範宙遊泳『うまれてないからまだしねない』Actors' Profiles No.05 波佐谷聡

 

 最新作『うまれてないからまだしねない』(2014年4月19日~27日 東京芸術劇場シアターイースト)に出演する10人の俳優たち全員に、ひとりひとり、話を聞いていくインタビューシリーズ。

インタビュー&構成=藤原ちから&落 雅季子(BricolaQ)


波佐谷聡 Satoshi Hasatani

1985年生まれ。石川県出身。

桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻。2009年より藤田貴大率いるマームとジプシーに定期的に参加している。

尊敬する俳優はスティーブ・ブシェミ。特技は卓球。

おもな出演作に、東京デスロック「東京ノート」(作:平田オリザ/ 演出:多田淳之介)、マームとジプシー「てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。」「モモノパノラマ」「Rと無重力のうねりで」(作・演出:藤田貴大)などがある。


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 マームとジプシーでの、一直線に感情をぶつける熱い男子……というイメージの強い波佐谷聡。だがその実像は、落ち着いた口調で淡々と語る好青年である。マームではボクシングジムに通ってシェイプするなど、肉体の敏捷さを鍛えあげた彼だが、今作ではまた全然違う姿を見せてくれそう。印象的だったのは、「溜まっていく」というイメージを彼が語っていたことだ。


▼山本卓卓との距離感

——波佐谷さんでこのインタビューシリーズも5人目ですけど、いよいよこの場に何か溜まってきた感じがしますね……。さて、初めての範宙遊泳出演だと思いますが、これまで観てはいた?

「そうですね、わりと観てはいましたね。スグル君は(桜美林)大学の後輩なんですけど、彼と話す機会があって、僕と音楽や映画の趣味が結構似てたんですよね。フランク・ザッパとかポール・トーマス・アンダーソンとか……。一緒にやったこともないし、スグル君は大学の時にOPAP(桜美林パフォーミングアーツプログラム)にも特に参加してなかったし、趣味ぐらいしかほんと接点なくて……。まあ仲のいい後輩のひとりではあったけど、一緒にやることはないだろうなっていう感じだったんです」

——そうだったんですね……。

「でも去年、東京デスロックの『東京ノート』に出た時にスグル君が観に来てくれて、何か頭によぎったらしく。そのあと武谷(公雄)さんと黒岩(三佳)さんが出てる『紙風船紋様』をスグル君が演出したのを僕が観に行って、たまたま(範宙遊泳制作の坂本)ももちゃんと飲むことになって、その時に「波佐谷さんはマームとジプシー以外出ないんですか?」って訊かれて、「空いてる期間があって、自分が興味あったら出るよ」みたいな話になって」

——じゃあ、コミュニケーションをかなり積み重ねてきてたんですね。

「わりとそうですね。飲んだりもしてますしね」

——どうしてそれまでは一緒にやるイメージがなかったんだろう?

「僕はスグル君のつくる作品好きだったんですけど……趣味が近いぶん、逆にそういうところで交わらず、観てる方がいいかなって思ってた部分があって、出たい出たくないというのも頭に特によぎらなかったんですよね」

——実際、交わってみてどうですか?

「ああ、すごくスグル君の考えてること面白いですよ。……前はどういうふうにやってたのかはわからないんですけど、最近は役者に対して、言葉で風景を立ち上げるような感じで、周りのことを考えながら組み立てていくみたいなことをよく言うんですけど。まあマームの藤田(貴大)君もよくそういうこと言うし、ちょっと言い方は違うけどベクトルは一緒な感じがしてて、そういう共通点とか違うところを楽しみつつ、苦しみつつ(笑)」

——演出言語とか、だいぶ違いそうですよね。

「マームでは本名を使うことが多いんで、その(日常と)地続きなところで藤田君がつくる時は、彼のエピソードや、僕らが共有してるところから始まる。だから役名がある役も久しぶりなんですよね。そのアプローチのために、今まで使ってない脳みそを使うんで、逆に新鮮かもしれません」


▼マームとジプシーでの経験

——そもそも台詞の覚え方が……

「そう、藤田君って口立てするんで、逆に今回の範宙遊泳みたいに書いてある台本覚えるの、単純に大変なんですよね、あんまり慣れてなくって(笑)。やっぱり耳で聞いたほうが覚えるのも早いし、目で見て文字を追うのはイメージを再構築するのに時間がかかる。デスロックの『東京ノート』でも最初全然覚えられなくて、成田(亜佑美)さんに読んでもらって覚えてたんです(笑)」

——やっぱりマームとずっとやってるから、藤田メソッドが染みついてるところがあると。

「ほんとに、大学を卒業してからは8割か9割マーム。たまには他にもやったほうがいいんだろうなって感じですけど(笑)」

——俳優としてのキャリアが、ほぼマームの歩みと重なりますよね。

「マームに関しても、毎回俳優を集めてシビアな関係でやってはいるんですけど、でもやってく中で蓄積していくものがあるんですよね。別にホームだと思ってるわけでもないんですけど。1回1回、客演してる気分でやってはいます」

——劇団員ってことではないですもんね。

「そうですね。周りから見たら、マームの人っていう認識だと思いますけど」

——マームを取り巻く環境はここ数年で激変してきたわけですが、それはどういう感覚で受け止めてますか?

「藤田君のアーティストとしての立ち位置が年々変わってるんで、僕らもそれに伴って意識は変わってはきてるんですけど、例えば客席に蜷川(幸雄)さんが来るようになったりとかするのは不思議な感覚ですね。ただやってる側としては基本的には変わってないんで、前よりそれをソリッドにしていく感じでやっていけたら」

——海外公演(イタリア、チリ)ではどうでしたか?

「海外行った時は、言葉の出し方は変えたんですね。日本語でやってるから、(現地のお客さんは)字幕見ないと意味はわからない。日本でやる時は言葉をお客さんに植え付けていくようにモノローグを喋るんですけど、あちらでは音を聴かせたと思ったら次に行く感じでしたね。意味が浸透したっていうよりは、音がお客さんの中に入ったら次に行くという。だからちょっとスピードが速かったように感じました。お客さんもすごくわかろうとしてくれて、それが新鮮で、手応えはありましたね」

——国内でもツアー公演などでかなりの移動を経験されてますよね。

「京都と北九州と、僕が行ったのはあといわきと北海道と新潟ですが、単純に、俳優にかかる変化という意味のストレスだと、劇場のサイズによって声の出し方とかいろいろ変わるし、基本的にはお客さんとの距離によって合わせてつくる感じです。あと、場所が変わると見えてくるものも変わったりするじゃないですか。特にこの間のボクシングの作品(『Rと無重力のうねりで』)は、いわきでの上演をもともと想定してつくってたので、この言葉を違う意味で彼ら(いわきの観客)は捉えるだろう、っていうのはありました」

——今回の『うまれてないからまだしねない』の座組の中で、海外公演の経験があるのは他には伊東沙保さんだけだと思いますが、例えばイタリアとかチリとかに行って、劇場の外……町や土地を歩くのはどういう感覚なんですか。

「特にイタリアではみんなで歩いたりして、現地で小道具を買い足しました。歩いてその土地の話をみんなでして、その町に重なっていくものを溜めていく……という感じはありましたね」


▼モノローグの効果

——こうやって別の劇団に客演するにあたって、他の俳優さんたちとの関係はいつもと違いますか?

「沙保さんとか名児耶さんとかは話すのもほぼ初めてですけど、沙保さんなんかはどういうことやってきたかっていうのは観てたし知ってるし……。でもお芝居の組み立て方もみんなそれぞれ違うんで、そこはやっぱりスグル君がうまい感じで散りばめてるっていうか。マームではいつも本名でやってるせいか、「組み立てる」ということをそんなに考えてないんですね。あんまり「つくる」っていうイメージがなくて、何かこう……ずっと一緒に走ってるような感じなんですよ。バーッて役と一緒に走ってるような感じで、時には周回遅れになったりするとは思うんですけど……。でも今作はアプローチの仕方もみんなそれぞれ違うし、スグル君がどうつくるか、わかろうとはするけどやっぱりわからないんで、隣で走ってるような感じですね」

——一緒には走ってない?

「走ってて、隣にいるけど、僕が先に行ってるかもしれないし、あっちが先かもしれないし、っていう感覚です」

——役との距離感はいつもより掴むのが難しい?

「そうですね……マームでは一緒に走り出す感じなんですけど、範宙遊泳は気づいたら一緒に走ってた感じです。……マームだと結構荒々しい感じの役やりますけど、僕、実はあんなに荒々しくないですよ(笑)」

——えっ、ほんとに?!(笑)

「や、ほんと!(笑) 今でこそこういう感じで喋ったりしますけど、小さい頃はほんとに人見知りだったんで。藤田君とも大学の時によく飲んでて、最初は飲みの席で誘われたんです。「波佐谷さんが飲みの席で喋ってるような感じでやってほしい」って言われたんですけど……たぶんまあ酔ってクダ巻いてて、そのイメージなんじゃないかな(笑)」

——じゃあ今回はどういう役なんですか。『うまれてないからまだしねない』では。

「みんなどこまで喋ってるんですか? 僕は名児耶さんと夫婦で、妻が妊娠してて……。キャラクター像をどういうふうにしようかっていうのは結局今も考えてなくて、喋ってる言葉から徐々にイメージして……。先にこうカシッて決めちゃうのがあんまり好きじゃないんでしょうね」

——役名はなんていうんですか?

「夫です」

——夫!

「夫、妻、っていう」

——その「夫」のことはどう思いますか? 好きとか嫌いとか。

「言ってることはわりかし理解できるなあって思いますね。僕自身が言ってしまいそうな言葉もあるし。でも100パーセント理解できる感じじゃなくて、やっぱり距離は離れてるというか」

——若干の違和感があるとして、最終的にはその違和感は残すんですか? それとも同化する?

「結果的に、理解できなかったかも、っていうところで終わると思うんですよ。同化しようとして求めていくけど、結局掴めなかったっていうのが、僕にとっても課題に残るしいいかなって思う。それが良いことか悪いことかわからないですけど、そうなりそうな気はしてますね」

——ブラックボックスは必ず残りますよね。俳優と呼ばれる人たちが、与えられたわずかな手がかりからどうキャラクターを立ち上げていくのか、興味深いところです。

「今回はモノローグが多いんですよ。その言葉にいろんなものが散りばめられていて。だから夫婦のやりとりでどう見えるかっていうより、モノローグの時に僕の中から出てくる言葉、まあスグル君が書いた言葉ですけど……。そこから生まれてくるものから、立ち上げて何かつくれるんじゃないか、っていう気がしてます。単に情報を説明するっていうよりは、言葉を描写していった先に出てくるものの方が重要なんじゃないかと」

——モノローグには、説明だけではない効果があるのかもしれない。

「喋ってるとそんな気はしますね」

——(藤原)その人が現れてくるような。

——(落)その「出てくる」というのは、波佐谷さんの中になのか、それとも舞台の空間にですか?

「空間についても、いろんなものが溜まって繋がるような感じに最後はなる、と思うんです。なので、僕自身にっていうのもあるんですけど、作品に溜まってくものの方が重要なんじゃないかと思います。作品が良ければだいたい役者も良いって言われるんで(笑)、うまいこと作品に溜まっていけばいいですね」


▼演劇はなんでもできる

——失礼に聴こえたら申し訳ないんですけど、今の時点では名児耶ゆりさんと夫婦っていうイメージがあまり湧かなくて、意外というか……。や、でも演劇のマジックってあって、「夫婦です」って言われたらもうそれは夫婦、ってなるんでしょうね。

「スグル君も「演劇はなんでもできる!」って言ってますからね。そんな気はします。僕、結構不自由だと思ってたんですね、演劇のこと。ずっと映画の方が好きで、映画の俳優になりたいとずっと思ってたから。でもだんだん、演劇っていろいろできるんだなと思うようになって、だいぶ僕自身、認識変わったと思います」

——それはいつ頃から?

「……やってくうちにですね。こんなこともできるし、こんなことも伝えられるし、ライブだからこその影響もあるし……。演劇って溜まってくじゃないですか。作品の空間に。それが溜め方次第でこんなふうに爆発するんだっていう……。昔、ロロの作品を観た時に、テレンス・マリックの『ツリー・オブ・ライフ』みたいにイメージが最後にバーッてひろがるような感じがして、ああ、こういうことが演劇でもできるんだなって思ったんですよね」

——それを実際やるのは俳優ですよね。

「大事だな。今回も溜まってく感じはありますね。溜まってねじれてぶわーってなる感じですね(笑)」

——それって、さっきのモノローグの話と関係するのかも?

「ああ、そうですね。あるかもしれないですね。でも結構、唐突にねじれだしたりするから、あれっ? みたいな驚きもありますよ」

——最後に今作の見所を。

「見所ですか(笑)。いや、そうですね、起こってるものをずっと観てくれたら。じっくりと観てほしいですね。俯瞰するようにというか……。投影される映像だけ観てても面白いと思いますし、客席によってはそこがメインで見える場所ってあると思うんで。そっちしか見えなかったりとか、もちろんスグル君は意図的につくってると思うんですけど。だから観る客席の位置によっても面白さが変わるかもしれない」

——お、空間に対するコメントは5人目にして初めてですね。なるほど、どこに座るか……。

「もしかしたら観づらいってなるかもしれないけど、それはそれで面白いと思いますよ

——全部を把握できないのもまた、演劇の魅力ですよね。すでにリピート観劇しようかとも考え始めてます(笑)。ありがとうございました。

 (マームとジプシー「LEM-on/RE:mun-ON!!」より  

撮影:飯田浩一)


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次回は名児耶ゆりです。お楽しみに。

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