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わたしをだまして

「よし、お風呂に入ろう」とわたしは言う。
家族にそう告げることもあるし、ひとりのときもある。

聞いてくれる相手の有無は、問わないのだ。
「お風呂に入る」と吐き出された声が、空気中をぐるりとめぐり、わたしの耳元に返る。
そのたった一秒と少しのあいだで、わたしの心は騙される。
さっきまで、「面倒だけとお風呂に入らなきゃ」やだなあという気持ちだったのに
「よし、お風呂に入ろう。なんかお風呂に入らなきゃいけない気がする」と、少しだけ前向きになる。

不思議だ。
どうしてわたしってば、こんなに単純なんだろう。

仕事の昼休みの終わりには煙草を吸う。
喫煙所にひとりのときは、「がんばるぞ」と言ってガッツポーズをしてみる。
これは、ドラクエ11で勇者が鍛冶成功のときにしていたポーズで、わたしを勇ましくしてくれる。
本当に不思議なんだけど、さっきまでの不穏な空気が、少しだけ遠くなる。

いまも「よし、やるか」とつぶやいて、パソコンの前に座っている。
そうしたらなんとなく、できるような気がしている。
少なくとも、「やらなきゃ」と思っていた10分前よりも、気分が良い気がする。

わたしは、こんなふうに自分を騙しながら暮らしている。

騙さなければ、とてもやっていけない、と思う。
なにも考えたくない、ベッドに倒れたい、と思ってしまう、怠惰なわたしだから
こんなふうに、単純に騙せるようになっているのかもしれない。



【photo】 amano yasuhiro
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