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クッキーはいかが?

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1200文字以下のエッセイ集。クッキーをつまむような気軽さで、かじっているうちに終わってしまう、短めの物語たち
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#家族

ひとつぶのチョコレート

なにか甘いものを食べたい、と思ったときに リンツのチョコレートのことを思い出した。 このあいだ2粒、買ってもらったチョコレート。 * リンツの前を通ると、チョコレートを買うようにしている。 よく言えば「好き嫌いがない」 別の言い方をすれば「好きな食べ物がない」という相手と暮らしていると、相手を喜ばせるのがなかなか難しい、と思う。 いちばん手っ取く喜ばせる方法がプレゼントで いちばん手っ取り早いプレゼントが食べ物なのに。 そんな同居人が珍しく喜んで食べるのがリンツの

無敵のアイス

「それだけでいいの?」 「あしたの分も買っていいよ」 いなかの、おばあちゃん像。 みたいなひとと、暮らしている。 とにかく、たくさん食べさせようとする。 夜中のコンビニの、そのかごに もう充分なくらい放り込んだというのに。 わたしはといえば、計画性のある生き方や考え方は苦手で 「あしたの分」という感覚に、いまも慣れない。 あしたはあしたの、食べたいものを買えばいい。ような気がしてしまう。 だから、今晩のおやつだけで充分。 あまいものは一度にひとつ。が、基本(ときどき破

小指だけつないで

眠いなあ。 と、思う。 ほんとうに眠ってしまったり 起きれないこともたくさんある。 会社に遅刻しないのが、不思議なくらい。 昨日も眠ってしまって 少しだけ早起きをして、エッセイを書いているのだけれど。 何度も目覚ましを止めて、まくらの下に押し込んで 目覚めてからも、しばらくぼおっとしていた。 おかしいな。 昨日もはやく眠ってしまったから、今日は早く起きようと思ったのに。 どうして、目覚めのすこやかさって 睡眠時間に比例しないんだろう。 * 何日か前の夜 そんなメモを

ふたりの孤独

コンビニに行こう、と誘った。 それは、敵意がないという合図だった。 相手がどう思っているかはわからないけれど、この部屋の中にいるわたしは、3分の1くらいの割合で敵意を持っている。剥き出している。 家族がいる暮らしはむいてないなあ。と、これからも思いながら暮らしていくのだと思う。 そんなことを言ったら、人類であることもむいてないとは思う。 生まれた瞬間に泣かなかった、というのが自分らしいエピソードすぎて笑ってしまう。 多くの人ができることを、生まれた瞬間からできなかった。 そ

わたしじゃなくても、世界は回る

いまより冬が、深くなる前の頃。 そろそろだな、と思っていた。 毛布。 出さなくちゃ。 クローゼットを開けて、 圧縮袋から引っ張り出して 外に干して それだけなのに、なんだかうまくできなかった。 まだ、大丈夫だし。と思っていた。 強がりではなくて、ほんとうに。 冬用のパジャマに替えてから、ずいぶん経つ。 なんとなく、家族の分もパジャマの用意をしたりしていた。 別に、わたしがやらなきゃいけない、ってわけじゃないんだけど。 なんとなく、親切にしてしまう。 わたしはまだ大丈

4時26分

4時に家を出た。 * その晩、唇を噛みながらパソコンの前に座っていた。 書こう、と思った内容を、望む温度で書ききることができなかった。 こういう夜はたまにあるけれど数は少なく、訪れるとぐんと疲れる。 それでも、今日中に1本は書きたいから、と思って別の話題を引きずり出したところで、部屋の電気が消えた。 エアコンふたつと電子レンジによる停電。 パソンの再起動を乗り越え、部屋の中をぐるぐると周り、ようやく最後の一文にたどり着いたところで、部屋をノックされた。 わたしの意識は再

クッキーちょうだい

すごく不思議と、 でもかなり日常的に、 「言ってはいけない」と思うことが、たくさんある。 のだと思う。 例えば、 わたしは同居人に「片付けて」って言えない。 言ったら気を使わせて、この家で居心地悪くなったら、それがいちばん悪いなあ。 と、勝手に思っている。 そんな話を友達にしたら、 「恋人と別れるときにね、”後学のために嫌だったことを言い合おう”ってしたときに  ”蛇口キツく締めすぎ”って言われた」 ていう話は、今でもじんわりときてしまう。 わかるなあ。 そういうことを

たくさん食べて、よく笑おう

まあいいや、と思い始めていた。 そして、本当に辞めてしまった。 ダイエット 痩せたいって、多くの人が思っていると思う。 太っちゃった、てよく思う。 20代の頃は、数日食事を抜けば体重が落ちたりしたけれど 30代は甘くない。 もともと筋肉なんか微塵もない身体は、エネルギーをちっとも燃やしてくれない。 それなのに、おなかは空く。 食べすぎてはいけないとか、 おやつはやめようとか、 夜中に食べるのはやめようとか ストレッチを頑張ろう、とか たくさん思ったけれど。 最近は

たいせつ / くちぐせ

「豚汁、最後まで美味しく食べてくれてありがとう」 そう言われてわたしは、「こちらこそ」と言って頷いた。 こちらこそ、いつもごはんありがとう。 最後となった1食分は、お椀に移されて冷蔵庫に移住していた。 「レンチンして食べていいからね」と言われたそれを、わたしは好きなときに引っ張り出す。 夜中、ちょっとおなかが空いたときに食べるなら豚汁だ、とわたしはなぜだか信じている。 冬の、あたたかさは美しい。 「あたたかい」という感情は、冬独特のもので 夏は「暑い」とか「熱い」に変

おうちのあいさつ

「こんにちは〜」 わたしは家の中でも、挨拶をする。 おはよう おやすみ ただいま おかえり は、ふたり暮らしなので、同居人が家にいるときには、当たり前のように言っている。 最近は「それ以外の挨拶」も、積極的に取り入れてみることにした。 こんにちは こんばんは 部屋にこもって作業をするときには「じゃあね〜」と声をかけてみたり、 ちょっとうれしいことがあると、ピースしてみたり 「よかったね!」と思えば、親指をグッと立てる。 同居人は律儀な人なので、ぜんぶきちんと返してく

あなたと食べる、サワークリームオニオン

むかしより、お菓子を食べなくなった。と思う ぜんぜん食べなくなったわけじゃないけど、昔の無尽蔵さ… ラーメンを食べに行ったあと、「なんか物足りないね」と言って、牛丼を食べてしまうようなパワーは、もうなくなってしまった。 (なくなってよかった、と心底思っている) だから、お菓子を買うときは好きなもの。 日常では、チョコレートとグミを少しずつ。 ご褒美は、シュークリームとプリン、たまにクッキー。 スナック菓子は、魔物だと思っているので買わないようにしている。 だいたい、量が

深夜の独り言

「うん」 わたしは声に出して、ひとり頷いた。 「それがいいと思いますね〜」と続けた。 そしてひとり、にんまりとしている。 * ひとりの時間。 わたしは部屋で、noteを書いたり、ピアノを弾いたりしていた。 ふだんは同居人がいることも多いので、 夜、ひとりの時間って、ちょっと特別。 いつまで経っても、「作業を始める」ことには勇気がいる。 「あとでいいや」って思っちゃう。 うまく進むこともあるけど、 小さな石にもつまづくと、「またか〜〜〜」とか、「もうやだ〜〜〜」と

ふたりの夜

その夜わたしは、ひとりで部屋にいた。 昼間出掛けて帰ってきて、 入れ違いで、同居人が外に出たところだった。 ひとりで過ごせる時間は、2時間。 日中歩き疲れていた、そのまま眠りたい。 ソファーはいつでも、わたしを呼んでいる。 それでも「2時間」と決まっていることが、わたしを勇ましくさせる。 やっぱり、制限時間があるとやる気が出やすい気がする。 ひとりのうちに、部屋を掃除したい。 同居人がいるときにでも、わたしは気を使わずがんがん掃除をするし、同居人は申し訳なさそうな顔

明太子の、いまとむかし

わたしが、「おなかすいた」と言うとき 同居人が出掛ける前に「冷蔵庫にあるもの、なんでも食べていいからね」と言うとき 最近はときどき、「明太子があるよ」と言われる。 一度、明太子を買ってきてくれてから、わたしが気に入って食べるので、頻繁に買ってきてくれるようになった。 うれしい。 どうやらわたしは、明太子が好きらしい。 * 明太子は、特別な食べ物だった。 実家で暮らしていた頃、 北海道に住む、まりちゃんが時々送ってくれていた。 まりちゃん、は母の友達だ。 まりちゃん