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運命と生きてゆく

引っ越してよかったことは、バルコニーだ。
そう、ルーフバルコニー。
自分の部屋がすっぽり収まってしまいそうなその空間は、いまもなおわたしの心を踊らせている。

ふたり分の、ふとんを干して、そのうえで洗ったシーツまで干せちゃうのは感動モノだ。

ああ、腫れた日の午後のルーフバルコニーの美しさたるや
わたしはまた、ふとんを干す。
時折、ふとんと一緒に干される。
近くを走る車の音、明滅する信号機、ときおり響く子どもの声。
たっぷりと吸い込む。

このあいだの休みも、またふとんを干した。
ふつう、ふとんってどれくらいの頻度で干すんだろう。
ひとつ前の休みも干したから、今日は別にいいかな〜と思ったけれど
次の休みは予定があるし、その次の休みは雨かもしれないし
今日干さない理由は特にないので、バルコニーに出る。
そうすると「ついでに」、という気持ちでシーツも洗えちゃうのがすごい。
「ついで」って素晴らしい。
ついでに生きてゆきたいものである。

シーツは長年、IKEAのこれは使っている。

実家で、「シーツ洗っておいたからつけておいてね」と母親に言われる絶望感たるや
いまでもゾッとする。
重たい敷布団を持ち上げて、よいしょっとシーツをつけなければいけない、アレ。
だいたいうまくできない。
かといって、被せるだけのタイプだと、すぐに外れちゃう。

このIKEAのは、被せる+ゴムで固定するタイプなので、ベストオブかんたん。
全人類に勧めたい。
そして安い。
定期的に、気兼ねなく買い替えることができる。

そんなわけで、「シーツはIKEA」のわたしは、枕カバーもIKEA
とにかく、ファスナーのないデザインが気に入っている。
ふとんカバーも、当然の用意にIEKAで探した。

むかしは、港北のIKEAに車で連れて行ってもらっていたのにーーー懐かしい。
町田に住んでいて、誰かを呼び出して、車を運転してもらって

いまでは、都内に幾つもIKEAがあるので、港北には長年行っていない。
そろそろ、ホットドッグにケチャップとピクルスをかけまくりたいなァなどと思うんだけど、あのサービスってまだやっているのかな…

都内のIKEAは、港北の店舗ほどの広さはなくとも「夢の国」と「便利さ」の真ん中をドンピシャッと走ってくれている。

いまのふとんカバーは、原宿で買った。
確か、都内に初めてできたIKEAだった。わたしは、浮かれていた。

前に買ったいちばん安いふとんカバーは、もう破れていたか、前の恋人とと港北のIKEAに行ったときに買ったものか、とにかく「もう買い換えなければいけない」という瞬間だった。

ふとんコーナーで、しばらくうろついて、ふたつに絞った。
どちらも花柄で(わたしは花柄を愛している)、たしか、2999円と3999円だった。

「安いものが正義」というつもりはないけれど、セールってちょっとうれしい。
ついついセール品ばっかり見ちゃう。

でもそのときは確かに、3999円のほうが圧倒的に可愛かった。

あのころは今よりもケチで貧乏で、自分にお金を使うのが怖くて、安いもののことを正義だと信じていた。
だけど、

前のふとんカバーは約10年使った。
コイツも、あと10年使うかもしれない。
そう思って、3999円のふとんカバーを選んだ。

風に揺れているのは、3999円のふとんカバーだ。
あのときの勇気に、感謝している。

2999円のふとんカバーの柄を、もう覚えていない。
だからきっと、2999円のほうを買っていたら、それはそれで3999円の柄を思い出せないだろうとは思う。
だから、どちらでもよかったのかもしれないけれど。

「これでいい」と「これがいい」は、似て非なるもの。
すべてに於いて「これがいい」を選ぶのは至難で、出会えることは稀だ。
だから、出会えたときには迷わないほうがいい。

いや、うーん、それでぜんぶ買ってたら破産しちゃうから、難しくはあるのだけれど
でも、「これがいい」ってわかっちゃったときには、それを選びたい。
わかっちゃうときっていうのが、絶対にある。
恋に落ちるみたいに。

まあ、恋に落ちたことないからわからないけれど
要するに「運命的に」とか「逃したら後悔する」みたいなやつ

今日も、お気に入りの寝具に包まれて眠る。
ああ、もしかしたら寝具をハチャメチャにしたら、睡眠時間が減って効率よく生きて行けるのかもしれないけれど

わたしは、非効率に眠りたい。
今日も、お気に入りのふとんカバーに包まれて(時折蹴飛ばして)眠るのである。




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