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小さな生まれ変わり

ねむい、と思う。
いつも、だいたい眠い。

眠いけどお風呂に入ろうと思って、ずいぶん時間が経ってしまった。
シャワーを浴びるだけなのに、どうしてもめんどうな気持ちになる。
なにより眠い。
シャワーが夜でも朝でも、わたしは眠いのだ。

その日は、夜のシャワーだった。
早く寝なくては、という心は消え失せ、まあ4時くらいに寝られればいいや、と思ったらもうしばらく時間もあった。

気分もよかった。
エッセイを書き終えてからもう2時間もソファーでごろごろしていたのに、ようやくシャワーにたどり着けた自分を、心から誉めたい。
決して「2時間もなにもできなかったダメな自分」なんて思わない。
結果よければすべてよいという瞬間が、人生では結構ある。

髪を洗って、身体を洗って。
蛇口の下の、安全地帯に置かれたそれが、目についた。

インスタで何度も見かけて、3回悩んで、ようやくAmazonのセールのときに買ったこれを、気に入っていた。


週に2回のスペシャルケア
という謳い文句だったような気がするけれど、わたしは気が向いたときに使っている。
それは、「吐き出したいとき」或いは「許されたいとき」だと思う。

公園で髪を切る
落ちてゆく毛先を払う
君が笑う 頬に触れる
見上げれば飛行機雲

GARNET CROW "千以上の言葉を並べても…"

前髪を少しだけ短くしただけで
生まれ変われちゃう
そんな考え方が好きよ

小松未歩"氷の上に立つように"


十代の頃、散々聞いた曲の中で、前髪が出てくるふたつの物語は、いまでも心の中に住み続けている。
どうしてだろう、当時は美容院なんて大嫌いだったのに。
だからこその、憧れだったのだろうか。
定期的に美容院に行けないわたしは、前髪を作れなかった。


コロナウイルスの療養期間の最後の夜、このスクラブを使った。
まだ身体は重く、シャワーなんて早々に切り上げて、明日の仕事に備えてはやく眠るべきだった。

薄皮を剥ぐように
この晩、そんなふうに思った。

実際にスクラブで剥ぐのは皮ではなく角質だけれど、いちまい剥ぎ取って、
同時に、悪いものがぜんぶ身体から剥がれ落ちて、
そうすることが必要な気がしていた。
そんなふうに、思いたかった。

公園でも風呂場でも、前髪を切ることはないけれど
代わりに、スクラブを滑らせる。
「生まれ変われちゃう」そんな考え方を、今日も信じながら。

生まれ変わるって、そんな仰々しくなくたっていい。
ちょっとだけ、爪を切るの上位互換くらいで
「吐き出す」「許す」
それくらいの"考え方"でちょうどいい。


いつかまた、疲れ果てたとき
或いは、唇を噛んだとき
もしかしたら、少し浮かれてフラペチーノを飲んだ夜

スクラブを滑らせる
薄皮を剥いで、美しく正しくなって
少しだけ生まれ変わることを、繰り返してゆくのだと思う。




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