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童話小説「ガルフの金魚日記29」

きょうはぷくの知っている、冬さんのお父さんのおはなしをします。
冬さんのお父さんは、四季ばあさんのだんなさんです。なまえは、シズオさんというそうです。
四季さんがおばあさんなら、シズオおじいさんなんだけど、シズオさんは冬さんが生まれて、しばらくして外国で亡くなったそうです。

だから四季ばあさんにとって、シズオさんはいつまでたっても、シズオさんなんです。
シズオさんは、外国航路の副船長さんをしていたそうです。アメリカやヨーロッパ、オーストラリアに行っていたそうです。それで、なんか月もなんか月も、四季さんが待ついちじく島に、帰ってくることはなかったそうです。

だからでしょうか、冬さんはお父さんとの思い出が、ほとんどないそうです。手をつないで、どこかへ出かけたような、そんなわずかな記憶が残っているだけだそうです。
それも、あとになってから、そのときの記念写真を見たので、その印象がごっちゃになっているかもしれない、といっていました。

冬さんは、さみしい子供時代を送っていたのですね。ぷく。
ぷくもおなじです。
ぷくは、お父さんだけじゃなく、お母さんとの思い出もありません。

冬さんは四季さんというお母さんがいて、少しだけでもお父さんの思い出があるのですから、幸せなのではないでしょうか。

ぷく…。そんな思い出があるとか、ないとか、そんな単純なものでない…。
ぷくの気持ちはどうなのでしょう…。
う~ん、いくら考えてもわかりません。ぷく。

四季ばあさんは、ぷくにむかし話をよくしてくれました。
「この島の男たちは、みんな船乗りで、外国に行っていた。シズオさんのお父さんは、瀬戸内海航路の機帆船の船長さんだった。あたしのお父さんは、そんな機帆船の船員さんをしていて、船が島に帰ると、いちじくやミカンの世話をしてたのよ」
 そうなんですね、ぷく。

「シズオさんがアメリカから帰ってくると、牛肉のブロックとアイスクリームとチョコレートがおみやげだった。牛肉は5キロとか10キロのかたまりでね、ゴムみたいにグニュグニュで、アイスクリームは甘すぎるし、とても食べれたもんじゃなかった」
 そうだったんですか、ぷく。

「でも、キスチョコはおいしかったかな」
 チョコレートはおいしかった、どんな味だったのでしょう、ぷくも食べてみたかったなぁ。ぷくぷく。
 冬さんは、四季ばあさんのシズオさんとの思い出の、どこまでを知っているのでしょうか。ぷくー。

     明日の金魚日記へつづく

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