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深センの古いマンション最高って話(中編)

 6月〜7月頭まで何かとバタついており(7月前半はART OSAKAに出展していました)、すっかり間が空いてしまったがやっと前回の記事の続きの題名にもなっている古いマンションの話である。
前編後編を予定していたのだが、あまりにも長くなってしまったので今回は中編である。

 深センで泊まっていたホテルの道を挟んだ向かい側に、日本の古い団地のような雰囲気のマンションが立ち並んでいる一画があった。その一画は表の道からは結構奥まっているので、少し意を決して入り込んで行かないと辿り着かない。
この場所は同じく日本から深センのアートフェアに参加していた、アーティストの河野ルルさんに教えてもらったのだ。
到着した次の日の雨が降る夕方、その日の作業を終えたルルさんと一緒にその古いマンションの一画を少しだけ散策した。

 そしてその一画に足を踏み入れた瞬間、私は息を飲む事になる。
風雨に晒されなんとも趣のある外壁、日本の団地とどこか似ている佇まい。
しかしながら廊下の至るところには洗濯物が大胆に干され、やたらと成長した南国の樹木たちがマンションに隣接して生えまくっている。土と植物が湿った濃厚な匂いがする。

 ところどころ玄関や窓に貼られた中国の赤い正月飾り。よく見るとドアや窓枠は一世帯ずつ違い、どうやら部屋はそれぞれ自由に内装がカスタムされているようだった。窓ガラスが割れ、そのままにされているところもある。マンションの下に停められたいくつかの乗用車に、木に咲いていた赤い花が降り落ちている。
その空間にある全ての要素が最高すぎて、正確に表現するならば私のフェティシズムのツボを的確につきすぎて目眩がした。
鳩尾のあたりがギュウとなる。

 そんな風にとにかくその場所にある全てのものに理屈抜きに大興奮だったわけだが、あえて言葉で説明するならば、その場で暮らしている人たちの剥き出しの生活感、そしてその場所の風土(植物や気候)、根付いている文化と暮らしの価値観が「古いマンション」という視覚的に私の好みにドンピシャな容れ物を拠り所にして、渾然一体となりながら空間として立ち現れ、今ここで私を包み込んでいることに身震いがするほどテンションが上がったのだった。

 (つづく)


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