着していて絶対自分のもの、と思っているはずのものを手放してみるとか、「大事だから勿体ないから『いつか』のためにとっておこう、と思うのやめて、今をその『いつか』にするのだ」と思うのです。

この町にはどこか寛容なムードが漂っていて、近所にも普通の家の一室で何か売っている、というところがチラホラ。だから私も、自信を持っておしゃれとは程遠い「なんだかよく分からない店」、だけど30人に一人くらいは喜んでゆっくり眺めてくれる場所になればいいなぁって思っています。30人も来れば、の話ですが。

【おまけのすごろく】

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これまでの経過は、すごろくに例えて「1コマ進む。」、「2コマ進む。」、「3コマ進む。」、「一回休む。」、「ふりだしへ戻って、また進む」、「幸せな散歩を求めて。」という順に6回書いています。一坪のお店を開店して、その後どうなるか…まで綴っていく予定です。