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路線図を片手に

最近は、制服姿の子どもたちを見かけるようになった。
ああ、よかったなあと思う。
みんな笑っている。
わたしはばかみたいに、「子どもが元気なのがいちばんだ」なんて思ったりする。
夕方は、たくさんの制服とすれ違う。


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地下鉄を乗り換えて、通い慣れた目的地に向かう。
乗り換えはもう、迷わない。

通い慣れた、というのもあるけれど
しっかり、駅の案内を見て、乗換案内を見れば、だいたいの目的地に着ける。
東京という街の案内図は、複雑かもしれないけれど、丁寧なような気さえしている。


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乗り換えのエスカレーターに乗っていると、後ろから子どもの声が聞こえた。
小学生くらいの、男の子の声。

「ちゃんと行けるかな?」と不安そうな声が聞こえたあと、
「これさえあれば大丈夫だよ!」と、別の声が勇ましく響いた。

声は、エスカレーターを駆け上がって、わたしの横をすり抜けようとしていく。
わたしは「これさえあれば」が、なんなのか気になって、少年の手元を覗き込んだ。

右手に強く握りしめられていたのは、路線図だった。


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東京の、地下鉄が記された路線図。
各路線のカラーで結ばれた、色とりどりの地図。

「そっか!」と、最初の声が元気よく頷きながら、駆け上がる。

確かに、そうだ。
わたしも頷いた。


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ひとりで、きちんと乗り換えができるようになったのは、いつの頃だっただろう。

18歳、進学で上京した。
東京の電車の数に驚いて、最初は自分の家に帰るのもやっとだった。
途中で、路線が分岐することを、理解できていなかった。

わたしも、何度も路線図を覗き込んだ。
知っている場所を結んで、少しだけ東京を、理解したような気になる。

知らない場所に行くときは、今でも必ず見る。
乗換案内を見て電車に乗っているのだから、間違えるわけはないのだけれど
あといくつの駅を通過するのかとか、あいだにどんな駅があるのかとか。
知っている名前を見ると、安堵する。
このあいだはじめて逗子に行ったときも、横浜を越えて、その先に鎌倉があって、その更に先だと思えたら、なんとなく理解できて、安心した。


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路線図があれば、どこにでも行ける。

わたしはもうおとなだし、オートチャージされるSuicaだけ持てば、本当にどこへだって行ける。
知らない駅も歩ける、
知っている駅だったら、道案内だってできちゃうかもしれない。

それでも、使い古されたときめきを、抱えている。
「これさえあれば」と、わたしも路線図を信じている。

おとなになったって、まだまだ旅の途中だ。
まるで、RPGの主人公みたいに、行き先を確認している。
たまに迷う。
どこへ行くべきか、わからなくなったりもする。
歩けなくなるときもある。
それでも、次のダンジョンを攻略しに行くみたいに、わたしは勇ましく進もうとする。

路線図を片手に、知らない街へ。
わたしは今日も、東京で旅を続けている。




【photo】 amano yasuhiro
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