Humans are aliens👽

2月10日、左利きの日。天気が良かったから写真を撮りに散歩へ出かけた。家の近くは割と栄えていて、ずーっと先まで行ける、片道4車線の国道がすぐそこにある。そして、その道路を少し歩いたところの大きな歩道橋が、私のお気に入りの散歩スポットだ。

歩道橋のド真ん中に立って、いつもの景色を楽しむ。線対称に広がる大きな通りを、忙しそうに走る車たちを見下げていると、自分は特別な人間なんじゃないかと思えてくる。自分もすぐにそちら側に戻るわけだけど。

パシャパシャと何枚か写真を撮っていると、
「すみません、1つお聞きしたいんですが…」
同い年くらいの男の人が声をかけてきた。
「あの…ここ良いスポットですよね。ボク、人間はエイリアンの1種だと思ってるんですけど…どう思います？」
唐突すぎる質問にただオドオドすることしかできなかった。

「あれ…？」
「え？」
「あ、ボクここでUFO見たこと何回かあって。ほら、ここって道路だけじゃなくて、周りのビルとかも、可笑しいくらいに線対称だから、そういうパワーがきっとあって。だから、てっきりアナタもそういう人かと。」
「あぁ、そういうのではないです。ここの景色が好きなだけです。」
出来るだけ早くその場を離れようとした。

無視して帰るかかなり悩んだ。だけどなんとなく、相手がドン引きするほどの熱い反論をしてやろうと思った。

思いつくままに、でも出来るだけ論理的に、言葉をつなげた。

「人間がエイリアンかでしたよね。私もそう思います。けれど、SF映画でよくある、我々が他エイリアンに支配されるようなのとは違って、人間はエイリアンの中ではトップクラスの知能を有していると思います。」
「…ほう。」
男の人は驚くことなく真剣に話を聞いてくれている。
「だって、人間がこれほど外へ行こうとしているんだから、もっと頭のいい生命体があったら、地球なんてとっくに支配下だと思いませんか？」
相手が少し顔を曇らせた気がした。
「まぁ、エイリアンが圧倒的に発展した文明を持っていて、地球人の進歩に焦って介入することもなく、心の余裕を持って外から眺めている可能性もありますけどね。」

「なるほど…。」
あまりに淡白な反応に、こんなに喋ったことを少し恥ずかしく思った。
「ボクは、地球人と宇宙人はトレードをしていると思ってるんです。ボクたちはエイリアンから彼らの技術を教えてもらって、代わりに彼らはボクらの星から人間とか動物とかを持っていく。研究のために。」
「へえー。なるほど。」
正直、なんか違うなと感じた。
「でもそれなら人間の進歩って遅すぎませんか？他の星に行けるほどの知的生命体から、高度な技術を教えてもらえているなら、もっと急速に進化するはずですよね。」
揚げ足を取るような反論をしてしまった。
「いや、彼らはボクらに与える情報を制限しているんです。ボクらの身の丈にあった進歩をするために。」
「あー。ありえますね。」

「「…………。」」

しばらく沈黙が続いた。
「すみません、変な反応しちゃって。」
「いえいえ、こちらこそ変な質問しちゃってすみませんでした。相手をしてくださり有難うございます。悪いのでこのくらいで、失礼します。」
「楽しかったですよ。さようなら。」
互いに頭を下げてから、彼が思い出したように
「ここにUFOが出るのは本当なんで、きっとさっきの写真にも写ってますよ。」
と言って早足に去っていった。

……なんて時間だ。

帰りながら、彼との会話を振り返ってしまった。宇宙人論も、個人の思想の問題なのかもしれない。互いに、思想が違うことに気がついて、自分の宇宙人観とは相容れないことに気がついて、歯車がおかしくなったのかな、とか考えてしまう。

人間同士で、日本人同士で、こんなにすぐ対話を諦めてしまうなら、宇宙人とこれだけ平和に交易できているわけがないだろう。

まったく、会ったばかりの人に何を期待しているんだろう。そして、知りもしない宇宙人にまで何を期待しているんだろう。

バカバカしく思っているのに、心の何処かでUFOが写ってないか気になって、さっき撮った写真を見返すことにした。

「ほら、UFOなんか写ってないじゃないか。」

空は綺麗な夕焼けだった。