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首吊り部屋 PartⅠ

物件の話なのか、転職の話なのか、心の闇の話なのか。これは何の話に分類していいのかわからない。だけど、記録に残しておかなければならない話。

わたしは20代前半に早くも2社目の会社を失敗した。転職先を決めずに半ば勢いで退職したようなところがある。わたしはアホだった。

「就職氷河期」と呼ばれる悪名高い時期があるが、あれはけっこう幅がある。その年は統計上、氷河期の中でも最悪の年だった。ただでさえ就職するのが極めて難しいのに、短期間で会社を辞めるなど自殺行為に等しい。人事担当者にあきれた顔をされたのを覚えている。

ここまででも十分にアホなのに、わたしはさらにアホなことをしている。会社を辞める少し前、社員寮にいたわたしは勢いで引越しをした。会社と関わりたくなかったという理由もあるが、単純にアホだった。

転職面接を受けた会社に通うことを想定し、見切りで引っ越しをした気がする。アホ過ぎて認めたくないけど、そんな気がする。さて、もちろん不採用になったことは置いておいて、そのアパートの話。

東横線の沿線の駅で、古くて狭いアパートなのに、家賃がとても高かった。わたしが住んだひとり暮らしの部屋では過去最高額だ。

古くて狭い以外の特徴は、なんといってもロフト。天井に2畳くらいのロフトが付いており、わたしはそこで寝ていた。ロフトには転落防止のための小さな金属の柵がついており、もちろん昇り降りするための階段がついている。部屋の狭さに対して、天井がとても高い。

……わたしでなくてもそう思った人はいるのではないだろうか。部屋のつくりが、あまりにもその目的に適しているというか、「ここ、首吊りにちょうどいいな」と。
そんな気持ちはまったくないのだけど、何かのきっかけで即実行できてしまうような完璧なつくりだった。

わたしはこの部屋からしばらく会社に通ったのち、辞意を伝え、退職した。転職活動を開始したが、どこからも採用されなかった。応募しても書類で落とされるため、ほとんどの時間をひとり首吊り部屋で過ごした。

運よく面接を受けられたとして、短い期間で会社を辞めたことを断罪されただけ。わたしは期せず、罪びとになってしまったのだ。法に触れていないだけの、実質的な罪人。

応募先から、転職エージェントから、大学の同期から、常に罪を責められた。世間から、社会からも責められた。社会からの断絶という形で、罪は罰へと具現化した。

もう二度と社会に復帰できないのではないかと思った。
本当の恐怖……。
この恐怖を知らない人間は幸せだ。

それからわたしはずっとこの悪夢にうなされることになる。頻度は少なくなってきたが、20年後の今も悪夢は続いている。

精神がどんどん追い詰められていった。首吊り部屋が徐々にシャレにならなくなる。この部屋はなんでこんなつくりなんだ? なぜわたしはこの部屋を選んだ? 

幸い、半年ほどでこの部屋を出ることになるのだが、この短い期間に重要な出来事が2つ起こった(続く)。

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