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まちづくりには終わりはない〜市民参画のまちづくり

武蔵野美術大学大学院 クリエイティブリーダーシップ特論、今回のゲストはアトリエTーplus建築・地域計画工房代表の辻喜彦さんです。1990年代から市民参画のまちづくり取り組んでいる、先駆者なのです。

まちづくりに関わる方のお話はこれまでも聞いてきましたが、都市計画を軸にした話を聞いたのは初めて。場所の持つ力の大きさに気づかせてくれた講義でした。

市民参画でまちづくりをするということ

今でこそ、市民参画のまちづくりは増えているけれど、本当の意味での「市民参画」ができている地域はとても少ないのではないでしょうか。

行政だけでなく、住民がまちづくりに関わる最も大きな意義は、住民がまちに対して当事者意識を持つことだと思います。行政や企業がつくったまちなのか、自分たちがつくったまちなのか、その後のまちのあり方が変わります。まちの生命線と言ってもよいかもしれません。

辻さんに事例を紹介していただき、駅や商店街など、まちの中心となるエリアにまちの人を巻き込むことで大きな変化が生まれることを目の当たりにしました。でも、そのプロセスはとーっても面倒だし時間がかかる。辻さんはそのプロセスを丁寧に、そしてまちの人や外の人を巻き込みながら着地させる。ご本人は自分のことを「猛獣使い」とおっしゃっていましたが、まさにその通りだと思いました。

この猛獣使いがいるかどうかが、まちづくりの肝なのではないでしょうか。でも、表に出てくるのは猛獣たちなので、その存在に気づきにくいんですよね。

ものごとが動くタイミング

萩市外堀通り、川越市菓子屋横丁、箱根関所の復元整備、下関城下町、熊本県山鹿市、豊前街道まちなみ、宮崎県延岡市、日向市駅・・・さまざまな地域でまちづくりに取り組んできた辻さんですが、うまく行かないことのほうが多い!とのこと。

まちづくりには、たくさんの利害関係者が絡みます。元々の人間関係も複雑で、利害も一致しない。さて、どうするのか。

大切なのは「啐啄」だと辻さんはおっしゃいます。
「啐啄」とは「師と弟子の思いが通じ合う。逃したらもう二度と来ない、大切な機会」。利害関係者の意見が一致する瞬間を逃さず、「今だよ」と教えるのが辻さんの役割なのです。それを逃してしまうとうまく行くこともうまく行かないし、そこで一気に推し進める強さも必要なのだと思います。

利害関係者から共同体へ

辻さんがプロマネを担った宮崎県日向市駅プロジェクトでは、木を生かしたまちづくりを目指しました。杉の生産量が日本一の地域です。

外部空間に使うのは無謀と言われながらも、地元企業と開発を進めていったそうです。パーゴラ、ベンチ・・・まちの人たちが手入れをしながら育てていきます。

地域の子どもたちの思いに正しく向かい合うということで、いろんな風景が見えてきました。子どもたちが関わることで保護者にも広がり、市民が始めたハロウィンのイベントは初回は200人程度でしたが、今では13000人が参加するイベントに。いろんなグループがつながって、広がり、日々駅に人が集まってくるようになっています。

市民が利害関係者ではなく、共同体に変わっていったのです。

まちづくりには終わりはない

長いスパンのマネジメントについての方法論が確立しておらず、このメンバーだからこそできたと言われて悔しく思った辻さんは、市民参画のまちづくりを研究するため大学院へ。2011年に書かれた博士論文は、世界でも最先端の研究だったのではないかと思います。

「まちづくりには終わりはない」と辻さん。

最近読んだ「Design, When Everybody Designs(2015, Manzini, Ezio)」にも「open-ended co-design processes」という表現が出てきます。市民協働のまちづくりや仕組みづくりについてデザイナーの関わり方について述べられていますが、辻さんの取り組みと重なります。

終わりのない協働プロセスのなかで、私たちは何ができるのか。ハナラボとして何ができるのか、何をすべきなのか。大きな視点で考えていきたいと思います。

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