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クッキーはいかが?

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1200文字以下のエッセイ集。クッキーをつまむような気軽さで、かじっているうちに終わってしまう、短めの物語たち
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2021年6月の記事一覧

ナイーブな人たちが、世界を美しくする

その手紙の存在に気がついたのは、つい最近の出来事だった。 結婚式で受け取ったであろう、小さなメモ。 わたし宛てじゃない。 それは、同居人に宛てられたもので、いつからかそこに貼られていた。 キッチンの、下の方。 差出人の名前は聞いたことがあって、そのひとの結婚式は、ずいぶんと前の出来事だった気がする。 視界に文字が入ったので、ついつい読んでしまった。 几帳面な字で、語りかけるような言葉たち。 ああいう小さな紙に手紙を書くと、ずいぶん文字を詰めてしまったり、後半はぐだぐだに

幸福は、すぐそこにある

ときどき、カップラーメンを食べる。 それは、だいたい休みの日で、ごろごろしていて、 「おなかすいたなあ」と思って 「カップラーメンでも食べよう」と立ち上がる。 休みの日は、時間を気にせずごはんを食べる。 好きな動画を流しながら、笑ったり、頷いたりしながら、七味を取りに行ったりと忙しい(この日食べていたのはラーメンじゃなくて、うどんだった)。 カップラーメンを食べていると暑くなるし、喉が渇く。 わたしは、お気に入りのグラスに麦茶を継ぎ足す。 継ぎ足す、というのがなんとな

歩くことのすこやかさ

手持ちのいくつかを”サボる”ように、数日を過ごしてきたような気がする。 そういうのが必要な時期、というのがきっとある。 やっぱり歩こう、と思って迂回したわたしの、身体はなんだか重たい気がしているのに、不思議だ。 「歩くのは、やっぱり良い」と確信している。 夕暮れを越えたあの瞬間、 夜を迎えるための街灯と、落ちきらない陽が混ざり合って、 世界は一度、明るくなる。 沢山の人を見掛けて、そのひとつが青春の旅路の、大切な欠片のように見えた。 今日は、ひとりでいる人が少なかったか

長い旅路を、適切に暮らしていけたなら。

気づいたら昼間で驚いた。 とりあえず眠ろう、と思って 「起きたら昼だった」というと少し言い過ぎのような気もする。 いつも途中で目が覚める。 でも今日は、その回数が極端に少なかった。 昨日の日課を終えていない、ということはもちろん理解している。 それなのに、「やらなきゃ」という気持ちも、「やりたくない」という気持ちも、どちらも希薄で そう、すべてがぼんやりとしているような感覚だったように思う。 漬物石のように重たい、確固たるものが在る、というわけではない。 いくつかの思

ここにある幸福は、嘘なんかじゃない

寝れなくてもごろごろしている時間が、ハイパーしあわせ 5月19日のわたしのメモ。 それも、時間は「13時15分」だから、起きたほうがいい。 そりゃあもう、寝れなくて当然です。 眠ることが好き、というか もはやわたしの人生に於いては「重要」だと思っている。 ストレスの発散方法が、食べることだったり買い物をすることだったり、おしゃべりをすることだったり、おしゃれをすることだったり 人にはいろいろあるのだと思うけれど、わたしには「眠ること」だった。 寝て起きれば、だいたい気が

溶けないアイス

最近、LINEギフトにハマっている。 贈り物は、もともと好きなほうだと思う。 贈るのも、受け取るのも。 いままで、スターバックスのLINEギフトを受け取ってきただけのわたしだけれど、初めて贈ったきっかけは、母の日だった。 日頃から、母には軽い贈り物をしていたし、わざわざ母の日に何かしなくても… いま、母に贈りたいものは思いつかないし、むりやり何か贈るのもなあ、なんて考えていたときに、LINEギフトの存在を思い出した。 まず、商品一覧を見たところで、わくわくした。 商品

カバンの中で、眠ってる

カバンの中に、100円落ちている。 そのことには、ずいぶん前から気づいていた。 ずっと、そういう生き方をしていたのだと思う。 いまでこそ現金を使う機会は減ったけれど、 代引のおつりだとか、まとめて払ってあとでもらった小銭だとか、 そういうのは財布に戻らず、デスクの上に置かれるような暮らしをしていた。 カバンの100円も、きっとそういうものなのだろう。 「おつり渡すね」って言われて、カバンのポケットに入れたはずが、イヤフォンとかライターを取り出すついでに、奥底に落ちたに違

さよならに慣れたふり

「わたしは、絶対に誰かと一緒に住むなんてできないなあ」 ぽつりと、声は放たれた。 「ひとりの時間が必要だし」というのには、激しく同意だし、 もちろん例に漏れずわたしも、「誰かと一緒に住むなんてむりだ」と思っていた。 「だって、いなくなったらさみしいじゃないですか」 鳴り響いた言葉は、わたしの首をそっと締めた。 * それでもきっと、生きていけるのだと思う。 ひとりで暮らしていても ふたりが、ひとりになっても 生きてゆくのだと思う。 いつだって、寂しさを伴いながら。 ひ

次からはふたつ

むむむ、と思った。 正直に言えば、「イライラする」という瞬間があった。 ささいなことで、ぼかっと点いてしまった火は、気がついたら激しく燃え上がってしまう。 いつもそうだ。 点火したら、あれもこれも、過去のことや、今まで隠していた部分まで気になってしまって、打つ手がなくなる。 怒りよりも速い速度で湧き上がる感情が存在しないんだから、仕方ない。 仕方ないのだ。 わたしは掃除の続きを終え、髪を乾かして、やるべきことを順に終えてゆく。 イライラしたって掃除は途中だし、髪は乾かさな

お気に入り、について

お気に入り、はわたしをしあわせにしてくれる。 わかっているのに、ときどきうまく使えない。 「お気に入り」だから、大切なときに、と思って あんまり使われていないもの、っていうのが、あるような気がしている。 このあいだ友達と出掛けたときに、かわいいTシャツを見つけた。 「いいなあ〜〜〜欲しいな〜〜〜」、きっと次のお気に入りになるやつ。 と思ったけれど、Tシャツは去年たくさん買ったうえに、いまの職場はオフィスカジュアルだから、あんまり着る機会がない。 あきらめようかな、と思って

どちらかにしなくても

どっちにしよう、と時々思う。 思うときの片方は「昼寝をしたい」だったことに気づいたときには、驚きだった。 会社の昼休み、帰りの電車 「本も読みたいけど」 「ソシャゲもやりたいけど」 「手帳も開きたいけど」 やっぱり半分は、眠りたい。 いままで、そういうときは眠ってしまっていた。 眠るより好きなことは、やっぱり存在しない気がしている。 そんな日々の中、急に「待てよ」と気がついた。 本を読んでもソシャゲをまわしても、手帳を開いても その時間って、10分あればいいはず。 お

季節の狭間

帰る前にはね、 あれもこれもやろうって思っているのに。 気を抜くと、すぐに倒れ込んでしまう。 今晩は、家にひとり。 あなたがいない空気をたっぷりと吸い込んで、悠々自適に過ごすのだ、と思っていたのに。 ああ、少しだけ お気に入りのピアスは大切なものだから、それだけはきちんと外そう。 指輪と時計とブレスレットも外して、靴下とブラウスを洗濯籠に放り込む。 「ついで」にできたのはそこまでで、わたしは床に倒れ込んだ。 リビングの床は、ひんやりと冷たくて心地良い。 ああ、少しだけ

輝く刹那に

ぴかぴかと光っている画面を、ぼおっと見つめる。 画面の中では、「ロックマン」が駆け回っている。 ロックマンX(エックス) わたしは子供の頃からこのゲームのことを、よく知っていた。 言葉通り「知っていた」だけで、兄がプレイしているのをよく見ていた。 だから、いまでもゲーム画面をぼおっと見ている時間は幸福だと思う。 画面では、ロックマンXの何作目かのエンディング間近で、画面がぴかぴかと点滅していた。 クライマックスを告げる音、 「建物が崩れるから早く逃げなきゃ」みたいなシーン

6月の夜

ぽちゃり、と音がして安堵する。 除湿機に、水が落ちる音だった。 そもそも、除湿機をつけるほどの湿気なんてないほうがいいに決まっているのに、安心してしまう。 律儀に、何度でも。 除湿機をつけるかどうか、いつも悩んでしまう。 部屋の温度が高いのか、自分が風呂上がりだからか、扇風機をつけるべきか、換気扇を回すのか、やっぱりエアコンしかないのか。 いや、やっぱりわたしのからだの問題なのだろうか。 わたしはいつも、考えてしまう。 考えることに疲れたわたしは、温湿度計を買った。 デ