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卒業に寄せて

2020年3月、例年より早い桜が満開の良く晴れた日に、大学を卒業しました。

4年前期まで履修し終えたのち、1年の休学を挟んで5年間の大学生活。

大学生活何してた?と聞かれると、なんだかあまり遊んだ記憶はなく、1週間ごとに課せられる実験レポート、専門科目の勉強、1人暮らしの生活費のためのバイト、学習支援のボランティア、地元福島とつながるためのサークル立ち上げ、休学して能登に長期インターン…
など、やってきたことを列挙すると、わお、我ながらまじめな大学生! という感じである。

だけど思い出は、やってきたことなんかより、日々の日常の中にちりばめられていて、どうしても回収しきれないそれは時を重ねて美化される。

大学入学と同時に一人暮らしを始め、初めての朝はやたらと早く目が覚めてしまい朝5時に散歩に出た。季節が福島の一歩先を進んでいた。
高校まではメイクなんてしたことなかったのに、毎日スカートにヒールをはいて、「すっぴんだからマスク外せない」なんて言っていた。
初めてバイトで稼いだお金で、両親に贈った夫婦箸。
1年半付き合っていた、女子はみんなFrancfrancが好きだと思い込んでいる男の人。
年確されないかとドキドキしながら初めて買ったお酒の味。
バイトのあと、24時間営業のマックで友達と朝まで試験勉強した。
どうしても届かなかった恋にやさぐれて、美味しくもないタバコをふかしたベランダ。ヘビースモーカーだった2か月間。
お酒を飲んで気持ちよくなって、友達と二人なぜか涙目になりながら夢を語った。

お酒に強くもないのに、夜のカフェレストランで店主とテキーラを賭けてオセロ対決をし、もう歩けないほどに泥酔して店に泊めてもらった。
ちなみにこのタチの悪い店主が今の夫であり、これが私たちの馴れ初め話である。
人の店で起き上がれないほどに泥酔する私もまあまあタチが悪い。

人生バラ色!夢が広がる!!なんでもできる!!とパワーあふれる日もあれば、もう消えてしまいたいと布団にもぐって天井の隅を見つめ続けた日もある。

卒業を待たずして私は母になった。
勉強にバイトに追われながらも、かつてないほどに自由だったあの日常は、全部全部、もう戻ってはこない。

やり残したことがないといったらウソになる。後悔もある。
息子が生まれて母になったことは本当に本当に心から幸せだけど、その反面、毎日確実に朝まで眠れていた当たり前や、一人気ままに生活したあの日々や、何も気にせず友人や彼と飲み明かしたあの夜が恋しくなる。同期の子たちがまだ自由に学び、仕事をし、生活しているのをみて、コンビニに行くにも息子を抱っこしていく私は羨ましくなる。

しかし、これが私の大学生活でした、と胸を張って言える5年間だったとは思う。

5年間のうちちょうど半分を夫と過ごした。

夫と出会ってなければきっと休学を決心することもなかっただろうし、もちろん息子は生まれていないし、今とは全く違う生活になっていたことは違いない。

夫は私に、知らなかった世界をたくさん見せてくれた。
夫がいなければ出会わなかった人が、きっと100人くらいいる。もっといるかも。
片真面目に生きてきた私に、自由な生き方をみせてくれた。自由すぎるときもあるが。
結婚式は挙げていないけど、大好きな人たちを呼んでささやかなパーティーを開いて、イチゴがたくさんのった飛び切り大きなケーキをプレゼントしてくれた。
分娩台の上で痛みで息をすることすら忘れてしまっていた私の手をずっと握って励ましてくれて、息子が生まれて、私たちは家族になった。

夫と出会った今も、さだめ。もし出会わずして違った道を歩んでいたとしても、それもまたさだめ。
大学在学中に結婚出産というライフイベントを経験し、幸せな思い出をたくさんもらった。その反面殺し合いのような喧嘩もした。

だけどやっぱり、かけがえのない人に、出会った。

そんな大学生活である。

5年を通じて出会ったすべての人に、産後わたしの卒業に育児の面で協力してくれた心強い友人や母に、そして最愛の息子と夫に、感謝の意を表したい。

余談ではあるが、卒業の時点でわたしはまた妊婦になっていた。
あの生まれたてふにゃふにゃの可愛い生き物にまた出会えると思うと、幸せで楽しみで仕方ない。

お酒は当面まだ飲めない。
懲りないやつだと思って欲しい。

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