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[コラム 11] 改めて経済格差について考える

 千葉大学法経学部の広井良典教授は1980年以降、日本の経済格差は広がっていると指摘している(広井良典著「ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来」(岩波新書、2015
年))。

広井教授は、その理由の一つに生産過剰を挙げている。「生産性が上がれば上がるほど失業が増える」、という逆説的な時代が生まれているとして、次のように述べている。

――すなわち技術革新と大幅な労働生産性の上昇により、われわれは以前より汗水たらして働かなくてもよくなり、「楽園」の状態に少しずつ近づきつつある。ところが困ったことに、「すべてのものが働かずに手に入れられる」楽園においては、成果のための給与が誰にも支払われないということになり、結果として、そうした楽園は、社会的な地獄状態を――現金収入ゼロ、100パーセントの慢性的失業率――
になってしまうと述べている。
確かにそうとも考えられる。その証拠として、

シャープを買収した台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業のテリー・ゴウ(郭(グオ)台(タイ)銘(ミン))CEOは、「将来、ロボット労働者を100万台導入する」と2013年の年次総会で述べた。鴻海の従業員数は100万人だから数字上はすべての従業員をロボットに替えることになる。

さらに、ゴウCEOは、こうも言っている。
「人間もまた動物なので、100万の動物を管理するのは頭痛の種だ」、と。

 なんということだろうか、人は口うるさいが、ロボットなら黙って24時間働き続ける。それも人間よりも効率高く…。

従業員100万人のすべてをロボットに代えたとすると、1人当たりの生産性は無限に大きくなるが、誰1人鴻海の製品を買うことができない。そのために、ゴウCEOですら収入を得ることができなくなり、資本家も労働者も血の池地獄で喘(あえ)ぐことになる。

これはあまりにも極端な話ではあるが、このような状況が先進国で、日本で確実にしかも着実に進行している。そして行き着いた先を広井教授は、「社会的な地獄状態」、「過剰による貧困」と呼んでいる。

それを証拠付けるように生活保護受給者は1997年の6.7パーセントから2012年には18.4パーセントに増大している(藤田孝典著「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」(朝日新聞出版、2015年))。

「過剰による貧困」は、雇用を巡る競争を激化させ、採用されたものの過重労働により、ストレスや健康悪化に悩まされ、うつ病を患い、挙句の果てには自死を選ばざるを得ないような断崖絶壁をさ迷う状況に追い込まれている。

そして、自死は、男ばかりだけでなく女性も近年急増していることはご存じのとおりである。

このようにひとはロボットやコンピュータとの競争を強いられ、その結果、だれでもできる取り換え可能な低湿、低賃金の仕事に追いやられることになる。

結果的に、「失業」と「過労」が共存し、しかも、経済格差、教育格差、男女間格差の三大格差が増大するというパラドックスに陥っているのが日本を含め、世界の先進国と言われる国々で蔓延しつつある。

しかも驚くことに、現在のこの状況は、まったくの初期症状にすぎないという。

経済のパイが右肩上がりのとき、これまでの経済成長やGDPの増大、そして富の増大はみなの幸福につながった。

しかし、世界の人びとの需要は成熟しつつあり、飽和に近づいている。限りないパイの総量の増大はアフリカの奥地まで行き届き、世界中を見回しても今やどこにもなく、もはや経済成長が期待できなる状況にない。

そうした中で拡大成長期と同じような行動や経済政策を続けるとすれば、資本家と労働者が、生産国と消費国とがお互いの首を絞めあうような時代がいっそう早まるだけである。

今やフラット化された世界は、これまでのようにGDPを増大させるような政策や経済手段だけでは人びとは幸せになれないのだ。

自由経済社会が行き過ぎたのだ。それを強く主張しているのが、斎藤幸平大阪市立大学准教授の「人新生「資本論」(集英社、2020年)」に詳しい。一読に値する。
斎藤準教授は、コミュニティーを基本とした社会、(新)マルクス主義を掲げている。

これらを一言でまとめると、「GDPの増大はもはや人類を、われわれの幸せもたらさない」、ということだ。

最後に広井教授と斎藤準教授は、そのためにも(世界的な)「富の公平な配分を促すシステムつくりが急を要することなのだ(()および傍点は筆者が付記した)」、と訴えている。
                            つづく

[コラム 12] 改めて老人介護・引きこもり・育児ノイローゼについて考える
 お忘れでないだろうか、2025年問題というのがある。1945年から1950年生まれの団塊の世代のすべての人たちが75歳以上の後期高齢者になる年に起きるさまざな問題だ。

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