二人芝居『トン子、なく』(30分)

『トン子、なく』作 すがの公

<あらすじ>今年で36歳、東京で漫画家をやっていたはずの瞳子が、荷物を背負って田舎へ帰ってきた。養豚業を営む兄(42歳)は愛する妹を快く迎え入れる。二人で国士無双を呑むうちに母の衝撃の事実を知る。瞳子は自分が戻ってきた訳を話しはじめる。

 SE豚の声、ブー、ブー、ブヒブヒブー、ぶうぶぶう

 豚のSEが聞こえる。
豚の声大きくなり

 暗になる

 やたら派手な妹・瞳子(とうこ)が田舎に突然帰ってきた。
ステッカーのべたべた貼ってある大きな旅行鞄。
兄は養豚業者である。

妹「、、(よし、テレビは、無いな)」

 仏壇がある。競馬新聞、ワンカップ、日本酒の瓶、タバコ
不似合いな小さな印象派風の油絵がひっそりかざってある

妹「、、父ちゃん、、、競馬新聞、ワンカップ、、変わらんなぁ」

 兄

妹「(おみやげのお菓子)これ」
兄「なんもいんだぞ」
妹「黒い恋人」
兄「黒?」
妹「黒い恋人」
兄「すごい恋人だな」
妹「黒いんだよ。すごい恋人だ」
兄「道産子でねえな」

 仏壇に備える
チーン

兄「どした突然」
妹「仕事、一区切りしてずいぶん帰って無かったからさ」
兄「ひとこと言えば迎え行ったんだ」
妹「タクシー捕まんなくてさ」
兄「こんなド田舎で捕まるわけねえべ、塚本さんか木下さん呼ばねえと」
妹「タクシー二台しかないの忘れてた」
兄「駅で澤田さん捕まえれば送ってくれっべや」
妹「だれ?」
兄「お掃除オバチャン。一日はったらいて二千円だ」
妹「いいよ悪いし」
兄「どうせ暇なんだ娘夫婦札幌転勤なったから」
妹「わかんないでしょあたしのこと」
兄「いや事務所に電話くれたの澤田のオバチャンだもの」
妹「うそ」
兄「『 テレビスター帰ってきたぞ 』って。それで俺慌くってきたんだ」
妹「沢山さんちってテレビある?」
兄「なんでよ」
妹「いや、えーと知ってっかなーって瞳子のこと」
兄「あー、テレビ、娘夫婦が持ってったってよ」
妹「(ほっ)」
兄「なんでホッした?」
妹「あ、いや、なんか着いてホッとして(まゆげが1センチあがる)。いやあ、にしても疲れた疲れた!駅からうちまでこんなに長かったっけ?小中んときの鞄持ちじゃんけんで電柱8本の刑が最高だったから、そんくらいかなあって思ってたっけ、電柱と電柱の間が長いんだわ」
兄「まー、田舎だからな」
妹「うん」
兄「いつぶりだ?」
妹「わかんない」
兄「親父の十三回忌以来でねえか?」
妹「じゃあ、二年前だ」

 15年前、父は2003年に酒とタバコで死んだ。

 SEぶうぶう

妹「?」 
兄「あ!」

 兄、庭の豚を見に走る

妹「あれで結婚して子供もいるってんだから、世の中うまくできたもんだ。それに引き換え、、」

 妹、突然泣き出す。たぶん精神がボロボロ

妹「あたしと来たら(泣)ううう!うぐうう!うぶう!うぶぶぶー!ブーブー!」

 仏壇の前に座る

妹「お父ちゃん、ちょっと貰うね」

 瓶を開けてのむ。歯で開ける。

妹「ぺっ。んぐんぐんぐ!かぁああああ!うえええ!げっ旨い!なにこれ。」

 国士無双

妹「高砂酒造株式会社純米大吟醸・国士無双あさひかわ、父ちゃんイイ酒飲んでんなぁ。
やばい、飲み過ぎたらまた記憶なくす。
あ、着信。うわ、店だ。えーっと、、、うーん、、無視」

 兄、登場。

兄「電話持ってんだら、電話すれ」
妹「繋がんないじゃん生活時間帯ちがうから」
兄「あー」
妹「メールとかしないの」
兄「手紙でいい」
妹「手紙つく前に着いちゃうからさ」
兄「電報よこせ」
妹「いまどき結婚式か葬式でしか使わんからね。郵便屋も驚くよきっと」
兄「吉田くんか。あれはいい青年だ。たまに切手買ってやらんと。年賀状まだだからな」
妹「この辺担当してる郵便局の職員の山田くんのことは知らないんだけどさ」
兄「あれはいい青年だ」
妹「なんのはなしだ?ああ、携帯買えって話だ」
兄&妹「いらん」
妹「言うと思った」
兄「仕事はどうだ」
妹「ああ、やってるやってるもうバンバン」
兄「そっか」
妹「深夜帯から昼のレギュラーもらったからかなり順調、あたしってほら個性派だから女子アナと並べてもかぶらないってプロデューサーが気に入ってくれて、他のタレントとは別にお仕事くれたりしてて」
兄「そうか良かったな」
妹「うち、テレビ無いもんねぇ相変わらず」
兄「変なのにだけは、騙されんな」
妹「うん」

 SE小さな豚の声

兄「あ、呼んだか?」
妹「え?いや、どうだろ」
兄「ちょっと行ってくる。なんか飲みもん、冷蔵庫、テキトーに、ほれ、あ、酒のむか?」

 国士無双、減ってる

兄「あれ?(軽い)」
妹「(まずい)(口笛をふく)」
兄「親父、のんだか?」

 どんと置く

兄「あ、コップなコップ」

 SE小さな豚の声

兄「呼んだな」

 兄、退場する

妹「相変わらず兄ちゃん、にぶいんだかなんなんだか」

 妹、旅行鞄から道具を出す。
えんぴつ、消ゴム、ペン軸、ペン先、インク、そして、マンガ用原稿用紙、ベレー帽

妹「よしよし。かんぺき。ふふ、ふふふ、、ふふふふふ」

 妹、電話をかける

妹「あ、もしもしレイちゃん!ごめんねぇ!今大丈夫?え今?(気配に気づく)」

 兄、コップをとりに、一瞬ふすまの向こうを通りすぎて台所(下手)へ

妹「(こそこそこそ)
兄「えーとコップコップコップ」
妹「5時。夕方の。あ、寝てた?ごめーん!あのさあ美しいレイちゃん、今日と突然申し訳ないんだがつまり、そうピンポン正解シフト代わってくれんかね。まじで?ありがとう!すまん!つきましてはさらにお願いなのだが店の方にも連絡いれてくれんだろうか?そう、瞳ちゃん腹痛でぇっすって。すんまそんー。この借りは必ず。ええ、次会った時にでも、覚えてろよこのやろう。とかつってな。ばいばいきーん。はいほーうシクヨローー。ちーん」

 電話を切ると兄いる

兄「業界用語だべ(にやにや)」
妹「え、うんと、うんうんうん」
兄「コップってなんつーのよ業界用語」
妹「ぷ、ぷうこー、かな?」
兄「はい、ぷうこお」
妹「おお、がとアリー」

 国士無双をなみなみと注ぎ合う二人

兄「はいおかえり」
妹「はいどうもどうも」
兄「いくつになった?」
妹「25、今年6」
兄「ほんとは」
妹「35、今年6」
兄「大きくなったなぁ」
妹「大きいって言うかね、老いたっつーかねぇ」
兄「そらあ俺も42になるわな」
妹「父さん死んでどんくらい?」
兄「おやじ死んで、、15年か」
妹「クリスマスね」
兄「それで良かったんだわ。酒飲んでタバコ飲んで博打して、めでたい日に死んでな」

 兄、ちゃぶ台の上の漫画の道具をいじりはじめる。

妹「どんどん親父に似てくるね兄ちゃん」
兄「そらおまえ、やってること一緒だからな」
妹「豚は順調?」
兄「ああ、豚な。まいにちブウブウいっとるわ」
妹「TPPとか大丈夫なの」
兄「おまえもいっぱしの単語知ってんでねえか」
妹「もうイイ歳ですから」
兄「なんとかなるべえ。あ、腹へってねえか」
妹「大丈夫」
兄「あとで新種、さばいてやるか」
妹「いや、豚はいいや」
兄「まだ豚嫌いだってのか?」
妹「それは克服した」
兄「反抗期すごかったもな。なんでうちは豚買ってんだよぉ!って」
妹「小学校で男子にイジメラレてたし瞳子なのにトン子って」
兄「俺も琢也なのに豚也だったな」
妹「思春期もつらいよ友達呼べないし」
兄「思春期だろうがおやじ豚養殖してんだもの」
妹「ぐれた」
兄「豚でな、はははは」

 間

妹「ちょっとなんか最近食欲なくて」
兄「ふーん」
妹「食べれないもの出てきちゃって」
兄「豚だめか」
妹「うん、ごめん」
兄「ふーん」

 間

妹「聞かないんだね」
兄「なに」
妹「いや、いろいろ、聞かないなあって思って」
兄「え?なした?」
妹「いや、別にいんだけど、気になっていなければ」
兄「なんかおまえ、うちのみたいなこと言うな」
妹「あそうだ真奈美さんと、陸くんは?」
兄「ああ、いねんだわ今」
妹「陸くん何歳?」
兄「4歳半」と立ち上がる
妹「どこいくの」
兄「なんか、つまみ」
妹「豚以外で」
兄「黒い恋人」
妹「以外で」

 兄退場

妹「普通、自分家のちゃぶ台にこんなに文房具あったら、なんか聞かないか。
そもそも、妹が突然、荷物を背負って田舎へやってきたら、なんか聞かないか」

 仏壇をみる

妹「いや、聞かないか、親が親だもな」

 カッターを出して、刃をみる。

妹「『人生博打だ。どっちでもいいけど自分で選べ』つってたなぁ」

 迷いを振り切るように、酒を呑みほし、注ぐ。

妹「、、よし」

 ペンを持ち漫画を描いてみようとする。

妹「えーーと、、、、、うううん(泣き)だめだあ、涙でインクが薄くなるぜ。ぶふう」

 SEぶた

 徐々に暗

■夜

虫の声りーんりんりーんりん

だいぶ酔っぱらってきた二人
お菓子のふくろがちらばっている

妹「だからあ、この部屋空いてんでしょ?仕事部屋にするかーって」
兄「なんの仕事よ」
妹「だからああ、えんぴつぅ、消ゴムぅ、ペン軸ぅ、ペン先ぃ、製図用インクー」
兄「はいはいはいはいだーいぶわかってきた。だーいぶ」
妹「くーも型定規ぃ」
兄「ん?わかんなくなってきだ」
妹「スクリーンとーーーん」
兄「なにとん?あ、どらえもん今のどらえもんだ」
妹「いい!もういい!マンガ用原稿用紙ぃいい」
兄「、、、、、ん?」
妹「今の答え!」
兄「まんが?」
妹「はい正解!これでこの話4回目!」
兄「あああ、はいはいはいはいやっぱ漫画家になろうと思ってって奴な。思い出した 」
妹「一度きりの人生じゃないですか?小さい時からなりたかったこと、やっぱやってみようと」
兄「テレビどうすんのおまえ、せっかく人気あんだからおまえ」
妹「もういいかなってテレビ。あたしも歳も歳だからぁ路線変更かなって」
兄「トン子はなんでもできるからな、次の夢な。少年、大志を抱け」
妹「瞳子です。芸名は瞳(ひとみ)です。風の谷のナウシカ、崖の上のポニョ、豚のうちのトン子。安易なアダ名をつけられた思春期がわかる?少年じゃねえ少女だ」
兄「瞳子はすごい。おまえはね、産まれたときからずっとね、天才」
妹「そいえばさ、小さい時さ、マンガ書いてくれたよね」
兄「ジージー書くっつってな」
妹「じーじー?」
兄「絵のこと」
妹「文字じゃなく?」
兄「なんかお前、絵と文字が一緒だったんだよな。小2でさ、ひらがなの「ふ」がさ、ふふって笑ってる女の人の顔だっつってさ、おまえの「ふ」は右向いたり上向いたりするんだよな」
妹「大丈夫かなあたし」
兄「おれ、ほんとに天才だって思ってたもん」
妹「シスコン」
兄「血だよな。うん。血」
妹「誰の、おやじの?」
兄「いやあ、あっちからは血じゃなくて、酒。俺もおやじも赤い酒がまわってますはい」
妹「じゃあ、母親?」
兄「たぶん」
妹「あたし生んですぐいなくなった母親の血かぁ」
兄「いくつんなった?」
妹「25、今年6」
兄「ほんとは」
妹「35、今年6」
兄「大きくなったなぁ」
妹「はいはい」
兄「ほんとにスゴかったんだって。これは将来すげえ女になるなって。俺は凡人だからねえ。豚を飼う。俺はねえ、おまえがなにやるっつっても文句言わない」
妹「そういってくれんの兄ちゃんだけだから」
兄「漫画な、豚の漫画、書くか。ちがうか」
妹「違うよ、ほら、SFラブコメ」

 どかんと31ページくらいの下書き原稿を出す

妹「漫画家ならこんなド田舎でもできるから。 ま、読んで見てよ。ま、というわけで、よろしく」
兄「はい、どうもシクヨロよろ」
妹「超あっさりオッケーしたけど大丈夫?」
兄「いいよ、うち広いし」
妹「奥さんに相談しなくていいの」
兄「いいよ」
妹「いいの?(時計みる)いくらなんでも遅くない?女房と子供」
兄「ふふ、ふふふ、、ふふふふふ」
妹「なにこのわらい」
兄「発表があります」
妹「なに」
兄「別居中」
妹「ええええええええええ」
兄「言われたことないだろうなお前」
妹「なんて?」
兄「『また豚?!』?」
妹「言われたことない」
兄「にこりともせず、目を見開いて、真っ黒な瞳で、まゆひとつ動かすことなく」
妹「『また豚?!』」
兄「言われたことないだろ」
妹「ないです」
兄「、、こっちは仕事だってのになぁ。はははははは」
妹「、、、ちょっと、大丈夫?」
兄「、、、」

 SE豚 ぶひぶひ

 兄、すごい早さで飛び起き、豚のとこへ行く

兄「はい!ぶたさん!はい!はいい!」
妹「、、、(タメイキ)、、まじか」

 再び、手酌

妹「だめだ、どんどん言うタイミング逃してる。つーか逆にあっちのダークな話、聞いちゃった」

 SEぶひぶひ

妹「事務所にまで、つれてくんなよ、豚」

 ちゃぶ台で寝る。

 音楽がかかる 

 兄、ちゃんちゃんこをもってきてかける。

 少し電気を落とす。
赤外線ヒーターをかける。
読書灯をつけ妹の漫画を読む

■夢

妹の声「私は夢で漫画の続きを観た」

 大きなお腹の妹がいる
兄が応援している。
しかし豚が鳴く
ひとりぼっちになる妹
男が帰ってくる
妹が子供を生む
赤ちゃんの服を脱がせると豚である。
二人と一匹、幸せに暮らす。
宇宙船にのってどこまでもいく

 以上、夢の内容がダンサブルに繰り広げられる

■おやじの手紙

 真夜中月明かりが差している

妹「うう、、、すげえ夢みた。吐きそう」
兄「いくつになった?」
妹「だから35、今年6」
兄「もうイイとしだもな」と立ち上がり
妹「老いたっつーかね。ってコレ何回目?」
兄「どこいったかな」
妹「なに」
兄「親父が、瞳子がイイ歳こいたら見せれって、写真」
妹「写真?」
兄「あった」
妹「なんの写真?」
兄「ん」

 妹、写真を受けとる

妹「なんか超緊張するねこれ。すっげえなんでもねえ写真だったりして。みていい?みるよ?」

 妹、見る

妹「あれ?」
兄「うん」
妹「あたしじゃん」
兄「な」
妹「こんなん撮ったっけね?にしても古くない?あれ?でも赤ちゃん持ってる。あ、後ろにもひとり隠れてる。男の子。あれ?なんだこれ?まてまて、どういう写真だこれは」
兄「それな」
妹「待った!だめ!言わないで」
兄「、、、、」
妹「、、、あたしじゃんこの赤ちゃん」

 夜の音

兄「なんでいなくなったか聞いてたか」
妹「知らない」
兄「外国行ったんだ」
妹「、、なんで」
兄「留学」
妹「なんの」
兄「絵」
妹「、、」
兄「フランスだと」
妹「、、まじ?」
兄「まじだ」
妹「すげえやつだった?もしかして」
兄「たぶん。チャンスだったんだって」
妹「、、、、芸術家。」
兄「でも親父養豚始めたから」
妹「、、もしかして、、、生きてる?」
兄「かもしれん俺も親父死ぬまでは知らんかった」
妹「なんでそんとき教えてくれなかったの?」
兄「フランス行くとか言うと思って」
妹「、、言ったかもしれないけど」
兄「おやじが、つうか俺がきめて、おやじに言った」
妹「言わなかったかもしれないじゃん!」
妹「勝手に決めて!15年も!?」
兄「すまん」
妹「あたし、たぶん男と駆け落ちしたんだろうって15年も!」
兄「、、、、」
妹「勝手に決めてさ。勝手に任せてさ。
相談したくないだけじゃないの?
そんなんだから奥さん出てったんじゃない?」

 間

兄「ふふ、ふふふ、ふふふふふ」
妹「なに?」
兄「離婚届」ケツポッケから
妹「ケツポッケにいれんなよ!うおおおペラペラだ。初めて見た!ごめん盛り上がっちゃった!」

 妹、名前の部分をみる

妹「ちょっと!!これハンコ押してある!しかも両方だ!合意!? 」
兄「俺が出せば、おしまいだな」
妹「陸くんは」
兄「、、、どうかな」
妹「親、居た方良いじゃん」
兄「わかってるけど」
妹「けどなに」

 SEぶひぶひ

兄「豚が」
妹「今いいじゃん!!」
兄「でも」
妹「でもじゃねえわ!!!!!」

 うでをまくる。

妹「見てこれ!」

 キズバンと包帯の巻いてある手首っつーか腕

兄「けが?」
妹「今、めっちゃ母親に聞きたいことあるの!みて!」

 妹、旅行鞄からたくさんの『たまごくらぶ』『ひよこくらぶ』出産についての本、ばらまく

兄「、、これ」
妹「きいて」

 SEぶひぶひ

妹「あのね、、」

 兄、逃げるように退場

妹「聞けよおおおおおおお!!!!!」

 また、酒に手を出す
今度はラッパでごっくごっく行く。

妹「タバコも吸ってっし、たぶんアル中だし、精神そこそこ病んでっし、
母子家庭決定だし、私生児って言葉、この前知ったし
もう決めなきゃいけないギリギリなの。
どっちにするにしても。
次に病院行くときはどっちかなの」

 兄、戻ってくる。

兄「わるい」
妹「、、、、、、」
兄「なんだっけ」

 沈黙

妹「もういいよ」

 妹、脱力する

妹「漫画なんか無理くり思い付きだから。
やんなっちゃったんだよね。
男に逃げられたから田舎に逃げてきただけだよ。
つかれちゃったんだよね。
テレビスターなんてバカにしてんだわ澤田のババア
あたしテレビなんて出てない。
夜、すすきののショーパブで怪しげなホステスまがいのホールスタッフしてんだよ。
一回深夜番組で取り上げられた時に隅っこに映ってたっけね。
2LDKのすすきの近くの市電沿いのアパート。
職場まで歩いて通えるし、冷暖房もついてんじゃん、しかも都市ガスじゃん。
これで二人なら安いねって借りたのが6年前。
でもひとりだとほんと寒くて。
兄ちゃん、あたし酒呑むペース異常でしょ?まいにち記憶をなくすんだよ?
兄ちゃん、これなんの怪我かピンと来ないなら傷口見る?
兄ちゃん、たまごくらぶってなんの雑誌かわかる?
兄ちゃん、兄ちゃん、兄ちゃん、
話、聞いて欲しくて実家帰って来ただけよ。
あたし、天才でもなんでもない
もういいよ」

 沈黙

兄「にげてたんだな、、、しなきゃいけない話から 」
妹「それ、真奈美さんにもいいなよ」
兄「、、すまん(泣く)」
妹「おにいちゃん」
兄「すまん」

 大団円な予感。
しかし。
豚が。

 SE豚。ぶひーぶひぶひー

兄「あ!」
妹「え?!」
兄「いや」
妹「嘘でしょ?!」
兄「なんだその目は」
妹「まさか本気?」
兄「やめろ!やめろ」
妹「また豚?!」
兄「あああん?!」
妹「妹と豚!どっちが大事!」
兄「おまえも言うか!」

 妹、無様にぶっとぶ。ふすまに刺さる妹。

兄「あ」
妹「ううう」
兄「そんじゃ、、、どうすりゃ良いんだ!」
妹「、、」
兄「俺だってなあ!考え付く限り、一生懸命、、やったんだ。 勝手に、、いなくなりやがって 」

 SE豚。ぶひーぶひぶひー

兄「あ」
妹「、、、行けよ!」

 兄、豚に走る
妹、ひとりになる、自己嫌悪

妹「あたし、、ひどいことばっか言って、、、あたしほんと悪い子だああ!!
ぶふ、ぶうう、ぶううううふふうふうう」

 豚のように泣く妹。

 SE豚。ぴぎゃー!ぴぎゃぶーー!

妹「?なにしてんの?殺してんの?!ちょっと!あたし、お腹いっぱいだから!」

 兄、走ってくる。血まみれのゴム手袋、血まみれの腰巻きをしている。

妹「やめてよおお!」
兄「もっぴきいるから」
妹「は?!」
兄「手伝え!生まれる!」
妹「え?」
兄「もっぴき!へその緒、からまってんだ。なんか!刃物!」

 兄退場

妹「刃物?」
兄「なんでもいい!お湯で煮れ!いや、火であぶって!」

 妹、鞄の中からカッターを取り出し

妹「、、、、」

 意を決して台所(下手袖)へいく

兄「よーしがんばれ!がんばれえ!トン子!がんばれ!」

妹「あち!!」
兄「なした!」
妹「へでもねえ!」
兄「トン子!がんばれ!」
妹「うりゃあああ!!」

 まるで男を刺すかのように
台所からトン子のもと(上手袖)へ走る、元トン子。

 音楽

■大団円

 朝、ちゅんちゅん、ちゅんちゅんちゅんちゅん

 妹のびをしながら登場

妹「あたし、明日帰るね」
兄「見た?ぶたの赤ちゃん」
妹「ちゃんと見たのもしかして初めてかも」
兄「な」
妹「かわいかった」
兄「でもな、(食べちゃう)」
妹「言うな!」
兄「はいはいはい」
妹「ねえ、風呂はいりたい」
兄「わいてるぞ」
妹「やった」
兄「夕方ちょっと食事会するからおまえもほれ、手伝え」
妹「なにを」
兄「説得と子守り」
妹「おお、素早い」
兄「手遅れになるまえに」
妹「なんか、やだけど頑張る」
兄「お願いします」

 母親の絵を手にとり

妹「ぜったい誰の趣味でもないと思ってたんだ」

 じっとみつめ

妹「フランスへ、聞きに行く金、あてもなし」

 仏壇に

妹「人生博打だ自分で決めろ。、、、わかんなくなってきた」

 酒を手にとる。
歯でこじあける。

 ポンっ

妹「、、、、(泣)」

 歯で栓を噛んだまま

 鈴をならす
ちーーーーーーーーん

 SE豚がぶひぶひひ

兄「おい天才」
妹「う?(泣)」
兄「面白かったぞコレ」

 豚ぶひぶひぶひ

兄「だからちょっと手伝え」
妹「、、、」

 妹、国士無双に蓋をする

 ポン

 音楽、照明
トン子、ベレー帽をかぶり
豚の世話をしにいく

<了>
2015年3月
『GATCHA』という劇の中の二人芝居部分。

たくさん台本を書いてきましたが、そろそろ色々と人生のあれこれに、それこれされていくのを感じています。サポートいただけると作家としての延命措置となる可能性もございます。 ご奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。