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ニケの翼④

 暑くて、熱かったMGC、ドーハ世界陸上が終わり、日本の陸上長距離界は駅伝シーズンに入りました。
10月の出雲大学駅伝、11月の全日本大学駅伝、そしてGMOアスリーツが初参戦した東日本実業団駅伝(ニューイヤー駅伝の東日本地区予選)は高速レースとなり、スリリングな展開となりました。
1月のニューイヤー駅伝、箱根駅伝に向けて勢いをつけたい選手たちが出場した先日の八王子ロングディスタンス10000mや、大学生主体の10000m記録挑戦会でも好記録が続出しましたが、そうした快走の大多数を後押ししたのは間違いなくナイキのシューズでした。

私も試し履きしたヴェイパーフライニットから改良が進んだヴェイパーフライネクスト%は、カーボンによる反発性がさらに増したことに加え、万人に合うようなフィット感(履きやすさ)になったと聞きます。他メーカーも遅れを取り戻すべく、カーボン素材を使用したシューズの開発、発売を開始しましたが、ナイキとの差を埋めるにはもう少し時間がかかりそうです。

ナイキの革新的なシューズのブームを見ていると、十数年前に問題となった水着のレーザーレーサー(SPEEDO社製)を思い出します。他社メーカーと契約していた選手たちが、北京オリンピックを前にして、最終的にはレーザーレーサーを着て試合に臨んだ(メーカーもそれを許諾した)点も似ています。ヴェイパーフライも発売当初はレーザーレーサーと同じく、品薄で入手が困難でしたが、ここにきて需要に供給も追いついてきて、欲しい人が買える状況になってきました(これまでのランニングシューズに比べてかなり高額ですが)。

日本陸上競技連盟のルールでは、シューズも含めて道具は『使用者に不公平となる助力や利益を与えるようなものであってはならない』と書かれています。欲しい人がそれなりに容易に手に入れて使えるようになったことで、不公平感は薄まった印象を受けます。現在、国際陸上競技連盟でその可否について審議されていますが、その点に着目すると判断は難しくなりそうです。

以前にも書きましたが、スポーツにおける道具の進化の歴史は目を見張るものがあります。そういう意味では、土の上を裸足で走っていた時代と、アスファルトやオールウェザートラックの上を反発性の高い素材で作られたシューズやスパイクを履いて走る時代とでは、同じ競技であっても全く別の競技と考えるべきかもしれません。なぜなら、勝敗の基準となるタイムや飛距離が全く違ってくるからです。
そう考えると、競技においては記録よりも勝負に勝つことの方が大切であり、また勝者になるということは、少なくともその時代のその瞬間に一番輝いていたと証明することになるのではないでしょうか。