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クッキーはいかが?

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1200文字以下のエッセイ集。クッキーをつまむような気軽さで、かじっているうちに終わってしまう、短めの物語たち
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2020年12月の記事一覧

とろり、溶けるコーヒー

起きてすぐ、洗濯機をまわしてバスルームに飛び込む。 そうしないとわたしは、もう一度眠ってしまう。 髪を乾かして、洗濯物を干して、掃除をする。 妙にテンションが上がって、「このあとはどうしよう」と意気込む。 そうね、コーヒーでも飲みましょう。 冷蔵庫には、ドリップしたコーヒーが眠っている。 家で飲むコーヒーは、牛乳と半分。 冷たい牛乳に、コーヒーを落とす。 このまま飲んじゃおうかなあ、と勇むような気持ちのわたしに、 もうひとりのわたしが「待てよ」と肩を叩く。 冬だもの

魔法のキャンディー

久し振りに、キャンディーを食べた。 友達からもらったお菓子セットに入っていたキャンディーは、りんごの味がした。 果物のりんごじゃなくて、お菓子のりんご味。 その、宝石みたいな赤い輝きに閉じ込められた、甘さ。 キャンディーは、わたしの魔法だったことを思い出す。 * たぶん、虫の居所が、悪かったんだと思う。 細かいことはもう忘れてしまった、何年も前の話で 相手が言っていたことも真実で、わたしも悪い部分がきっとあったのだと思うけど なんだか妙に、突っかかられる夜だったこと

たいせつ / くちぐせ

「豚汁、最後まで美味しく食べてくれてありがとう」 そう言われてわたしは、「こちらこそ」と言って頷いた。 こちらこそ、いつもごはんありがとう。 最後となった1食分は、お椀に移されて冷蔵庫に移住していた。 「レンチンして食べていいからね」と言われたそれを、わたしは好きなときに引っ張り出す。 夜中、ちょっとおなかが空いたときに食べるなら豚汁だ、とわたしはなぜだか信じている。 冬の、あたたかさは美しい。 「あたたかい」という感情は、冬独特のもので 夏は「暑い」とか「熱い」に変

夜の散歩

「それじゃあ、行ってくるよ」 わたしは笑って、あたたかい部屋に別れを告げた。 夜の散歩はやめられない、と思う。 きっと、いくつになってもそうだと思う。 わたしは何かを確かめるみたいに、ときどき外へ出る。 明日は燃えるゴミの日。 夜ももう遅いので、今のうちにゴミを出したいし、 同居人の煙草がなくなったと言っていた。 わたしはときどき、良い子の仮面をかぶる。 「ゴミを捨てるついでに、煙草を買ってきてあげるよ!」と、笑顔で言う。 ゴミも捨てられるし、煙草も買える。 ついでに、

おうちのあいさつ

「こんにちは〜」 わたしは家の中でも、挨拶をする。 おはよう おやすみ ただいま おかえり は、ふたり暮らしなので、同居人が家にいるときには、当たり前のように言っている。 最近は「それ以外の挨拶」も、積極的に取り入れてみることにした。 こんにちは こんばんは 部屋にこもって作業をするときには「じゃあね〜」と声をかけてみたり、 ちょっとうれしいことがあると、ピースしてみたり 「よかったね!」と思えば、親指をグッと立てる。 同居人は律儀な人なので、ぜんぶきちんと返してく

おなじはなし

わたしたちは、何度も同じ話をする。 スターバックスのコーヒーを「おいしい」と言う。 (もう飲んだことがあるものでも、何度でも) 新作のネイルの情報を見て「捨て色ないってすごくない?」と言う。 (それ、前のシーズンでも同じこと言ったよね) ウーバーイーツはすばらしいと言う。 「こんなにおいしいものを、家で食べれるなんて!」 「おうちの料理とはやっぱり違うわね!」 ときどき、ピアスのケースを開いて「かわいい」と言う。 「ずっと見ていられる」と、彼女はうっとりする。 わたし

書くことがなくなったら、電車に乗ろう

書くことがなくなったら、電車に乗ろう。 わたしはそう、決めている。 noteの連続更新は250日を越えたところ、 stand.fmのおしゃべり配信は、日付をまたぎながらも毎日更新して30回目を迎えた。 もちろん、「同じような話」を何度もしていたりもする。 日常でわたしが大好きなこと コーヒーを淹れることとか、手紙を書くこと、あたたかな紅茶の話。 ネタ帳にもメモを取るし、過去の自分を頼ったりもする。 それでも、その瞬間に「書きたい」「しゃべりたい」と思うものを 毎日ふたつ

それでも、ごはんを食べる。

ごはんを食べるのは難しい、と思う。 もともと、自分はあんまり食べることにこだわらないタイプ、だと思っている。 昔一緒に働いていた人が「今日の晩ごはんを何にするか考えることで自分を励ましている」と言っていたり、 実兄が「朝、途中の駅でカレーを食べたいから早く家を出る」と言うのを聞いたりすると わたしには、その食への執着はないなあ、と思ってしまう。 あの人と働いていたときのわたしは、セブンイレブンで豆腐とおにぎり、パスタサラダと冷凍餃子だけをローテーションしていたし、 朝ごはん

あなたと食べる、サワークリームオニオン

むかしより、お菓子を食べなくなった。と思う ぜんぜん食べなくなったわけじゃないけど、昔の無尽蔵さ… ラーメンを食べに行ったあと、「なんか物足りないね」と言って、牛丼を食べてしまうようなパワーは、もうなくなってしまった。 (なくなってよかった、と心底思っている) だから、お菓子を買うときは好きなもの。 日常では、チョコレートとグミを少しずつ。 ご褒美は、シュークリームとプリン、たまにクッキー。 スナック菓子は、魔物だと思っているので買わないようにしている。 だいたい、量が

鏡を磨く

「あ!」と、小さな叫びを上げて思い立つ。 そうだ、鏡を磨こう。 我が家は、全身鏡と、独立洗面台の2箇所に鏡がある。 掃除はできるだけ毎日、と思っているけれど、「鏡を磨く」はたまにしかしないので、よく忘れる。 磨いたあとは、あんなにきれいなのに、気づくとホコリを被っている。 独立洗面台の鏡は、なんであんなに水垢みたいなのがつくんだろう。 水道の使い方が、へたくそすぎる。 それでも、毎日磨くほどじゃない。 思い立ったときとか、来客がある前、磨くようにしている。 鏡専用のクリ

わたしだけの、サンタクロース

12月。 近年のわたしは、少しずつイベントごとを楽しめるようになったきた。 去年は、「サンタさん、こないかな〜」「チロルチョコいっぱい食べたいな〜」と言い続けていたら、クリスマスの朝に、チロルチョコが届いていた。 靴下を用意していなかったけれど、サンタさんが靴下にチロルチョコを詰めてくれた。 朝起きたら、プレゼントがある。 その幸福を、おとなになっても味わいたい。 もうおとななので、「このおもちゃが欲しい!」という願望はない。 高級なプレゼントが欲しいわけじゃない。 欲