あの時逃げ出せなかった僕は、8月32日を生きている。
目を覚ます。ヒグラシの声が聞こえる。
外はもう薄暗くて、庭の草木の緑は深い色になっていた。
出しっぱなしの水色のホースが玄関前の芝生の上で項垂れている。
それらが見渡せる仏間が僕は好きだった。
仏間は家の中で一番風通しが良い場所だった。
襖を開けっぱなしにして縁側の向こうの庭をぼんやり眺めたり、そこで漫画を読んだり絵を描いたりして夏休みを過ごす事が多かった。
何より、仏壇の上にかけられたご先祖さんの遺影を眺めると心が落ち着いた。
昔の遺影だから表情は堅苦しくて暗いし、和服姿