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【読書感想文】マチネの終わりに



マチネの終わりに 平野啓一郎さん



福山雅治さん主演で、映画にもなった一冊。マチネって「昼の公演」のことで、フランス語で「午前中」の意味らしい。なんだかおしゃれな言葉だな。



「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです、変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」



この本について話すとき、おそらく一番取り上げられる部分。この言葉が物語の中で一貫して語られている。そしてこの言葉が、どんなに残酷な現実を前にしても、物語に希望を残し続けている。



わりと冒頭に出てきたこの「未来は過去を変えている」の意味が、じっくりじっくり物語を通して、自分の中で解釈できた気がした。






あらすじは、こんな感じ。


天才クラシックギタリストの蒔野 聡史と、国際ジャーナリストの小峰 洋子。蒔野の演奏会で偶然出会った二人は、出逢ったその日から意気投合するが、洋子にはフィアンセがいた。蒔野は世界各国で演奏活動を続け、洋子はイラクの紛争地域で最前線の情報をジャーナリストとして追い続ける。東京、パリ、ニューヨーク、バグダッド‥‥世界各地で二人の恋の行方を軸に、生と死とは、音楽とは、家族とは、愛とは‥様々なテーマが重層的に繰り広げられる。





実はずっと積読になっていた本なんです。お恥ずかしながら、難しい漢字や言葉が多くて多くて‥冒頭で一回挫折しました。

でも今回、友人がおすすめしてくれたのをきっかけに再び手に取り、無事読了!平野さん独特の、文体に慣れることさえできれば、後はもうストーリーの面白さにただただページをめくる手が止まらなかった。友人よありがとう。




登場人物のみなさんが教養のある方々で、物語の多くの場面で歴史や音楽、文化などが語られているからこそ、単純明快な文体ではなかったのかなとも思ったり。物語の世界観が、文章の形でより鮮明にイメージできる感じ。






話の内容は‥もう。なんだろう。わたしはもちろん経験したことのないような世界だったな。まだまだしばらくは経験できそうにないなぁとも。


甘いだけじゃない、大人な恋。


蒔野は”クラシックギターのプロフェッショナル”という確固たる彼の人生の軸を持っている。そして洋子も”国際ジャーナリスト”という軸がある。



‥音楽家としての幸福と、洋子の存在によって齎された幸福とが一致していたなら、今日という一日は、どれほど晴れやかな歓喜とともに過ごされたことであろうか?
彼は自分が、決してその後者によってのみ生きられる人間ではないことを知っていた。



大切な人と共にいるだけでは生きられない。

けれども、出逢ってしまった以上、その人がいない人生を生きることはもうできない。


自分自身の人生の、確固たる軸が分かっている蒔野と洋子だからこそできる、そんな恋愛の形なんだろうな。







そしてこの物語は、恋愛だけでなく色々なテーマについても考えさせられる。音楽、生と死、愛、歴史、国際化・・・。



ジャーナリストとして戦地に赴き、まさに最前線という場所で真実を伝えようと奮闘する洋子の姿をみて、この言葉が思い浮かんだ。



「幸せなことに目を向けつつ、問題から目を背けない事。二つは両立が可能です。」


以前他のnoteでも紹介した、大学の教授のこの言葉。



人の死というものがいつどこで起こるか分からないその場所で、自分の身の危険もありながら、それでも自ら志望してその地に赴き、伝えるという事を続けている。


‥‥自分が健康じゃないと、苦境にある人のことは伝えられない。それはわかってる。


「死んだのは、なぜ自分ではなかったのか。」

そう考えざるを得ない程、死というものがあまりに近い世界にいる洋子。



「その優しさのために、お前が引き受けることになる人生の苦難を、わたしは心配している。」


洋子の身近な人が、こんな言葉をかけたくなってしまう気持ちも分かる。実際に洋子がPTSD(心的外傷後ストレス障害)で苦しむ場面も出てくる。




だけど、そう。

「自分が幸せであること=問題から目を背けること」ではないんだ。

洋子が幸せに生きながらも、戦地の現状を伝えるという事はきっと不可能じゃない。決して簡単な事ではないけど、不可能じゃない。そう信じたい。


それらを両立できる方法を、バランスを、洋子にあったもので見つけていけたらいいなと思う。


わたしも自分に合ったものを見つけていきたいな。悲しいニュースとか、自分の無力さを実感することが多い日々だからこそ、見つけていきたい。




洋子の幸せも、蒔野の幸せも、ふたりの周りの人の幸せも。

その人が抱えている苦しみを完全になくすことは難しいかもしれないけれど、苦しみを抱きながらも幸せになって欲しいなぁと願わずにはいられない、そんなお話でした。


長い長いマチネの終わりに、幸福でいっぱいの日々が二人に訪れますように‥。




”大人な恋”が、二人にしかできなかったように、”若者の恋”もきっと今しかできないんだろうな、とふと思ったり。隣の芝は青いというけど、きっと未来の芝も、過去の芝も青いんだろうな~。



映画も見てみたい。わたしの想像の及ばない、美しい世界が繰り広げられていそうだから。

そして映画を見たら、また改めて本の世界に戻ってきたいな。

また読むぞ♩



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