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おさとうを、ひとかけら

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自分の好きなものについて、延々と語るエッセイ。江國香織さんの「とるにたらないものもの」のパクり
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記事一覧

インスタントコーヒーを愛してる

コーヒーの気分だ、と思ってキッチンに立ったとき 洗われたコーヒーサーバーが、きちんとした様子で佇んでいた。 それは「コーヒーごちそうさまでした」の合図で、 いまわたしが飲めるコーヒーはない。ということを意味している。 ああ、わたしはいま どら焼きと一緒に、コーヒーの気分だったんだけどなァ。 新しくペーパードリップするのはめんどう。 冷蔵庫には、よく冷えたルイボスティーとほうじ茶もある。 あ、どら焼きとほうじ茶って合いそう。 頭の中は忙しなく、ころころと次の思考を掴もうとす

900

ここ半年くらい、新しいヘッドフォンを使っていた。 ワイヤレスでノイズキャンセル付き。 折りたたみもできて、どこへでも連れて行った。 3時間でも4時間でも、耳につけていて疲れなかった。 ノイズキャンセルは、わたしに快適な没入感と集中力を与えてくれる。 2021年の終わりにやってきた刺客。 いろんなことがあったこの1年の、「手に入れてよかったものナンバーワン」の座を、さあっとかっさらっていた。 * 最近はまた、元のヘッドフォンに戻している。 たぶん深い理由はなくて、気分とか

シャネルの口紅

だめだなあ、と思う。 よく思う。 なにがだめなのか、って 近年それはある意味はっきりしていて ひとつは、 やろうと思っていたことが、できていないこと。 やろうと思っていたことが、やらなきゃいけないことになってしまって なんだか首を絞めて ただ、何もしないでここに座っていること。 ひとつは、 “何か”が足りない、と思っていること。 何が足りないかわからなければ努めようがないから、不安は不安のままだった。 または、”何か”が少しずつ形を成しているとき(例えばそれはお金だった

ぽんぽこポンプ

「これ、なに?」 友達の部屋。 問い掛けたあの日のことを、いまでもよく覚えている。 ダンボールの中に、見掛けない形状のボトルがみっつ。 これはね、と彼女は語り始めた。 「押すと洗剤が出てくるやつ」 食器用洗剤用で、 食器洗いのときに、ボトルを傾ける必要がない。 スポンジで押せばいいだけ。 そうしたら、スポンジに洗剤がつくんだって。 なるほど。 それはなんだか便利そうだ。 便利そうだ、とは思うけど、あんまりイメージが湧かない。 わたしはさっそく、勝手知ったるこの家の洗

お守りのチョコレート

「今日はね、おみやげがあるの」 あなたに渡したいものを届けたときに、「じゃあ代わりに」と言って取り出したのが、スニッカーズだった。 「あ、ちょっと溶けてるかもしれない」というところまで、なぜだかあなたらしくて、わたしは嬉しくなる。 スニッカーズは、わたしのデスクで、いまも静かに佇んでいる。 苦しくなったら食べよう、と決めて、そのときはまだ訪れない。 * スニッカーズ、というチョコレートを知ったのは、20代の中頃だったと思う。 あの頃、わたしはひどく落ち込んでいて、世界

いくつあっても、かわいいもの

また、チュールスカートを買ってしまった。 だって、ZOZOでセールだったんだもん… 1500円だったし、 わたしは永遠に、チュールスカートを愛している。 同じようなスカートを、もう何着も持っている。 緑、白、黒に近いグレイ 今回は、薄いグレイのスカート。 * 初めてチュールスカートに出会ったのは、4年くらい前で、職場のお洒落な年下上司から譲ってもらった。 「流行ってるから買ったけど、似合わないから」と言って、そのとき何着かもらったうちの、ひとつだった。 わたしは時折、お

美容院と、シャンプーの音

美容院が嫌いだった。 二十代の中頃に「この人に切ってもらうと、なんか可愛くなれる気がするし、その後の手入れもとってもらくちん」という美容師さんに出会えてから、わたしの考えは変わった。 その人が東京を離れるまで、何年か面倒を見てもらった。 彼女と話すのも、好きだった。 東京に来るときに、何度かおしゃべりもした。 わたしは、彼女を大好きになって、美容院を大好きになった。 いまの美容師さんは、わたしにとって「2代目の担当さん」になる。 仕事が変わって、無職になって、その美容院が

シャネルの口紅

鏡を見て、自分の顔色の悪さにびっくりした。 なんだか、真っ白だった。 それは”美白”的な白さじゃなくて、なんと例えればいいんだろう。 霊的な? そういう、のっぺりぼんやりとした顔だった。 わたしは、慌てて口紅を塗った。 シャネルの口紅は、無職になってしばらく経って、化粧ポーチからデスクに移住した。 * 恥ずかしながら、というか いま思うと信じられないのだけど、数年前まで口紅を持っていなかった。 たぶん、マジョリカマジョルカのリップグロスを使っていたんだと思う。 あの、

このもふもふの幸福を、世界中にプレゼントしたい

もふもふは、わたしを裏切らない。 ニトリで買った、2000円のタオルケットが幸福過ぎる。 いま調べてみたら、ブランケットという名前だったけれど、名前はなんでもいい。 とにかく、もふもふしている。 少し肌寒いようなときもある、この季節でも守ってくれる。 (もしかしたら夏に使ったら暑いのかもしれないけど、それは来年の夏に考えることにする) 包まれている、と思う。 守られている、と思う。 どんなときでも、包まれてさえいれば、「幸福だ」と思える。 「大丈夫だ」、と。 一日の中

花粉が苦しすぎて、わらにもすがる思いで実践したふたつのこと

10月1日。 朝の日課で、キッチンで煙草を吸いながら、窓を開ける。 まさか、と思ったけど、金木犀の匂いがした。 そろそろ、君がやってくる季節だ、と わたしは、覚悟を決める。 そして数日後、 その覚悟を上回る勢いで、君はわたしのからだを占拠しはじめた… * 金木犀が香る頃、花粉に苦しめられる。 数年前に血液検査をして、スギやヒノキ(春の花粉)のほうが値が高かったんだけど 苦しいのは、毎年秋になる。 今年ほど、ステイホームを貫きながら自宅警備をし、外に出る回数を減ら

信じている飲み物

友人は、時間ぎりぎりに集合場所に現れた。 さっき電話をしたら「寝てた」と言っていたので、いまここで顔を合わせているのは奇跡だ。 わたしは、おとなみたいに余裕な顔をして(わたしもぎりぎりまで、”どうぶつの森”で遊んでいたのを悟られないように)、「コンビニで飲み物でも買う?」と言った。 友人はほっとした顔で、「コンビニ寄ってもいい?」と笑った。 友人が選んだのは、モンスターという名前のエナジードリングだった。 鮮やかな、緑色の缶。 へえ、最近はそんなの色のやつもあるんだ。と思

ペーパードリップと、わたしだけの勇敢な時間

コーヒーをペーパードリップするようになって、もう10年以上は経つと思う。 二十歳か二十一のときに「コーヒーを淹れる用のケトル」をもらって、まだ健在だ。 あのときから、ペーパードリップをしていたんだと思う。 口の細いケトルは、いまでも「コーヒーを淹れるときだけ」に使っている。 お湯を沸かすときは、大きなキリンのケトルを使って、そのお湯を、このケトルに移す。 二十歳か二十一のわたしは、「あのキリンだとお湯がこぼれて、上手に淹れられない」とごねていたんだと思う。 ペーパードリッ

マスキングテープと、好きなもの

弟(と呼んでいる友人)が引っ越した。 わたしは、おねえさんぶって言う。 「何か、必要なものがあったら言いなさい」 引っ越しの日に買いそこねてしまったバスタオルとか、 友達に譲ってもらったけど使ってない電気ケトルとか、 そういうのをいくつか持たせた。 他に何が必要だったかな。 わたしは、ぐるぐる考える。 かわいい弟だ。 快適な暮らしをして欲しい。 悩むわたしに、弟はこう尋ねてきた。 「マスキングテープ、ありますか?」 * わたしとマスキングテープとの出会いは、衝撃

最愛のクッキー

恋しい、と思う。 そろそろだ、と思う。 君が、わたしの近くから姿を消して、しばらく経つ。 君が必要だ。 君じゃなきゃいけない、と思う。 そろそろだ、と。 * わたしが、焦がれるように恋をしているのは、【ウォーカーのクッキー】だ。 近所のスーパーから、少し前に姿を消した。 このところ、「ご褒美クッキーだけど、好きなときに買える」という状況が長く続いていた。 いまでは、KALDIに行かないと、会えない。 このあいだKALDIを覗いたときに、やっぱり目を奪われてしまっ