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私のイライライフ


「ご案内しますのでこちらにお掛けになってお待ちください」

と言われ案内されたカフェの待合椅子。
先に二組の女性たちが座っていて、その前に置かれた小さなテーブルには段ボールに入った状態の桃がデーンと置いてある。え、なにこれ邪魔なんですけど。
お掛けになってお待ちくださいと言われましても、見るからにあってはいけないところに置いてある桃の段ボールとすでに座っている女性たちの組んでいる足で、空いている奥の椅子まで行きづらい。はぁ。

「すみません」と小声で言いながら女性たちの前を大股広げて通過して奥に座る。目の前の邪魔な桃段ボールにはマジックで何か殴り書きがしてある。ほら絶対スタッフがここに一時的に置いて開店前にどかすのをわすれてるやつ。学生時代、接客指導が割と厳しくて尚且つ熱い飲食店でアルバイトをしていたせいで飲食店の接客態度や店内の様子にやたらと目がいく。料理を運んできて「〜になります」と言う店員に遭遇したり、グラスの飲み口の部分を手で持って机に置く定員を見るとイラっとする。

「久しぶりに来た〜」隣に座っている私の友達はこの目の前の桃段ボールには何も思ってないなさそう。友達はそう言いながらスマホを鞄から取り出した。透明なスマホケースの中に2枚ステッカーが貼ってある。

「それなにわ男子?」
「そうだよ〜大橋くん!」
「もう一枚のやつもなにわ男子?」
「ううん、これはNCTっていう韓国のグループのステッカー」
「ああ、前に言ってたやつね」
「そうそうこの前久しぶりに日本でライブがあってさ、もうめっちゃ楽しくて。なにわちゃんも先月ライブがあってさ!もう私5月から毎月ライブ行ってて」

独身の友達。ヲタ活に楽しそう、可愛いネイルもしてるし髪の毛もキレイ。
既婚の私。息子2人を実家に預けて久々のランチ。普段は抱っこ紐つける時に邪魔で着れない、サスペンダー付きのオールインワンをここぞとばかりに着ている。張り切って巻いて時間をかけて仕上げたポニーテールは汗ばんで崩れ気味、「いいね〜」の相槌を繰り返す。自分のことをこんなふうに書くのは嫌だ。それによくある‘疲れた主婦像‘すぎてありきたりなのだが実際こうなのでこう表現するしかない。
ネットニュースの見出しでよくある「お母さんに見えない」という言葉、褒め言葉だと思っていた。でも自分が母になってみるとなんて失礼な言葉なんだろうと思う。母というものがどれだけハードで心身ともにゴリゴリにHPを削られ毎日を一生懸命に生きている生き物であるか。
お母さんという生き物は中肉中背、ちょっと髪が乱れていたり服にシワがついていたり履き古したスニーカーの底がすり減っていて、スーパーで「もう置いていくからね!バイバイ!」と大声で言っている。というようなイメージ。
クレヨンしんちゃんの母ものび太の母も、ちびまる子ちゃんの母もみんな子供に怒っているイメージ。

そのイメージとかけ離れた見た目、それが「お母さんに見えない」

でも実際、私が誰かに「全然お母さんに見えない」と言われたら、
な、なんて失礼なこと言うの?ではなく
え!ほんと!?え〜嬉しいめっちゃ嬉しい
と言うと思う。し、実際お母さんに見えない小綺麗な母がInstagramを開けばたくさん見られるというか見せつけられる現代なのでお母さんに見えないと言うのは失礼だと思いながらも自分もそう言われてみたい。はぁ。


注文したカルボナーラが運ばれてくる。「カルボナーラになります」とは言われなかった。そうそう、この店は接客が気持ちよくて昔から好き。だからこそ気になってしまった桃段ボール。(まだ言う)

カルボナーラを食べながらお互いの近況報告になるものの友達の近況と私の近況が世界が違いすぎる。と思ってしまった。少し前までは、たまに独身の友達と会って自分の生活と違う世界の話を聞くのが楽しかったし刺激的だった。でも今、子どもとか旦那の愚痴を「わかるぅ〜〜う」って言いながら喋り合う友達との会話の方を私は求めているのかもしれない夏休みでさらにストレスが溜まりまくっている自覚は大いにある。昔好きだったカルボナーラの味も、ねぇこんなんだっけ?ってなってる。もっと美味しくなかった?


大好きな友達との会話がなんだか盛り上がらないのも気のせいではない。だからわざと昔の面白かった話をする。一緒にアウトレット行った時こんなことあったよね、夜中の12時から朝までガストで喋ってたよね山盛りポテトフライっていうメニューを注文する時「山盛りポテチョ」って噛んで死ぬほど笑ったよね。あったあった、って涙流していつまでも笑える昔話。

昔話なら、盛り上がった。


当時自覚はなかったけど、仕事もそこそこできて、スタイルが良いってよく言われて、それなりにモテて、我ながら甘え上手で、サプライズとか仕掛けるの好きで、何事にも一生懸命な自分が好きだった。
関ジャニ∞が大好きで亮ちゃんが世界一かっこよくてコンサートに行くためならなんでもがんばれて、年に3、4回ディズニーに行って、たくさんの友達といろんなことして遊んで、自分のことが好きだったし自分の人生最高と思ってた。


もちろん、大好きな夫と結婚して可愛い息子二人が生まれて、妻になり母になり、今もものすごく人生最高なのだけど。ね。毎日イライラ、小さいことにすぐイライラ、息子にすぐカッとなる、夫にすぐ不満が溜まる。桃段ボールが目につく、友達との会話の違和感、昔話でしか盛り上がれない虚しさ、ランチの後実家に息子たちを迎えに行って、車で帰宅する車内でもう息子に怒鳴った。

コロナで日常が変わって、わたしの大好きだったあの頃のエイトももういない。
何も楽しみがない、何もやる気が起きない。一時期Youtubeで筋トレ動画身漁って頑張っていたけどもうストレッチもしてない。かといって息子たちが寝て夫が帰ってくるまでのこの時間、何かしたいこともない。でも息子たちが早く寝ないとキー!ってなる。さっきキーボードのどこかを押しちゃって打つ文字が大文字のアルファベットで表示されるようになっちゃったことに今現在もイライラしながらこれ打っている。なぜ直らなaiiiiiiiiiiiiirri


何か夢中になれるものに出会いたい。生きがいと言っては大袈裟な気もするけど、子育て専業主婦ではない自分になれるものを見つけたい。学生時代から20年日記を書いていて、高校生からはネット上でもブログを書いていて、文章を読むのも書くのも好きだから最近のわたしの日常をちょっといつもと違う感じに書いてみた。それだけでもちょっと違うよね。行動を起こした私よ偉いぞ。
ほら、久しぶりにキーボードカタカタ打ちまくってちょっと楽しかったじゃん。

こうやって自分でもがきながら生きていくしかないのよね。後から振り返れば、一歳と四歳の息子たちと過ごしているこの日々も、自分にとっては眩しすぎる過去になるのは間違いないのだから。

明日死んでもいいように、なんて正直毎日そんなこと考えて生きていられないけどこのどんよりとした日常に危機感を持っているだけでもまだ私はイケる。「お母さんに見えない」って言われる、でもいい。死ぬまでにニューヨークとパリに行きたいし、りょうちゃんと会話がしてみたいし、息子の反抗期も体験してみたいし、息子の結婚式に出て産んでくれてありがとうなんて言われてめちゃくちゃに泣きたいし。


33歳、私は今このイライライフをもがきながら生きているのだ!



ちゃんちゃん


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