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夢虫(ユメムシ) −ショートショート−

 私には、兄がいる。
兄は勉強もできて、スポーツも万能。
そして面倒みがいいので、後輩からも慕われ、友人も多い。完璧を絵に描いたような人だ。
 親戚が集まると、必ずと言っていいほど、兄の話しで盛り上がる。
 私といえば、何をやるにも不器用で、子供の頃は極度の恥ずかしがり屋でもあった。
だからいつも兄の後ろにくっついて歩いて、隠れていた。
 優秀な兄をもった私は、親や学校の先生にいつも比較されて、本当はとても傷ついていた。

⌘⌘⌘

ある日、こんな夢を見た。

 それは小さな虫ちゃん。羽根が白くて体は緑色。
昨日買った窓辺の鉢植えのお花に少し似ていた。

「どうしたの?苦しいの?泣いているのね。大丈夫よ、あなたの苦しみや悲しみは、私が食べてあげる」

そう言って私の周りをフルンフルン〜と飛び始めた。

 朝、目を覚ますと、気のせいかとても気分が良くて、お日様がいつもより眩しく感じた。
 天気が良くても、余り外に出ようと思わなかったけれど、きょうは少し散歩したい気持ちになった。

 その日も、小さな虫ちゃんが夢の中に出てきた。

「ねぇ、嫌なことを全部話して」

 目が覚めたら、枕が濡れていた。
そういえば、夢の中でたくさん泣きながら、話していた気がする。

 あー 爽やかな朝!
窓辺のお花が少し元気がない。水をあげようと台所に行ったら兄がいて、話しかけて来た。

「なんか最近やたら元気だよね?」

 確かに、最近とっても気分がいいし、食欲も旺盛。今まではどう見えてたのかな?と少し気にはなった。
 たっぷりお花に水をあげたら、一瞬花が揺れたような気がした。

「ごめんね、喉乾いてたのね。」

⌘⌘⌘

 その日の夜も、あの小さな虫ちゃんが夢に出てきた。
もうお別れだと言うのだ。

「あなたの苦しみと悲しみは、ぜーんぶ食べたよ!だから大丈夫。明日からは笑顔を忘れないでね!」

 一人で悩み苦しんでいた事も全部全部聞いてくれた虫ちゃん。
ようやく心置きなく話す相手ができたのに…そう思いながら目が覚めた。
 気分はとても良いけど、淋しいという感情が喉の奥に引っかかっていた。

 考えると虫ちゃんが夢に出てきたのは、ここ数日のこと。

 ふと目をやると、窓辺の花は、昨日たっぷり水をあげたのに、また元気がない。
 昨日よりも更に水をたっぷりとあげて気づいた。

 虫ちゃんが夢の中に出てくるようになったのは、この部屋にお花を置いてからだったことを…。

★おしまい★

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