見出し画像

みかんの通信簿

一年ぶりにみかんを食べた。
みかんの良さは、刃物を使わず、自分の手で剥けるところにある。
しかも、持ち運ぶのに、容器もラップも何もいらない。
ただ、カバンに入れてしまえばいいのだ。
この簡便さは、みかんをおいて他にない。
と、言いたいところだったが、
テーブルに置いてあったバナナと目が合う。
「私も、結構良いやつですよ」
確かに。
バナナに関しても語りたいことはあるのだが、また今度ね。

気の良いバナナとお別れしたところで、みかんの話である。

今日食べたみかんは、近所に植えてあるみかんだった。
こういう野生のみかんは、お取り寄せの高級みかんと違って
そんなに甘くないんだろうな、と思って口にしたのだが、
それが偏見だということがわかった。
強烈に甘い!ということはないが、きちんと甘いし、
何よりも、きっちり酸味があったのだ。

私はみかんを口に放り込んで、うむー、と考える。
やはり、果物には酸味って大事なんじゃないだろうか。
親切なことに、最近では、
売られているみかんの糖度まで提示してあるスーパーもある。
それを目安に、ちょっと高いけどこっちにしようかな、と思う日もあれば、
糖度の一度や二度くらいたいして違わん!と
安い方の袋を、むんずと掴んで買う日もある。

しかし、その糖度を信用して食べてみても、
たまに納得がいかない時があったりする。
甘いけど、酸味が薄すぎる。薄いから、何だか味がぼんやりしている。
糖度を優先すると、酸味は薄まってしまうものなのだろうか。
酸味が甘さを、より際立たせ、結果、濃い味になる。
そういうふうに感じるのだが、どうなのだろう。
糖度計の数字は、果物の美味しさのすべてを測れるわけじゃない。
人間だって、通信簿の数字で性格まではわからないのだから、
果物だって、食べてみないとわからない。
一度、糖度至上主義から解き放たれて、
酸味とまた手を取り合うことができないものか。

そんな事を考えていたら、あたりが暗くなってきた。
みかんが採れるようになると、日も短くなってくる。
夕飯の支度でもするか。
私はよっこらしょ、と立ち上がった。
すると、普段着のフリースのポケットが、やけに膨らんでいる。
なんだなんだと、手を突っ込んだら、
ヒヤッとして、モニュっとした。
予想外の感触に「うわぁ~」と情けない声が出る。
恐る恐るポケットから出してみたら、
さっきまで食べてたみかんの皮だった。

この記事が参加している募集

スキしてみて

お読み頂き、本当に有難うございました!