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ナラティブと人間関係――創作活動と恋愛の交差点

私たちが物語を求めるのは、ある種の本能かもしれません。人生には、無数の出来事が連続して起こりますが、私たちはそれを脳内で整理し、一貫した物語として解釈しようとします。創作においても同様です。新たなストーリーを紡ぎ出すのが得意な人もいれば、既存のストーリーに依存してしまう人もいる。それは、私たちが経験や物語のフレームに無意識に固執しがちな性質を持っているからかもしれません。

創作における依存

ある人は言いました。「自分には新しいストーリーを作る力がない。いつも与えられたストーリーに依存してしまう」。このような感覚を持つ人は少なくないでしょう。与えられたストーリーに強く感情移入し、それに固執してしまうと、やがて自分の創作活動の源泉をそこに頼りすぎることになるかもしれません。例えば、映画や小説に感動し、その感動を元に何かを創ろうとすると、元のストーリーの影響があまりにも強く、オリジナルのアイデアが出てこないという悩みが生まれます。

これは決して悪いことではありません。誰もが何らかの影響を受けて創作するものです。問題は、その影響をどう自分の中で消化し、独自の視点を持つかにあります。与えられたものを基盤にしながらも、そこから新たな視点や解釈を加えることで、オリジナリティを生み出すことができます。

人間関係における依存

この傾向は人間関係にも反映されることがあります。例えば、ある異性に出会った時、まだその人のことをよく知らないうちに、相手に強く惹かれてしまうケースです。これは、まるで物語の中の登場人物に惚れ込むように、相手のある側面や振る舞いに心を奪われてしまう現象です。このような感情移入は、一種の理想化と言えるでしょう。

恋愛において、相手にすぐに惚れてしまう人は、相手のことを深く知る前に、自分の中で理想的なストーリーを作り上げている可能性があります。そのストーリーが現実とは異なり、やがて齟齬が生じた時、深い失望を感じることがあるかもしれません。なぜなら、その人は現実の相手にではなく、自分が作り上げた「理想の相手」に惚れていたからです。

例: 理想の恋愛ストーリー

例えば、ある女性がいました。彼女はいつも、映画や小説の中で見た理想の恋愛像を追い求めていました。彼女にとって、恋愛は劇的で情熱的なものでなければならず、相手はいつも自分を理解してくれる「運命の人」であるべきだと信じていました。ある日、彼女は一人の男性に出会います。彼は魅力的で、彼女の理想にピッタリでした。すぐに彼女は彼に強く惹かれ、彼との関係が始まります。

しかし、時間が経つにつれて、彼女は彼が思った通りの人ではないことに気づき始めました。彼女が描いていたストーリーと、実際の彼との関係には大きなズレがあったのです。彼女はそのギャップに苦しみ、やがてその関係が終わってしまいました。彼女が惚れていたのは、彼そのものではなく、彼女が作り上げた「理想の彼」だったのです。

感情とストーリーのバランス

創作においても、恋愛においても、私たちはしばしば「ストーリー」に依存します。それは安全な領域であり、心地よい感情を生むものだからです。しかし、そのストーリーが現実とズレた時、そこに生まれる不安や失望をどのように処理するかが重要です。

創作では、与えられたストーリーや既存の作品からインスピレーションを得ることは悪いことではありません。しかし、そのインスピレーションに固執せず、どのように自分の独自性を加えていくかが創造力を育む鍵となります。同様に、人間関係においても、相手に過度な期待をかけることなく、現実的な目で相手を見つめることで、健全な関係を築くことができるでしょう。

まとめ

私たちは皆、何らかの形でストーリーに依存しがちです。それは、創作においても、人間関係においても同じです。しかし、依存そのものが問題ではなく、そこからどう独自性を持ち、現実を見据えて進んでいけるかが重要です。与えられたストーリーを土台にしながらも、自分の中で新しい視点を生み出す力を育てることが、人生におけるさまざまな挑戦において役立つでしょう。

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